海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《ロシアの復活祭》覚書その2~楽譜編

2020年02月17日 | 《ロシアの復活祭》
覚書その2は《ロシアの復活祭》の楽譜について。
ネットで調べるとこの作品の様々な楽譜が出版されているようですが、ここでは私が所持している3点をご紹介しましょう。

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一つ目はオーケストラのポケットスコア。
おなじみ黄色のオイレンブルクから出版されているものですが、ありがたいことに全音から日本語版が出ています。
作曲者自身が付けたプログラムや解説が日本語で直接読めるのがいいですね。



このオイレンブルクのスコアの解説文、というか最初と最後の数行以外は丸ごとリムスキー=コルサコフの自伝における《ロシアの復活祭》該当部分を引用しただけの代物ですが、この部分はかつて日本で出版されていた彼の自伝の邦訳版ではカットされてしまっていた内容なので、この楽譜で読めるのはむしろ好都合。
解説文(?)の執筆者の手抜きなのか、「テキトーな解説を書くくらいなら自伝を引用するほうが価値がある」との信念に基づいてのことなのかは不明ですが、いずれにせよ、この作品の作曲者の意図が直接読み取れるという点でこの楽譜はオススメできます。

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二つ目はピアノ連弾用に編曲された楽譜です。

覚書その1で少し触れたように、《ロシアの復活祭》のピアノ編曲版は作曲者自身の手によるものではありませんが、この四手版(編曲はロシアの作曲家・ピアニストのシギズムンド・ブルーメンフェルト〔1852-1920〕。作曲者の弟子)と、後で紹介するピアノソロ版ともどもリムスキー存命中にベリャーエフから出版されているので、いずれも作曲者公認とみてよいでしょう。
私の持っているこの楽譜が、1890年の出版当初時のものか、のちの復刻版なのか判りませんが、いろいろと味わい深いものなので少し詳しく見ていくことにします。

まず表紙。昔のベリャーエフの楽譜ではよく見かけるデザインで、飾り枠の中にタイトルや作曲者名などがロシア語とフランス語とが並記されています。
ちなみにこの曲のロシア語でのタイトルは「輝かしい祝日」で、「ロシアの復活祭」は俗称みたいな言われ方をすることがありますが、フランス語では写真のとおり「(大いなる)ロシアの復活祭」となっていますから、別に間違いということでもなさそうです。



一枚めくると色鮮やかな扉が登場します。表紙がモノクロで内側がカラーとなっているのは当時の装丁のやり方なのでしょうかね。



幾何学的な美しい文様に教会スラブ語というのか、古めかしい書体でタイトルなどが記載されています。
注目したいのは、中ほどにある2行の楽譜。
その上に「オビホードからの主題に基づく」とあり、譜例として2つのメロディが挙げられている形です。
一つ目がこの作品の冒頭の主題、二つ目が中間部の優しい感じの旋律です。
これら聖歌から引用されたという主題については改めて触れることにしましょう。

もう一枚めくると、手書きの文字が。



こちらもロシア語とフランス語の両方で「ムソルグスキーとボロディンの想い出に」と書かれています。
確証は持てませんが、筆跡の感じからしてこれはおそらくリムスキー=コルサコフ本人の自筆(の印刷)だろうと思われます。
そういえば《ロシアの復活祭》は亡き友人ふたりに捧げられた作品でしたね。

さらにめくると、この作品のプログラムです。



やはりロシア語とフランス語との並記です。
面白いのが上段のロシア語の部分。
《ロシアの復活祭》のプログラムは3つの部分からなっていますが、はじめの二つは聖書からの引用で、書体も古めかしい教会スラブ語らしき文字で記されているのに対して、作曲者自身が書いたという三つ目の文章は、普通の(当時の)書体になっています。
別に全部の書体を統一すればいいのにと思ったりもするのですが、律儀というか、聖なる文章と俗世間の人間の書いた文章は区別しなければならないといった決まりでもあったのでしょうか。
フランス語はすべて同じ書体なのですけどね。

その次からようやく楽譜の本体部分となります。
四手ですから、見開きの左側が第二奏者、右が第一奏者の譜面となってますね。



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三つ目は、ピアノソロ編曲版です。



同じくベリャーエフからの出版ですが、先ほどの四手版に比べると装丁はあっさりしたもので、こちらはフランス語のみの表記。
中身もプログラムが四手版と同じものが掲げられているほかは、これといった特徴はありません。



ただこちらは覚書その1で触れたように、YouTubeに演奏されたものがアップされていますので、ピアノが弾けなくても楽しめるという利点はありますね。
四手版の演奏も聞いてみたいのですが、残念ながら今のところは録音等はなさそうです。