kirekoの末路

すこし気をぬくと、すぐ更新をおこたるブロガーたちにおくる

シナリオ【追憶】-1

2006年05月01日 20時37分01秒 | NightmareWithoutEnd
「大丈夫なの健二?」




「健二?ねえ・・・健二ったら・・」




「・・・危な・・!」




「キャアアアアッ!」




「ァァァァアア!!グォァァァァ!」




「なんで・・こうなって・・・しまった・・の!」




「ケリーさ・・ん・・・何・・・か・・手立て・・は!」




「無理よ・・・彼の・・・・銃を・・・引きな・・さい!」




「助け・・て・・健二を・・誰か・・」




「誰か助け・・て・・・・」



「も・・・う・・私・・は・・・助からない・・・」



「はや・・く・・・撃・・て・・!」



「・・・ッ!!!」



ドォン!!






10月21日 AM3時24分 C・B・S・F訓練所仮眠室

重厚なコンクリートの灰色の壁、真っ白な天井。
窓は頑丈にロックされ、近くには外気との換気を目的とした
空気清浄機がグォングォンと大きな音を立てて動いている。
壁には『C・B・S・F』と大きく書かれた宣伝用ポスターらしき
ものが何枚か掛けてある。

横長の長方形の部屋には、幾つかの簡易なパイプベッドが置いてあり
迷彩服を着たC・B・S・F隊員らしい何人かが寝ているようだ。
人が寝るには余りにも騒々しい空気清浄機の音だが、隊員達は一人として
起きる気配もなく泥のように眠っている。


「ッ・・!!」
ベッドに寝ていた一人が、その黒い髪をなびかせながら
急にベッドから起きる。顔全体にうっすらと汗をかき
黒い瞳からは、いくつかの水滴が流れていた。
いつの間にか握り締めていた手には、長時間強い力で
握っていたかのような、赤色を帯びている。


「またあの時の・・・夢・・・忘れたはずなのに・・!」
拳を毛布へ打ち付けるとパイプベッドが少し揺れる。
だが周りの隊員が起きる気配はない。
大きな音を立てている空気清浄機のせいだろうか。


「・・・もう健二は居ないのよアヤカ。忘れるのよあの時の記憶は・・」
自分に暗示をかけ、言い聞かせるように呟く。
思い出したくもないはずだ。その事件は余りにも禍々しく、変えられない事実。
今、生きている彼女の人生を狂わせた悪夢なのだから。


「・・・健二・・・」
ベッドに再び体を倒すと、寂しそうに自分のヘアバンドを見つめて
ボソッと悲しげに呟く。・・・水色のヘアバンド。
彼が好きだった色だ。


また泥のように眠りはじめる。
ベッドの横にある、小さな簡易テーブルにはペンやメモといった小物が
雑然と並べられ、その中にネームプレートが一枚転がっている。



『C・B・S・F所属
        Ayaka=Yumeno【夢乃 綾香】』






辺りにはまた、空気清浄機の大きな音が部屋全体を包んでいった。




PM4時55分 C・B・S・F第2ブリーフィングルーム

一日の長い訓練も終わり、C・B・S・Fの隊員達が
その日の訓練の締めくくりとして、それぞれのチームの隊長から
反省及び総括のくだりを聞くことになる。


第2ブリーフィングルームに呼び寄せられたのは
D-TEAM『ダイヤモンドチーム』とE-TEAM『エメラルドチーム』
の隊員達だ。各隊ごとに二列で総勢数十人が椅子に座っている。


「やっと訓練が終わったぜ。どうだ?終わったら一杯やりにいこうぜ」
Dチーム後列席に座っていた薄茶色の髪の毛の迷彩服の男が
隣に座っていたEチームの隊員に話しかける。
首から提げたネームプレートには、顔写真と文字が書いてある。

『C・B・S・F所属
       Ficshe=Ulz【フィクシー=ウルズ】』



「じゃあ、あんたのところの隊員を呼んでくれよ。あんたのチームは、いいオンナが多いからな」
誘われた事に満更でも無さそうなEチームの男性隊員は
Dチームのメンバーを遠めで見回しながら、訓練が終わった事で
緊張感の抜けた顔を、さらに緩ませる。


