私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

さそり座の愛~占い刑事の推理~最終章

2012-11-17 13:36:00 | ミステリー恋愛小説
坂崎雪子の供述

「人間は知らず自分の生活の中で自分が生きやすいように演技をします。
紳士的、礼儀正しい、親切でハンサムな青年、それが世間の人が感じる主人の印象です。
人間ができている。人格者だと、彼を知る人々は異口同音に言います。
しかし善人ほど用心すべきなのです。良い人と言われる人ほど注意すべきなのです。
善人ほど危険な存在であることを早く私は気づくべきだったのです」

藤木豊の章

退職して3ヶ月、平凡な中年の男になった。
退職金と貯金を解約して2DKのマンションを郊外に購入した。
ささやかだが、親子3人で住むには狭くはないだろう。
洗濯機を回しながらトーストとコーヒーで朝食をする。
天気の良い日には、布団を干す。
時に映画を観たり、美術館で時間を過ごす。
そして1週間に1度、雪子会いに行く。
その足で雄太の働いている居酒屋に行き飲むのが日課となった。
事件と関わりがないことが証明されて、雄太はすぐに釈放された。
雪子が実の母親であることを知ったら雄太はどう思うだろうか?
時がきたら雄太に真実を伝えよう。
許しあう日々を信じて藤木は今日も面会に行く。
いつか雪解けの来る日を信じて、
やっとめぐり会えた私の家族、
いつか家族と過ごせる日々を信じて、空を見上げて呟く。
「これが僕の求めていた真実だ」
誰が何と言おうとこれは愛の物語である。


読んでいただいてありがとうございました。
次回より  
姉を裏切った男に復讐する妹を
見事な占いで解く麻生刑事
お楽しみに!





さそり座の愛~占い刑事の推理~第11章

2012-11-13 14:27:17 | ミステリー恋愛小説
占い刑事~推理の完結~

「突然にどうしたんだ?」
驚きを隠せずにいる藤木に麻生は挑むような口調で言う。
「少し時間をとっていただけますか。二人にとって大事な話です」
藤木と雪子は顔を見合わせた後、麻生を居間に通した。
ソファに座らせようと雪子が促すと、麻生は
「2階の雪子さんの部屋を見せていただけませんか?」と言った。
やはり、この男を甘く見すぎていたと藤木は思った。
部屋の中に入ると麻生は窓を開けた。田代雄太の部屋の窓が3人の視界に入る。
麻生は静かに話し始めた。
「昨日、隣のアパートに住んでいる田代雄太君に会ってきました。
そして、坂崎孝雄死んだあの日、田代君の部屋の窓の鍵が開いていたことを確認しました。
奥さんあなたは、雄太君にこう言ったそうですね。
いつも、どんな時でも窓の鍵は開けておいてと。それですべての糸が解れました。
あの日、あなたは伊豆に旅行に行きました。ホテルの館内ではなく、
コテージに宿泊したのは、夜中に誰にも見られることなく、部屋を抜け出せるからです。
ご主人は食事会だから、当然雪子さんが帰宅するから鍵はかけていなかった。
これで警察は他殺ではない方向に考えた。
もうひとつ、警察の捜査が自殺と誤った判断をしたのは玄関の鍵です。
鍵はドアノブの鍵と、鎖のチェーンの二重にかけられていた、
指紋も出てこない。荒らされた形跡もない。奥さんは旅行中で、完璧なアリバイもありました。
しかし、この窓の距離に僕は何かを感じました。
向側の雄太君の部屋の窓は1メートル程しかない。
手を伸ばせば、窓を開けられる、このように」
麻生は手を伸ばした。体を外に傾けながら、田代雄太の窓を開けた。
「奥さんはご主人を殺した後、この窓から雄太君の部屋へ飛び越えた。
その時1階に住んでいた男が偶然に上を黒い影がふわりと浮かんだのを見たのです。
殺害方法は、もう言わなくてもわかっていますね。
祖母の住む倉庫から発売禁止の農薬を調べたら、ご主人の死因の劇薬と一致しました。
坂崎孝雄さんは、自殺ではなく他殺、そして犯人は、妻である雪子さんあなたです。
「見事な推理だね、脱帽だよ」
「それと、二人のことです。始めから二人の間に何かあると感じました。
二人は高校時代恋人同士だったこと、そして雪子さんが先輩の子供を
身ごもりながら別れたこと。そして・・・その子供が生きていることも」
「何故知っているんだ?」
「先輩の後を追った日からずっと調べてました。
高校の時の雪子さんの恋人は藤木先輩ですね。そしてその子供である田代雄太君は
あなたたちの子供であるということもわかりました」
「ええ!!」雪子が大きな瞳を見開いた。
「嘘よ!嘘」
「雪子さんは知らなかったのですか?!」
「麻生やめてくれ!!そのことは僕から話そうとしていたんだ」
「私は、私はなんてことをしてしまったの!!」
雪子は倒れるように座り込んだ。
藤木の目はうるんでいた。
麻生の肩に手をかけた藤木は静かに呟いた。
「麻生、占い刑事健在だな。見事なほんとに見事な推理だ。
迷惑かけてすまなかった。これから警察に2人でいくよ」
「先輩!」
「僕は後悔していないよ。占い刑事君、僕は何よりも愛なくして生きていけない星座蠍座、
雪子の愛を取り戻したんだ。この愛は、すべてを捨ててもいい価値あるものさ」
確か坂崎雪子の星座も蠍座だった。
蠍座同士の愛は、魂と魂が結ばれる濃厚な愛。命がけの恋愛をする恋愛至上主義者
藤木は、静かに微笑んでいた。

