30代半の中野一男は、天然の髪を肩まで伸ばし、人から聞かれたら「ドレッドをしている。」と答える様にしていた。
今まで、パーマをあてた事もなく、髪の先がクルクルと回ってて、ドレッドをしているように見えない事もなかった。
雨の日は、ドレッドどころではなく、アフロみたいに髪が爆発して、「キノコ爆弾みたい。」や「昔の井上揚水やつるべぇみたいだね。」等と笑われたりもする。
鏡で髪の毛を見れば、曇りと雨の日は、だいたい分かる。便利なのかどうかなのかは定かではない。テレビの天気予報よりは正確だと思う。
人からそんな事を言われても、中野は馬鹿にされているとは知らず、ただ単に芸能人に見えると言われただけで喜んだ。
今日は、快晴で、髪の毛はしなやかに肩の所まで、かかっていた。
本人としては、昔の江口洋介と言ってほしかった。
そして、今日は、彼女と中野が出会った日で、三年間付き合った彼女にプロポーズする為に、夜の7時に公園でクリスマスツリーの点灯式があるので、待ち合わせをしていた。
仕事は、電気屋の在庫整理をしてて、先輩に頼んで、今日だけは必ず6時に終わるようにシフトを変わってもらった。
こんな大事な日に遅刻なんてしたら、彼女から別れ話しが出てもおかしくない。クリスマス前は、別れるカップルが多いと聞いた事がある。そうならない為にも必ず時間通りにいく事にしている。
仕事が終わり、先輩に話しかけた。
「それじゃ、彼女とデートなんで帰りますね。」ドアの横にあるタイムカードを押そうとしたら、社長が「ちょっと待ってくれ。」と手を出して遮った。
「ちょっとトラブって、温風扇風機の在庫が合わないんだよな。中野君、少し残って探してくれないかな。」
「えっ、今日は大事な用事があってですね。」中野は、肩をすくめた。
「どんな用事なんだ。」社長の声が大きくなっていく。ここで断れば、首になるかもしれない。仕方ない。在庫がないのは、どこかにかあるはずだ。
「分かりました。探したらすぐ帰りますから。」
「ありがとう。助かるよ。」社長が飛び跳ねて喜んだ。仕方なく倉庫の中を探した。紙に書いてある在庫表を見て、場所を探すがなかった。次に、冷蔵庫とテレビが散乱している所を探した。
そしたら、ひょこりと温風扇風機が4台出てきた。今日はついてる。12分しかたっていない。これなら、間に合う。ここからだと、歩いて20分で着く。
今度こそタイムカードを押した。フォークリフトで荷物を運んでいる先輩が遠くで「ありがとう。」とささやいていた。
ロッカーで着がえて、電気屋を出た。
「よし。」外は、北風が吹いて寒かった。時間は、6時18分余裕で間に合う。
念には念を入れ、走って行く事にした。走ると髪が、風になびいて、時間のロスだなと感じた。
一時走ると、交差点の信号が赤になり止まった。点灯式のせいか、人や車が多い。青になるのを見て、横断歩道を渡ると、杖を突いたばぁさんが、行き違い様にバタッと倒れた。
おい、冗談だろ。こんな日に自分の側で、倒れるんじゃないよと思った。
「大丈夫か。ばぁさん。」中野は、急いでいるので口調が荒くなった。
「大丈夫、大丈夫。こけただけだから。」と言って皺だらけで笑っているが、立てない様子で、足から出血し、ふらついている。中野は時計を見ると、6時28分だった。通りすがる人が何事かと思って見ているが、私は関係ないみたいな感じで、ジロジロ見ているだけだった。
「困ったな。救急車呼ぼうか?」と言いながら、ひょいとおんぶして、近くにあるバスのベンチに座らせた。
「大丈夫、大丈夫。」と言って俯いて、痛がっている。
「大丈夫じゃないやんか。分かった。救急車呼ぶから、待ってて。」携帯電話から119番に電話をかけて救急車を呼んだ。
ばぁさんは、「ありがたや。ありがたや。」と拝んでいた。
今はそれどころではない。俺は、彼女に会いに急いでいるんだから、早くしてくれよと思っていた。
6時46分で、救急車が来た。病院が近くで、思ったよりも早かった。今日は、やっぱりついている。
ばぁさんを救急車に乗せて、救急隊員が「お孫さんも一緒に乗って。」と言ったけど、「俺は、孫じゃない。ただ、通りかかっただけだ。」と振り切った。
ばぁさんは、担架で、寝ながら「じぃさん。ナンマイダ。ナンマイダ。」と訳が分からない念仏を唱えていた。
「まったく。何が何でも今日は、君に会いに行く。」時計を見て、ここからだと時間ギリギリで間に合いそうだと思った瞬間、自転車が中野の足にぶつかり、一回転半転んだ。
「いったぁたぁた。」足に鈍痛が走り、手と足が擦り剥けて、血が出ている。ヤンキー風な男が、自転車を起こすと、「いてぇーなぁー。」と言って絡んできた。今日は、やっぱりついていないかもしれない。
