kirekoの末路

すこし気をぬくと、すぐ更新をおこたるブロガーたちにおくる

シナリオ【再会】-6

2006年11月20日 16時56分18秒 | NightmareWithoutEnd
PM10時47分 ガイア1F 東通路


薄暗い夜の闇を背景に電灯が煌々と光る東通路には
次第に白衣を着たここの研究員であろう死体の破片と
おびただしい血液が、通路中に縦横無尽に広がっている。
それはまるで血液のプールのようであった。



パシャン!パシャン!パシャンパシャン!



隊員達が走るたびに血液が跳ね上がり、一歩一歩と踏み込むたびに
嫌な水滴音がなり、黒塗りのブーツは赤紫色で染めていく。


東通路の行き止まりに差し掛かり、警備員詰所へと移動しようと
続きの別の通路へと進路を変更した。


PM10時51分 ガイア1F 共通周回通路


ガイアの周回を描くように長く伸びた通路へと出た隊員達は絶句した。
そこにはさっきであった異型の狩人に為す術も無く獲物が
『狩られた後』があった。

そう。
絶望と呼ぶに相応しい、まるで地獄のような光景が。


「・・・・・!」
目を疑うような赤紫色の血液の絨毯が目の前に広がり
先頭を走っていたパッショーナとレンは思わず歩みを
止めてしまった。

彼らが見たもの。それは…

衝撃で首と胴体が変形した死体や、上半身だけ化け物に
食われてしまったように通路の真ん中に転がる下半身だけの死体、
その横の死体は必死にファイルを抱えながら
もがき苦しんで死んだ表情の人間の体は肩腕と片足が融解しており
激痛のためかプラスチック製のファイルがひしゃげている。
数十人以上の人間が壁にたたきつけられて内臓が口から飛び出し
まるで抉り出されたように頭部がグシャグシャに叩き潰され無くなり
脳漿をあたりに飛び散らせ、ぐたりと床に倒れた死体の上には
首から放出された赤紫の血が
まるで美しいタペストリーにように壁に打ち付けてあったのだ。



「…ば、ばけものめッ!」

「…今ここで立ち止まることは出来ない、全員前進だ!」
焦りの表情を浮かべるパッショーナに対して
レンの冷静な判断の声が全員に渡る。

隊員達は、その凄惨な狩りの後を目の当たりにしながらも
躊躇せず、足を止めずに走り始めた。


よく見ると壁や床には、所々クレーターのような大きな掘跡が出来てあり、
別の場所には、ただれるように金属で出来ているはずのドアが
融解しているところもある。

そこら中に散乱した赤褐色の妙な水滴が、おびただしい血液と交じり合い
ジュワジュワと泡がたち、蒸気となって空気中に噴出されている。
その泡から放出される蒸気が、とてつもない腐臭が通路中に漂っていることから
どうやらあの蛇の化け物の吐き出したものようだ。


「ひ、ひでえな・・・」
通路を走りながら耐え難い腐臭と
余りにも凄惨な光景にフィクシーが声をあげる。


「ああなりたくなかったら早く走れ!」
Aチームのパッショーナが目の前に広がる光景に目をそらしつつ
ドアについているプレートをチェックしながら走っている。
その声と走る素振りから、必死さが伝わってくる。
どうやらレンの提示した下の階層への入り口である
警備員詰所を探すのに、血眼になっているようだ。


「パッショーナ隊長!後続との連絡は!?」
Aチーム所属であるレナが先を走る隊長に注意を促す。
これから1Fへと突入するかもしれない空挺部隊のE・Sチームに
不死身の化け物がいることや、エレベーターが動けないこと
現在位置や、兵員の損失などの情報を渡せば
なんらかの別の手段で突入条件などを言い渡してくれると思ったからだ。


しかし、パッショーナは焦りの表情を浮かべ、こう言った。


「そ、そんなものは後でも出来るはずだ!今は下の階層に行くことだけを考えろッ!」


「は、はい・・・」
大きな声をレナに向けて言い放つとパッショーナは再び前を走りはじめた。
不思議そうにしぶしぶ引きさがったレナの表情など見る間もないほどに。


しかし、パッショーナを必死にさせていたのはそれだけではなかった。




「…(この俺が化け物相手に怯えているだと…!?くそったれッ!)」



純粋な化け物への恐怖、目の前で部下を殺されて
憎しみよりも先に恐怖が先立ってしまっていたのだった。
目の前の凄惨な光景がパッショーナの心を煽るように
絶望への導きに一層拍車をかけるようだった。