続く・・・次週最終章




さそり座の愛~占い刑事の推理第10章

2012-11-08 13:36:36 | ミステリー恋愛小説


再び燃える秋

藤木は、携帯電話をポケットから出すと、雪子の自宅へ電話をした。
呼び出し音が数回鳴った後、声が聞こえた。「坂崎です」雪子の声だ。
「藤木です。お話したいことがあります。今からお伺いしていいですか?」
少し躊躇するような声の後「はい」と言い雪子は電話を切った。
太陽荘の前を通る時に藤木は時計を見た。六時、雄太は居酒屋に出勤している時間だ。
雪子の家のチャイムを鳴らすと、待っていたようにすぐにドアが開いた。
リビングに案内されてソファに座る。柔らかなソファの感触が心地よい。
キッチンから飲み物を運んでくる。コーラだ。
高校の時に二人で喫茶店行くと必ずコーラを注文していた。
雪子は覚えていてくれたのだ。
藤木はコーラを一気に喉に流した。ヒリヒリと喉に軽い痛みが走る。
「元気だったか?」
「なんとか生きてきたわ」
「今日は、プライベートで来たんだ。どうしても聞きたいことがある。
昔のことを思い出すのはつらいと思うけど、二人の為に答えてほしい」
「何かしら?」雪子は不安げに顔を傾けた。
「あの時、僕達が駅で引き離された後はどこにいたんだ」
「あなたと別れてから母方の故郷に行ったの」「お腹の子供はどうしたんだ」
「出産したけど、死んでしまった」
「死んだ?」
「ええ、生まれてすぐに死んでしまった」
「誰が死んだと言ったの?」
「祖母よ、生命力の弱い子供だから生まれてすぐに死んだと聞かされたわ」
「それが生きていたんだ。生きていたんだよ!」
「生きている?嘘よ。信じられない。祖母は死産だとはっきりいった」
「雪子の将来のことを考えて、死産だと伝えたんだよ」
雪子の体が小刻みに震えた。藤木が肩に手を抱き寄せる。
この後の事実を知ったら雪子はどうなるのか。実の子供が隣に住んでいる
田代雄太だと事実を知ったら、雪子の衝撃を思うとつらい。
しかし打ち明けなければならない。真実を知ってしまった自分が告白しなければ。
藤木は雪子の顔を凝視した。
藤木を不安げに見つめる雪子に藤木はゆっくりと言葉を発した。
「生まれてすぐに引き取られたという人に偶然に会えた。僕達の子供は生きていたんだ」
雪子は顔を覆い嗚咽した。
藤木はその手をほどき、瞼にやさしく接吻をした。
そして首から胸へと流れるように愛撫した。
それを追うように唇も首から乳房へと這う。藤木の繊細な指先と唇は雪子の全身を愛撫していく。
緩やかな快感の波から、何度も高鳴るうねりの中で雪子はかつて愛し合った日々を思い出す。
絨毯の上で二人の体がしなるように、重なりあう。
雪子は切なさと哀しい色の声で泣きながら果てた。
濡れた頬を指先で拭う藤木の瞳も潤んでいる。
懐かしい肌、愛おしい唇、乳房。そして・・・
この女をもう離したくない。
藤木は人生で一番愛した女の体を抱きしめながら強く思った。
やっと自分の元へ帰ってきた惚れた女を二度と離したくない。
「雪子、僕たちの息子に会いに行こう」
「えっ、居場所を知っているの?」
「うん、知っている」
居酒屋に行き、雪子に真実を告白しよう。
目の前にいる自分達の子供が田代雄太であることを告白しよう。
二人は、玄関に向かった。その時、チャイムが鳴った。
ドアを開けると、目の前に麻生が立っていた。
「麻生何故君が・・・」
「先輩、どこかお出かけですか?」
「ちょっとね」
「その前に僕の話を聞いていただけますか?」
その真っ直ぐに見つめる瞳で藤木はすべてを悟った。
この男は何かを掴んだ。決定的な何かを。
雪子が犯人だという事実を。
藤木は。直感した。

続く・・・

さそり座の愛~占い刑事の推理~第9章

2012-11-04 16:30:25 | ミステリー恋愛小説
占い刑事の推理3

麻生は農薬の名称をメモして外に出た。
道の左右には広大な田んぼが実り秋を迎えようとしている稲穂が頭を垂れている。
穏やかな風が麻生の回りでやさしく吹いている。
のどかな田園風景を歩いていると、日々暮らしている、
喧噪と煌びやかな光と音楽、そして最先端への飽く追及を求める都会に
疲労困憊していると麻生はつくづく感じる。
ひとりで農作業をしている中年の女性に声をかけた。
「こんにちは」
「はい?」丸顔の邪気のない表情をしている。
「今年は豊作ですか?」
気のよさそうな中年の女性は嬉しそうに話し出した。
「そうだよ、うちの米を食べたら他のなんて食べられないよ」
人懐こい、話好きな女性のようだ。
「海野さんは、今ひとり暮らしなんですか?」
麻生は海野の家の方向を指差した。
「えっ、ああ海野のお婆さん?うん、ひとり暮らしだよ」
「そうですか。ひとりで大きな家に住んでいたら寂しいでしょうね」
「寂しいし、ずっと苦労しっぱなしだよ。娘のことや、孫のことでね」
「孫のことで?」
「あの頃はその噂話ばっかりだった」
「あの頃って、何かあったのですか?」
「もう時効だから話してもいいよね。この町始まって以来の事件で凄かった。
孫娘が父親のいない子供を妊娠してしまってここで出産したんだよ。それもまだ17歳で」
「えっ!父親がいないって中絶はしなかったのですか?」
「既に、7ヵ月が過ぎて中絶出来なかったのよ。
雪子ちゃんには死産だと言ったけど、ほんとは秘密で、生まれた子供を里子に出した。
でもお婆さんが、ひた隠しにしてもこんな狭い地域だものすぐに広まってしまって、
事件も娯楽もない狭い土地だからね。
それが、今年の夏に10数年ぶりに、雪子ちゃんが遊びに来たってお婆さん大喜びだったよ」
「それは、いつ頃でしたか?」
「確かお盆休みが終わった頃かな。」
麻生は中年女性に礼を言いその場を後にした。
雪子がこの土地に引っ越した理由は妊娠だったのだ。
そして生まれた子供は、里子に出した。しかし雪子はその事実を知らない。
駅までの距離を歩きながら、今までの雪子の行動を考えた。
お盆の頃に、祖母に会いに来た?いや、違う、目的は他にあったはず。
雪子は劇薬が欲しかったのだ。倉庫の中の使用していない農薬の種類を探しに来たのだ。
この劇薬で孝雄を殺せると。
しかし、麻生はまた悩む。
坂崎孝雄を雪子は殺せない。完全なアリバイがある。
孝雄が死んだ日、玄関の鍵はかけてあり、チェーンロックまで厳重にかけてあった。
孝雄が死んだ部屋は2階だ。雪子が殺したのだとしたら、
どうやって部屋から出たのだろうか?2階から飛び降りた?
2階の部屋から飛び降りても、向いのアパートは2メートル程の板で1室ごとに区切られている。
その塀を小柄な雪子は乗り越えられない。それもたとえ飛び降りても一番奥の部屋からだ。
奥の部屋?飛び降りるのではなく、飛び越えたら・・・もし飛び越えられたら?
あっ!麻生は大きな声をだした。
あの時聞いた男の台詞を思い出した。
「窓を開けて上を見たら黒い影がふわりと飛んでいるような」
麻生の中で絡んでいた糸が解けていこうとしていた。

続く・・・