「すまない。」と穏やかに言うと、ヤンキーも「すみませんでした。」と丁寧に謝った。
もめ事をしている場合ではない。時間通りにいかないといけない。公園はすぐそこだった。
腕と足からとめどなく血が流れている。顔も痛い。擦り剥いているような感じがある。きっと顔も腫れているだろう。片足を引きずりながら、やっと公園にたどり着いた。
時間は、7時ジャスト。
ここまでの道のりが長かった。点灯式とあってか、カップルが多かった。
彼女はどこにいるのだろうと探していると、大きなツリーの近くにあるブランコにポツンと座っていた。
手を振ろうとすると、隣で「パパー。パパどこにいるの?」と泣きながら叫んでいる子供がいた。
知らない振りも出来ずに、「まったく親は何をしているんだ」と思いながら、一緒に辺りを探した。
「お父さん。子供迷子ですよー。」と大声で叫んだら、ブランコの手前にある滑り台の下で、「すみません。」と手を挙げた。子供が父親を見つけると、走りだして、抱きついた。
「だから、何が何でも君に会いに行く。」血だらけになり、足を引きずって、ブランコの所に行くと、彼女は、知らない男と楽しそうに話しをしていた。
「そりゃーないよ。」中野は、力が抜けると同時に体全体に激痛が走って倒れこんだ。やっぱり、今日は、最初から厄日のようだ。
その姿を見た彼女が「その傷どうしたの?」と言って、走ってきて、中野を抱き寄せた。
意識がもうろうとしている中、「ただ、君に会いたかっただけなんだけど。」と答えると、クリスマスツリーの電気が、パッと点いて、歓声が巻き起こった。
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今まで、パーマをあてた事もなく、髪の先がクルクルと回ってて、ドレッドをしているように見えない事もなかった。
雨の日は、ドレッドどころではなく、アフロみたいに髪が爆発して、「キノコ爆弾みたい。」や「昔の井上揚水やつるべぇみたいだね。」等と笑われたりもする。
鏡で髪の毛を見れば、曇りと雨の日は、だいたい分かる。便利なのかどうかなのかは定かではない。テレビの天気予報よりは正確だと思う。
人からそんな事を言われても、中野は馬鹿にされているとは知らず、ただ単に芸能人に見えると言われただけで喜んだ。
今日は、快晴で、髪の毛はしなやかに肩の所まで、かかっていた。
本人としては、昔の江口洋介と言ってほしかった。
そして、今日は、彼女と中野が出会った日で、三年間付き合った彼女にプロポーズする為に、夜の7時に公園でクリスマスツリーの点灯式があるので、待ち合わせをしていた。
仕事は、電気屋の在庫整理をしてて、先輩に頼んで、今日だけは必ず6時に終わるようにシフトを変わってもらった。
こんな大事な日に遅刻なんてしたら、彼女から別れ話しが出てもおかしくない。クリスマス前は、別れるカップルが多いと聞いた事がある。そうならない為にも必ず時間通りにいく事にしている。
仕事が終わり、先輩に話しかけた。
「それじゃ、彼女とデートなんで帰りますね。」ドアの横にあるタイムカードを押そうとしたら、社長が「ちょっと待ってくれ。」と手を出して遮った。
「ちょっとトラブって、温風扇風機の在庫が合わないんだよな。中野君、少し残って探してくれないかな。」
「えっ、今日は大事な用事があってですね。」中野は、肩をすくめた。
「どんな用事なんだ。」社長の声が大きくなっていく。ここで断れば、首になるかもしれない。仕方ない。在庫がないのは、どこかにかあるはずだ。
「分かりました。探したらすぐ帰りますから。」
「ありがとう。助かるよ。」社長が飛び跳ねて喜んだ。仕方なく倉庫の中を探した。紙に書いてある在庫表を見て、場所を探すがなかった。次に、冷蔵庫とテレビが散乱している所を探した。
そしたら、ひょこりと温風扇風機が4台出てきた。今日はついてる。12分しかたっていない。これなら、間に合う。ここからだと、歩いて20分で着く。
今度こそタイムカードを押した。フォークリフトで荷物を運んでいる先輩が遠くで「ありがとう。」とささやいていた。
ロッカーで着がえて、電気屋を出た。
「よし。」外は、北風が吹いて寒かった。時間は、6時18分余裕で間に合う。
念には念を入れ、走って行く事にした。走ると髪が、風になびいて、時間のロスだなと感じた。
一時走ると、交差点の信号が赤になり止まった。点灯式のせいか、人や車が多い。青になるのを見て、横断歩道を渡ると、杖を突いたばぁさんが、行き違い様にバタッと倒れた。
おい、冗談だろ。こんな日に自分の側で、倒れるんじゃないよと思った。
「大丈夫か。ばぁさん。」中野は、急いでいるので口調が荒くなった。