「あー・・・ダメダメ。綺麗な花にはトゲがあるって言うけど、うちのチームはカタブツばっかだからな。誘うのだってガードが硬すぎて無理無理」
乗り気なEチームの隊員を尻目に、自分で誘っておきながら
少し怪訝そうな表情で周りをチラチラ見る。
カタブツ。そんなイメージとは、かけ離れたフィクシーの口調が少し
重くなるということ。それは彼の言葉を実質的に裏付ける証拠でもあった。


「・・・」
前列に座っている白銀色の髪の毛の女性隊員が
後列で騒ぐ二名の声を聞き流しながら、訓練が終わったあとだと
言うのに、どこか張り詰めた・・・というより無表情と言ったほうが
適当であろうと思われる顔で、ブリーフィングルームの入り口を見つめている。
首から提げたネームプレートが天井の蛍光灯のあかりに当たって光る。


『C・B・S・F所属
         Pie=Dongcaa【パイ=ドォンカ】』


そんなパイの横で何やら楽しげに会話する前列の二人がいた。


「・・・そのディレクターが、まーた自信たっぷりのキザな男だったんですよ」

「フフフ、何処にでもいるわねそういうの。アメリカにも居たわ、そういう『二枚目気取りの自信家男』が言い寄ってくるの」
美しいブロンドをかきあげながら話す女性と
楽しげに会話する目鼻立ちに特徴がある女性隊員。


「で、その男の人どうしたんですか?」

「この私に『俺の女にならないか?』なんて言ってきたから思いっきり右頬を殴ってやったわよ!」
緊張感の高まる室内で、自分達だけの会話のフィールドを作り上げている二人。
彼女達も首からネームプレートを提げている。

『C・B・S・F所属
  Kelly=Funk=Obrait【ケリー=ファンク=オブライト】』


『C・B・S・F所属
         Kimiko=Corno【河野 貴美子】』



――・・・一年前のあの事件を生き残った二人だ。


訓練も終わり緊張感の隊員達が、各自自由に話し始める中。
一人だけ暗い表情の隊員が居た。


・・・綾香だ。その場に居る誰とも口を聞かず。
ただ机のほうをボンヤリと表情もなく見ている。
大きな喪失感。



―――数分後―――


重厚なドアを開け、一人の大柄の男が出てくる。
サングラスに迷彩服。白髪まじりの銀髪。
まさに軍人といった体格から出る威厳、そして威圧。
その男が部屋に入ってくるなり、今まで騒いでいた隊員達は
急速に口を閉ざし、即座に姿勢を正して沈黙した。


その男の首からもネームプレートが掛けられていた。


『C・B・S・F・D・TEAM責任者
 Ren=Archer=Mikhailov【レン=アーチャー=ミハイロフ】』


コツ・・・コツ・・・。


男はドアを開けるなり、右手で書類を持ち。
ゆっくりだが緊張感を感じさせるブーツの音を部屋中に響かせる。
椅子につくこともなく、正面にあるホワイトボードに男が立つと
隊員達は座席から素早く立ち、その場で敬礼する。


隊員達の喉で「ゴクン」という唾を飲み込むような音が聞こえる。


そんな状況を見ていた男が
ゆっくりと、重い口調で話し始める。


「敬礼辞め。着席しろ」


ガタン、ガタガタ。


男が言った瞬間、まるで精密に設計された機械のように
瞬時に座席に座る隊員達。
その表情は硬く、今までの緊張感の無さは微塵も感じられない。
隊員達の目線も銀髪の男に向かって向けられている。


男は、再びゆっくり空気を吸い込むと
隊員達に向けて威圧しているとも思える
その口を開いた。




「C・B・S・F全隊に命令が下った。新しい任務だ・・・」





ブリーフィングルームは、とてつもない緊張感と共にどよめきの声で包まれた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする