４．家族

　私は、所詮恋に憧れを抱いていたのではないだろうか。あんなにかわいい人と付き合えたらどんなにいいだろう。いろんな話をじっと顔を見て聞いてあげたかった。
　彼氏に借金があり、ヤクザからも追われていて、夜逃げをした。Ｎは、彼氏のことを考えて泣いていた。かわいい顔が台無しになるくらい泣いていた。
　学校でも、彼氏から連絡があっただけで、泣いていた。この世の終わりみたいに泣いていた。Ｎが泣くと洪水で世の中が沈むのじゃないかと思うくらいに悲しい気持ちになった。沈没。私にしてやれることは何もない。
　彼氏がいいやつでありますようにと願うしかない。
　彼氏の事もあったが、Ｎの親の仲も悪かった。何でも父親が浮気をして、母親と離婚するという話しをしていた。
　その父親がどうしようもなく、子供に暴力をふるう人だった。Ｎは生傷が絶えなかった。学校では、友達と明るく話していて、家では葬式みたいに暗かった。父親が暴力を振るいそうな時に、彼氏が支えてくれるとも言っていた。
　私もできることなら、父親を殺してやりたいと思った。出来ないのが現実。落ち着くまで様子を見るしかない。
　そもそも、Ｎの家は金持ちだ。父親が建築業の社長で、母親はオーナーだった。大きい家に住み、Ｎの大きい部屋がある。テレビもでかい。妹も同じ部屋だった。
　金持ちだから幸せとは限らないのか。私は、疑問に思った。お金がある分だけ、家族とのコミュニケーションが取れないような気がする。
　それに比べ私の家は自営業で、いつでもそばに家族がいた。ご飯を食べる時も、寝るときも、いつでもいた。今では、そういう団らんがなくなってきたように思う。
　だから、不登校、いじめ、覚せい剤に子供たちは、はしっていくのだと思う。子供と一緒に何かをするというのが大事な時代に入ってきたように感じる。