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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

5.月夜

2011年09月11日 | 秋の物語
夜の8時に奴がやってくる。たかしは、アパートの2階へと上がる階段の横で座っていた。
父ちゃんが死んでから2年くらいで、母ちゃんが男の人を家に連れてくるようになった。土木の下請け会社の事務員として働いている母ちゃんが連れて来たのは、そこで働いている40歳位のおじさんだ。
作業着を着てやってくるから一目で分かる。母ちゃんが38歳だから同じくらいだとは思うけど、死んだ父ちゃんの事を考えると嫌になってしまう。
「こんなとこにいたんか。」振り返ると、奴が、頭を撫でながら、ラジコンを差し出した。黙ってラジコンを受け取り、リモコンで動かした。
「運転うまいなぁー。将来は、ドライバーだな。」と言って笑いながら、母ちゃんがいる自分の家へと入って行った。母ちゃんが笑顔で迎えるのが見えた。
奴は、2時間くらいで帰って行くのだけど、帰る時はいつも楽し気だった。一方、母ちゃんは寂しそうな顔をしている。
奴が帰った後、なんでそんなに悲しいのと聞いた。
「母ちゃんな。あの人の事好きになったんよ。新しい父ちゃん作っていいかい。」今まで見た事がない顔で聞かれた。自分の父ちゃんは、世の中で死んだ父ちゃん一人なのに母ちゃんは何でこんな事をいうのだろうと思った。
「父ちゃんは一人だよ。」と大声で叫んだら、母ちゃんが泣きながら「女は一人で生きられないんだよ。たかしも大人になれば分かる。」と声を押し殺して呟いた。
次の日も8時に奴が来た。今日は、お菓子を袋いっぱい持って来た。
「パチンコで勝ったから、もらってきた。」と言ってたかしの頭を撫でた。こんな奴のどこがいいのだと思った。
たかしが座っている階段で、奴が隣に座って月夜を見ながら囁いた。
「俺、頭も悪いし、なんも出来んけど、母ちゃんとな、結婚したいって思うとる。俺、たかしの父ちゃんになってもええか。」
たかしは涙が出ないように見上げるように月を見ていた。今日は十五夜で、月の光が周りを照らしている。そんな事言っても、大人の事情なんてよく分からない。
二人の姿を見ていた母ちゃんが部屋に入ろうと言った。
はじめて3人で入る部屋は、自分の家じゃないような気がしていた。


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