kirekoの末路

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シナリオ【贖罪】-1

2006年05月29日 23時04分33秒 | NightmareWithoutEnd
PM7時51分 ロストレギオン地下鉄道-プラットフォーム-


薄暗い線路から出てきた『悪夢の断片』を倒した
Dチームの面々は、その後ホームへとやってきた
C・B・S・F専用の二両特殊鉄道へと、
それぞれの気持ちを抱えながら乗り込んでいった。

しかし、Dチームの表情は崩れることなく張り詰めたままであった。

初めての『奴ら』との戦闘。
予想もしなかった化け物との遭遇。
先行したAチームの安否。
これから出会うであろう悲惨な現状や、そこに巣食う化け物たちへの不安。


グゥン!・・・グォングォン・・・・!!


全てを乗せて車両は大きな駆動音を立てて走り出した。




PM7時55分 ロストレギオン地下鉄道-特殊車両内-


車両の内部は、重厚なチタンの板で何枚も覆われ
何人たりとも近寄らせない、圧迫感をかもし出している。
列車窓は、強化された金属製の枠に囲われ
クリアで強固な強化ガラスが、枠にガッチリとはめ込まれている。
化け物対策なのであろうか?前の運転席で黙々と運転をこなしている
運転手の隣には、ショットガンであろう二挺の銃器が並んでいる。


「随分物騒な物持ちだな。まるで『ココ』で化け物との遭遇が予見されてたみたいじゃないか」
フィクシーが寡黙な運転手の横においてある銃器を見て
皮肉めいた一言をつぶやく。


「少し黙らないか。危うく死ぬところだったんだぞ」
レンは軽口を叩くフィクシーに、釘を刺すように言うと
車内を眼を凝らし、見回してみる。

車内には、細長い小型のプラスチック製のコンテナが数十個と、
おそらく重火器類が入っているであろう木製のコンテナが4つあり。
それぞれのコンテナには、白いテープが貼られ
無造作に置かれている。


「・・・銃器か」
細長い小型コンテナを見ていたパイがつぶやく。
白いテープには、自分達が先日C・B・S・Fにて発注した
自らの気に入りの銃器の名前が少し手馴れた感じの黒色の筆跡で
刻んであったのだった。


「勝手に取って自分で組み立てろってコトね。まったくわかりやすくて涙が出るわ」
お得意の皮肉を言いながらケリーは自分の愛銃器
半自動装填散弾銃『べネリM4 スーパー90』の入った
小型のプラスチックコンテナを開け、手馴れた具合で様々な
機材を取り付けていく。


「幸先の悪いスタートですね、ケリーさん」
先ほど化け物に襲われたことを思いだしながらケリーの方を向き
自分の愛銃器『FN P90』をプラスチックコンテナから
取り出し戦闘準備を始める貴美子。
その落ち着いた口調には、さっきまでの恐怖心は無かった。


カシャッ。


「そうね幸先は・・・相変わらず最悪だわ。運が無いのかしら私」
べネリM4スーパーに周辺機材をつけながら
手を動かす事を辞めずに貴美子に答えるケリー。
その手馴れた動きや仕草は、流石元アメリカのエージェントと
いったところだろうか。素早く機材を組み立てながら
その口調は衰える事はない。



「くだらない悩みだな、なぜもっと現実的に物を捕らえられんのだ・・・」

「くだらないとは何よ、運は必要だわ。どんなときもね」
愛銃『タボール AR21』を組み立てながらケリーを挑発するような
言葉を吐くパイに対して、ケリーは相変わらず好印象では無い
このチームメンバーに対してムッと表情を固めながらも、
それを我慢し、少しやんわりとした口調で言葉を返す。


「運が必要?・・・お前、さっき見なかったのか。あの化け物の姿を」

「見たわ・・・だから何よ」
さらにケリーを挑発するかのように、ケリーの言葉尻を捕らえ
声を低く、それでいて荒く吐き出すようにパイは言った。



「これから、あんな化け物がウジャウジャ出てくる所に行こうっていうのに
運が無いだの、何だのと軟弱な考え方で生き残れると思うか?それとも強運の持ち主なら化け物に囲まれても生き残れるのかな。そんな笑い話に付き合えるほど私は甘くないぞ」

「ふんっ、なによ。私はただ世間話をしてただけのこと。なのにアナタったら、そんなことに揚げ足をとっちゃって。アナタ相当の変人ね。それに、アナタみたいな考え方じゃ息が詰まるのよ。そのうち詰まりすぎて窒息死しちゃうわね」

まるで挑発を挑発で返すように、
ケリーの怒気を含んだ口調が車内中を響かせる。
パイは言葉を聞き終える前にフフッと卑下するような笑いを浮かべ、
怒気を隠しきれていないケリーに向かってこう言った。


