恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

5.桜

2006年02月24日 | 春の物語
 家の縁側から庭を見ていると、一匹の猫が石の上で気持ち良さそうに日向ぼっこをしていた。私は猫につられて、大きな欠伸をした。
 春はあけぼのという事で、いてもたってもいられなくて、無性に散歩に行きたくなった。
 「おばあさん。散歩でも行きましょうか?」
 「そうですね。いいお天気ですものね。」
 「それでは、いきますか。」私は早速、杖を持って、帽子をかぶって、玄関を出た。隣には、着物を着たおばあさんがいた。
 外は温かい風が吹いていて、突風に帽子が飛ばされそうになった。私が飛ばされないように力を込めて押さえていると、おばあさんが笑っていた。
 私も一緒に笑って、おばあさんの笑顔と春の風が心地よかった。
 散歩道に桜の木が続いている所がある。桜の木々が春風に答えるかのように爽やかに咲いていた。おばあさんは、目を細めて桜を見ていた。その姿を見たら、出会った頃を思い出した。
 あの時、私は学生で転校生のおばあさんに一目惚れをした。
 朝早く、好きだから付き合って下さいと書いたラブレターをおばあさんの下駄箱に入れた。
 教室でおばあさんは恥しそうに手紙を読んでいた。
 私はドキドキと見て見ぬ振りをして友達とバカな話で盛り上がっていた。
 放課後。「気持ちはとてもうれしいです。ありがとう。」と返事をくれた。
 私はうれしくて、飛び跳ねて喜んだ。
 その日おばあさんと一緒に満開の桜道を下校した。
 私は、恥しがり屋でうまく話す事が出来なくて、黙って歩いていた。私の姿を見ておばあさんも黙って、歩いてくれた。
 おばあさんの隣を歩いているだけで胸がときめいていた。
 桜の道を歩いていると、桜が散っておばあさんの肩に花びらが一つ乗った。私は気になって、どうやったら取れるか一生懸命考えて見ていた。
 「何かついてますか?」おばあさんが私の視線を感じて聞いてきた。
 「一つ花びらが乗ってます。」私が照れながら言うと、固まった手で肩から花びらを払いのけた。
 「ありがとうございます。」おばあさんも微笑んでいた。それで緊張が解けて、二人の将来の事について熱く語った。会話が弾んで温かい気持ちで胸が一杯になった。
 桜の木が風に揺れ、花びらが一枚ずつ落ちてきた。そこだけ時間が止まっているかのような錯覚にとらわれた。
 桜の中では、隣にいるおばあさんの姿が学生服を着ている昔の姿に見えた。
 昔と変わらず桜のように素敵な人といる事が幸せだった。
 いつの時代でも、私はずっとおばあさんだけを愛している。
 
 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