「大丈夫、大丈夫。こけただけだから。」と言って皺だらけで笑っているが、立てない様子で、足から出血し、ふらついている。中野は時計を見ると、6時28分だった。通りすがる人が何事かと思って見ているが、私は関係ないみたいな感じで、ジロジロ見ているだけだった。
「困ったな。救急車呼ぼうか?」と言いながら、ひょいとおんぶして、近くにあるバスのベンチに座らせた。
「大丈夫、大丈夫。」と言って俯いて、痛がっている。
「大丈夫じゃないやんか。分かった。救急車呼ぶから、待ってて。」携帯電話から119番に電話をかけて救急車を呼んだ。
ばぁさんは、「ありがたや。ありがたや。」と拝んでいた。
今はそれどころではない。俺は、彼女に会いに急いでいるんだから、早くしてくれよと思っていた。
6時46分で、救急車が来た。病院が近くで、思ったよりも早かった。今日は、やっぱりついている。
ばぁさんを救急車に乗せて、救急隊員が「お孫さんも一緒に乗って。」と言ったけど、「俺は、孫じゃない。ただ、通りかかっただけだ。」と振り切った。
ばぁさんは、担架で、寝ながら「じぃさん。ナンマイダ。ナンマイダ。」と訳が分からない念仏を唱えていた。
「まったく。何が何でも今日は、君に会いに行く。」時計を見て、ここからだと時間ギリギリで間に合いそうだと思った瞬間、自転車が中野の足にぶつかり、一回転半転んだ。
「いったぁたぁた。」足に鈍痛が走り、手と足が擦り剥けて、血が出ている。ヤンキー風な男が、自転車を起こすと、「いてぇーなぁー。」と言って絡んできた。今日は、やっぱりついていないかもしれない。
「すまない。」と穏やかに言うと、ヤンキーも「すみませんでした。」と丁寧に謝った。
もめ事をしている場合ではない。時間通りにいかないといけない。公園はすぐそこだった。
腕と足からとめどなく血が流れている。顔も痛い。擦り剥いているような感じがある。きっと顔も腫れているだろう。片足を引きずりながら、やっと公園にたどり着いた。
時間は、7時ジャスト。
ここまでの道のりが長かった。点灯式とあってか、カップルが多かった。
彼女はどこにいるのだろうと探していると、大きなツリーの近くにあるブランコにポツンと座っていた。
手を振ろうとすると、隣で「パパー。パパどこにいるの?」と泣きながら叫んでいる子供がいた。
知らない振りも出来ずに、「まったく親は何をしているんだ」と思いながら、一緒に辺りを探した。
「お父さん。子供迷子ですよー。」と大声で叫んだら、ブランコの手前にある滑り台の下で、「すみません。」と手を挙げた。子供が父親を見つけると、走りだして、抱きついた。
「だから、何が何でも君に会いに行く。」血だらけになり、足を引きずって、ブランコの所に行くと、彼女は、知らない男と楽しそうに話しをしていた。
「そりゃーないよ。」中野は、力が抜けると同時に体全体に激痛が走って倒れこんだ。やっぱり、今日は、最初から厄日のようだ。
その姿を見た彼女が「その傷どうしたの?」と言って、走ってきて、中野を抱き寄せた。
意識がもうろうとしている中、「ただ、君に会いたかっただけなんだけど。」と答えると、クリスマスツリーの電気が、パッと点いて、歓声が巻き起こった。

せつないねぇ
かわいそうだけど、笑っていいかな~
もっと笑える感じにしたかったんですけど、文才がないので、これで喜んでもらえたら嬉しいです。
笑って、泣いて、切なくなってくださーい。
恋してる時ってこんなものですよね
私も間抜けに見えるのかなあ?(笑)
本当に恋をしていると、他から見たら変に見えるものかもしれないと思って、書いてみました。
この物語の後は、彼女とうまく行って欲しいと思います。
読者登録ありがとうございます。
ブログ読ませていただきました。
ちょっと切ない恋愛ブログですね。
最初は、元気になるように心がけて書いていたんですが、
だんだん、切なくなってきましたね(笑)
また、暇な時にでも読みに来てくださいね。
重なる時って、重なるものなんですよね。
中野さん、ことごとく重なっちゃって・・・
でも、人の好さがとても素敵です。
そして、終わり方が、
二人の未来を、読者側で想像できて面白いですね。
想像が膨らみます。
面白いって、ありがとうございます。
嫌な事って本当に重なりますよね。
最後、中野くんの努力にせめて、歓声でもと思いましたが、実は、イルミネーションに対してと思って、中野くんがまたがっくりきたりして(笑)
でも、彼女が抱きしめたというのが、幸せになりそうですよね。
最後の終わり方自分でも素敵だなと思ってしまいました(笑)
血だらけになって、彼女に会いに行ったら面白いかなぁと思います。そこまでして、会いに来てくれたんだと今の女の人は思わないかな(笑)
「キモっ」とか言われたら立ち直れないかな。
それもそれで、他から見たら面白いですけどね。