「運なんて不確定要素を信じるくらいなら、窒息死したほうがマシだね。そんな甘い考え方の奴とチームを組んで、化け物に殺されちゃ窒息死より始末が悪い」

「なんですって・・・ッ!」

思わず大きな声を上げそうになったケリーだが、
そこは彼女の気質らしく我慢し、
少し息を整えるとパイに向けてこういったのだった。


「今、わかったわ。私の運が無くなったのは、アナタとチームを組んだ時からだってことにね!」

「・・・自分の実力を棚に上げて良くいう!」


「コラッ!二人ともやめないか!」
けんか腰に会話を続けるパイとケリーを怒声で沈めるレン。
二人はお互いにそっぽを向き、再び銃の調整をし始めた。


「まったく、同じチームだと言うのに…あの二人は」

「二人も、もう少しお互いに譲って仲良くなるといいんですけどね」
レンは二人を眼で追いながら、プラスチックコンテナに入った
突撃銃『USSR AKM』の調整をはじめた。
近くに居た貴美子の声に、少し胸をなでおろしたが
まだケリーとパイの二人の関係には苦悩の時間が続きそうだと思い、
レンは再び表情を曇らせた。


「頑固だからね・・・あの二人は特に」
フィクシーが二人を見ながら少し苦笑いしているような顔を浮かべ
プラスチックコンテナに入っていた愛銃の突撃銃
『FN F2000』を調整し始めた。


「あんたはどうだい、QUEENさん?」

「・・・」
フィクシーの声が届いているのか居ないのか
綾香は黙々と銃を調整している。
『シグ SG550』
その流麗な銃のフォルムは車内のライトに反射し、美しさをさらに増した。




「おい・・?QUEENさん?・・・おい!」
フィクシーが綾香の肩をさするように触ろうとしたときだった。




ガチャッ!!!



「ッ!」
少し驚いたように、調整した銃をいきなりフィクシーの頭目掛けて
振り下ろし、まるで射撃体勢さながらの素早い動きで
フィクシーの眉間にシグSG550の銃口を向けた。
綾香の表情は、憎悪と哀しみに震え、まるで敵を睨むような表情であった。


「うおっ!?何の真似だよ!」
綾香が銃を向けた瞬間、緊張感に包まれる車内の中。
まるで凍りついたようにその場に両手をついて体をのけぞるフィクシー。


カチャッ・・。


「・・・すいません。さっきの戦闘で少し緊張しすぎたみたいです」
銃を降ろすと、フィクシーに謝罪の会釈をし
そのまま、また銃の調整をはじめる綾香。
良く見ると綾香の体は、少し震えている。


「な、な、なんだってんだい。まったく!」
フィクシーは少し驚きを隠しきれない感じで
綾香から一番離れた位置にプラスチックコンテナごと移動する。
恐怖の表情とまではいかないが、その驚いた表情は誰の眼にも明らかだろう。


「どうしたの綾香・・・?ねえ?」
貴美子が慌てて綾香に近寄る。
どうしてそうなったのか。最近の彼女を見ていて変だとは感じていたが。
今の行動を見て、少し不安に思った貴美子は優しく綾香に語り掛ける。


「どうしもしないわ・・・ほっといてよ!」
そういって貴美子を遠のけると、綾香は後部車両へと歩を進めた。
まるで誰にも構ってほしくない、そう言いたそうな表情と仕草で。



「どうしたのかな綾香・・・一年前のあのこと・・・気にしているのかなぁ」
貴美子がそう言うと、綾香の後姿を見ながら
自分の銃の整備を再び始めた。
先ほどフィクシーに触れられたときに見せた
どこか寂しげで、怒りに満ちたな綾香の表情。
それは何を意味しているのか、まだ彼女は知らなかった。



PM8時05分 特殊車両 ―後部車両―

綾香が来た後部車両。
そこには様々な電子機器と決まったリズムで数値を刻んでいる
アナログな機材が並んでいた。
どうやら室温や電波状態、時刻を正確に刻むための時計や
外との交信状況を記録しておくためのものらしい。


グォングォン・・・カタカタカタ・・・


そこに人が座れそうな固定式の腰掛を発見した綾香は
プラスチックコンテナを近場に置くと、いきなりフルフェイスメットを脱いで
黒いフェイスマスクと美しい黒髪をあらわにさせた。


ガタンッ!


「・・・こんなときに・・・なんで思い出すのよ!」
手の平を思いっきり強化ガラスの窓に当てると、一言大きく呟く。
そして彼女は、マスクをはいで大きく深呼吸をした。



何かに追われるように切羽詰った表情、汗ばんだ顔面。
背中にひやりと感じる冷たいもの。
表情から隠せない焦燥感、止め処も無く流れる憎悪と哀しみ。




グォングォン・・・・カタカタカタ・・・・




大きく響くトンネルの中を走る列車の音、そして
無機質に流れる電子音と何かを刻む機械の音が無常に彼女を包み込む。



彼女は思い出していたのだ。
一年前に平凡で貧弱な自分の人生を変えた、最も思い出したくも無い
あの『悲劇の悪夢』を。

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