その時だった。
銃声と奇妙な爆発音が西通路のほうでけたたましく鳴り響いたのは。


先頭を切って通路を走る、Aチーム隊長のパッショーナ。
その後を追う同チーム隊員のレナとDチームの隊長レン。
最後尾を走りながら、しきりに後ろを確認し
周囲を警戒しているフィクシー。
その前を走る貴美子とケリー。

全員に今の音は聞こえていたが、何も言わず再び走り出した。
その銃声と爆発音が何を意味しているのか
音を放っている者がこれからどうなってしまうかを
目の前の凄惨な光景を見ていた全員は感じてしまった。
どうなってしまうかを…知らざる負えなかったのだ。



「・・・(綾香・・・)」
貴美子の隠し切れない不安は表情に表れ始め、走りながらでも
その体が小さく震えているのがわかる。


「貴美子しっかりしなさい!走るのよ!もっと早く!」
ケリーは、震えているそんな貴美子の手をギュッと掴み
貴美子が後ろを振り返り立ち止まりそうになるたびに
何度も力の限り、グイッと手をひっぱり我に返そうとしている。


「…今度は…死ぬかもね…」
誰にも聞こえないような小声を貴美子に聞こえないように呟くと
ケリーは再び走り出した。


黒塗りの柔軟性のありそうな皮製のブーツが
床をけたたましくけりあげると、パシャンと跳ねるような音が
通路全体を包んでいった。



PM10時56分 ガイア1F 西通路

フシュルルルッ・・・フシュゴァアアァ・・・


怒声とも思えるヒュドラの咆哮が聞こえると、通路に大きな影がうごめく!
Aチームの隊員や綾香、パイのUZIカスタムなどに
今まで相当量の弾丸を食らったためか
姿全体はもはや人間というより無機物アメーバーのように
なっていたヒュドラが、その巨大な九つの蛇の首を振り回し、
通路の真ん中にUZIカスタムを構えているパイに向けてゆっくりその巨大な体を
引きずりながら、突撃をしかけてくる!


「形は変わっても動きはノロマのようだな…問題は『アレ』か…」
パイは徐々に通路から迫ってくるヒュドラを冷静に観察していた。
視線をヒュドラから伸びている蛇の首に向けるパイ。
あの太くて長いロープのような首は、人間を丸呑みにするほど獰猛で
うっかり首の射程内に進入すれば、先ほどのAチームの隊員のように
とんでもない怪力で絞め殺されて捕食されてしまうだろう。

そしてさっき放ってきた金属を融解させるヒュドラの酸化液体。
現在、唯一のスキであるアメーバー状態ヒュドラのスピードの遅さを
カバーするように、パイとの間合いを牽制するには
十分なほどの威力を持った武器であったからだ。


ズズズ・・・!ズルズル・・・!


重苦しくてそれでいて重厚な音が通路に響く。
アメーバー状のヒュドラのその質量を語るには十分すぎるほどの
威圧感のある音が嫌がおうにもパイの耳へと伝わってくる。


「…」
その威圧感ある音に表情を歪ませること無く
冷静さを保っていたパイは、引き続き観察を続けていた。
しかし、じっくりと見ている場合ではないことはパイが一番良くわかっていた。
なぜなら後ろには負傷した綾香がいる壁があるからだ。


『間違って化け物の酸化液が綾香のいる壁に当たったら…』


背筋が一瞬ピンと張り詰めるような気分だった。


化け物の金属が融解する酸化液がどんな強さかは
大まかにしか記憶していないが、さっき放った酸化液の威力からいって
壁ごと綾香を殺すことくらいのことは出来るだろうとパイは確信していた。


フシュルルルッ!


「ちっ!考える暇は無いか…」

だんだんと近づいてくるヒュドラに対し、パイは姿勢を保ったまま
手に持ったUZIカスタムをトリガーをうまく指きりによって調節し
単発で箇所を変えてヒュドラに向けて射撃した。


ダンッ!ダンッ!ダッ!ダッ!


銃声は通路を反響させ、銃弾は虚空を真っ直ぐにヒュドラの蛇の首
アメーバーとなっている半身の部分、かすかに残っている蛇の首の根元部位に
それぞれ急激な速度と共に飛んでいった!


フシュ・・・フシュルル・・


ボンッ!・・・ジュワワ・・・

銀色の弾丸がパイの狙い通りの箇所を捕らえるが
弾丸はヒュドラの体内に沈んでいき、小さな爆発を起こし蒸発する!
半透明なアメーバー部分に当たった弾丸に至っては
弾丸が溶解する光景までが鮮明にパイの目には映っていた!

そしてヒュドラは、声をあげることもなく
静かに九つの蛇の首をニョロニョロと散開させて、
弾丸が当たったところに首を集中させ始め、
うずくまるような格好になっていた。


「少しは食らっているが…」
パイは弾丸が当たったところを蛇の首で庇うようにする動きからして、どうやら
少なからずだがCBSF特製の特殊弾薬によるダメージもあるようだ。
今ので空になったマガジンを、パイは即座に入れ替えると
化け物の様子を見つつ、胸ポケットに入っているナイフを取り出す。


フシュルルル・・・フシュルルル・・・


ヒュドラは湧き上がる蒸気と共に醜悪な匂いを放ちつつ
むくりとその息を吹き返すように首をぴくぴくと動かし
再び体制を整えるとその巨大なアメーバー部分をズシリと
ナイフを構えるパイのほうへ向けて進み始めた。


「やはりな…!奴に弾丸は有効ではない…しかし間合いに飛び込むにはあの蛇の首を突破しなくてはならないな…」
今までのヒュドラの行動や、攻撃の受け具合を念頭において
より的確な戦闘方法を選択していくパイ。
いくら訓練で過酷な条件の戦いに慣れているとはいえ
相手は弾丸の利かない新種の化け物。
思考をフル回転させるものの、いい答えは浮かぶはずも無い。


しかし化け物はいつの間にかアメーバーの半身部分への
蛇の首でのガードを解き、獰猛な蛇の首の先端をパイのほうへ
向けると共に急激に首を後方へ仰け反った!


ウシュルル・・ゴォォォォォ!!!


「ッ?!しまった射程内か!!」
ヒュドラの空気を飲み込むような奇妙な吸引音が聞こえるとパイは
何かを覚ったかのように通路の右側に向けて思いっきり飛んだ!


ギョババアッ!ギョバアッ!


ヒュドラの蛇の口から半透明の液体が放たれる!
空気に触れた液体は赤褐色となり、放物線を描くと
さっきまでパイがいた床へと叩きつけるような音と共に落下する!


…シューッ…ジュワジュワ…


ヒュドラから放たれた液体はしばらくすると、
硬そうな物質で出来ていた床をまるで熱くただれた溶岩のように
瞬時に液化、融解させる!


「あ、危ないところだった………チッ!とんでもない化け物だ!」
壁に倒れむように飛んだパイだったが、なんとかそのまま体勢を立て直し
すでにヒュドラとの距離を保ってUZIカスタムを構えている。


フシュルルルルッ!!!


奇妙な怒声とも思える咆哮をあげると、ヒュドラはパイのいる壁に向かって
移動し、いつの間にか壁際に蛇の首を忍ばせて迫ってくる!
そして液体を口から放ったとは違う蛇の首が、パイ目掛けて突っ込んでくる!



「このパイ=ドォンカをなめるなよ化け物め!」
そういうとパイは、急速に接近してくる蛇の首に対して
体を回転させて蛇の首の下にもぐりこみ、流れるように
ナイフを逆手で蛇の喉元へと突き立て流すように切り込む!


「噛む相手を間違ったな!蛇野郎!」
さらにパイは右手にもったUZIカスタムのトリガーに手をやると
銃口を上に向け、蛇の喉元目掛けて特製弾丸を2、3発発射する!


ダンッ!ダンッ!ダンッ!


ウギョッァァッォォォォ!!


切り開かれたむき出しの内部に特製の炸裂弾丸を撃ち込まれ
怯んだと同時に絶叫を上げるヒュドラの蛇の首!
それと同時に突き刺さったナイフを瞬時に抜き払い
再び接近する蛇の首を避けるために華麗なバックステップを決めるパイ。
まるでその動きは、舞の達人が変幻自在に動作を変えるように流麗であった!


ズズッ・・・ズゥゥゥゥン!


赤褐色の液体を流しながら蛇の首はその生命力を失うようにぐったりと
その場に重厚な地響きをたてて沈む!


シュルシュルーッ!!シュルッ!!


しかし、一本目の蛇を倒したのもつかの間
もう一体の蛇の首がパイの足を捕らえるように突撃してきた!


ウジュルルルルルッ!


「フッ!さっきまでよく観察させてもらったからな蛇野郎!次はここだろうッ?」
パイはそういうと、目の前にいるヒュドラのもう一つの蛇の首が迫ってくる
ことに勘付いていたかのように再び体を反転させ、その場で大きくジャンプすると今までパイがいた場所に蛇の頭がちょうど出現し
パイはニヤリとその光景を確認すると、落下速度も威力に加え
左手のナイフを思いっきり蛇の頭に突き立て!切り裂く!


シュルシュル…!


「次はここッ!」
刺したナイフの下でぐったりとしているヒュドラの蛇の首を逆手にして
持ち上げると、まるで自分の盾として使うように前に差し出し
再び迫ってきていた一体の首に噛ませた!


ダンッ!ダンッ!


ウジャアアアアア!!ウジュ・・・ウジュルル!


噛ませた蛇の首目掛けてUZIカスタムの弾丸を放つと
ぐったりとなった蛇の首に刺さったナイフを抜く!


ブシュッ!ザグシュッ!ボタボタッ!ボタッ!


けたたましいとも言える、その蛇の首から落とされる大量の血液の音は
床を鳴らし、通路に君の悪いヒュドラの絶叫がこだました。



「フンッ、どうした化け物!それで終わりか!?」
その場でクルッと左へ回転したパイは、ナイフを思い切り握り締め
痛覚に震えているアメーバーの本体を見て、蛇の首がガードしていない
露出したヒュドラの顔面部分に目掛けて放った。



ザグシュッッッッッッ!!


放たれた鋭利なナイフは、直線を描きヒュドラの本体の人間でいう
顔面の露出した部分にヒットした!



グギャアアアアアアア!!


今までにあげたことの無いような物凄い大音量の
絶叫を上げるヒュドラを取り囲むように蛇の首がジタバタと
その場の壁や天井にのた打ち回る姿がパイの目に移る。



「…そこが弱点かッ!!!」


パイは大声をあげると、右手に持っていたUZIカスタムを両手で
しっかりと狙いを定めるように固定し、トリガーを全力で押し出した!



ダダダダダダダダダダダッダダダッダダダダダダダダッ!!!



放たれた銃弾は爆音を上げるとヒュドラの露出した顔面の部分を中心にして
ありったけの弾痕を残しヒュドラの体内を貫通し、炸裂し!爆発した!



ギョガアアアアアアアア…!


ブシュッ・・・ブシュッ・・・ジュワワワワッ・・・!


最後の断末魔をあげるとヒュドラは崩壊するように
その場にドスンと大きな音を立て沈んだ。
アメーバーの半身は見る見るうちに固体でいることを辞め
醜悪な褐色の液体を床にぶちまけて、広がっていく。
その際に酸化液の元であるものも同時に流れていったらしく
床の液体がジュワジュワと勢いよく蒸発していくのがわかる。



「終わった…もう蛇は見たくないな…」
パイは崩れ去るヒュドラの肉体を見つつ、ぐったりと
その場に倒れる蛇の首にどことなく安堵の表情を浮かべ
綾香の待つ壁へと歩き出した。


あたりには溶液がけたたましく蒸発するヒュドラの死骸と
UZIカスタムから放たれた弾丸が放つ硝煙の香りが
ガイア1Fの西通路全体を静寂と共に包み込んだ。


タッ・・・タッ・・・タッタッ・・・


綾香のいる壁へと移動するパイの胸には
何か達成感と同時に恥ずかしさに似たものが宿っていた。
『仲間を見捨ててでも先へ進む』といっていた自分が
真っ先に『仲間を助けた』事実は、彼女の胸の中に
何かムズ痒いものを感じさせるのには十分な出来事であった。


-数分後-


壁に横たわる綾香の傷口を消毒し応急手当をしながら
パイはぼそっとつぶやくように言った。


「…いつまにか忘れていたな、自分にもこんな感情があることを…」


傷つく綾香にその言葉は聞こえていなかっただろうが
どこかぬくもりを感じさせるパイの手は、化け物への
憎悪だけで戦っていた自分の冷えた心に十分すぎるほどの暖かさを感じさせた。



この死者と化け物だけが徘徊する、この闇の巣窟で
硝煙の匂いと化け物の悪臭のする、この冷たい通路で
生命在る物のみが持つ『ぬくもり』に綾香とパイは
久々にお互い【再会】を果たしたのであった。


限りない絶望が漂う悪夢も、必ず覚めると信じて。


シナリオ【再会】-終了ー