私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

善人の背中 ~3~   

2017-10-24 12:00:19 | ミステリー恋愛小説
充実感で体中が熱くなっていました。
25歳までバージンを頑なに守ってきたわけでもないのに気づいたら25歳になっていました。
キオには女性の心の琴線を緩めて抵抗もなく侵入してきても許せる何かがありました。
男を知らない私にとってキオという男はすべてが魅力的でした。
洗練された身のこなし、優しい気遣い、どれもとっても舞い上がり、
心も体もキオの虜になっていきました。
いつしか、キオは私の家に泊まり、会社へ出勤するようになりました。
私は古い一軒家にひとりで住んでいます。
それは溺愛された祖母財産贈与でくれたものです。
5年前まで祖母が住んでいました。大好きだった祖母の家に住んでみたかったということと、
ひとりの時間が欲しいということで家族の反対がありましたが3年目から住んでいます。
1階がキッチンとリビングで2階に六畳の部屋は2つあります。
階段を上ると私の寝室がありセミダブルのベッドがあります。
そのベッドにキオが軽い寝息をたてて眠っているなんて夢のようです。
ある朝、ベランダに出て洗濯物を干しているとキオが後ろから抱きしめてきます。
「あっ、キオここ危ないからやめて」
キオは怪訝な表情をして抱きしめた体を離します。私はある箇所を指さしながら
「ここ壊れているの。二人で体重かけたらそのまま下に落ちちゃうよ」
「りかは居心地がいい」キオがよく口にする言葉です。
今思えばなんと都合のいい言葉なのかとわかりますが
夢中になっていた私には誰のアドバイスも無理だったでしょう。
居心地のいい女とは 都合のいい女だということを。


続く・・・

善人の背中 ~2~

2017-10-21 17:37:37 | ミステリー恋愛小説
今なら私は声を大きくして言うでしょう。
恋する女性達よ、善い人に気をつけなさいと。
しかし私はその頃あまりにも愚かでした。無知でした。
何よりもキオに惚れ過ぎていました。
キオが入社して3ケ月過ぎた頃でしょうか。
秋の気配を感じる季節を肌感じる夕方、会社を出時誰かが、肩を軽く叩いています。
振り返るとキオが笑顔で立っています。
驚いた表情で立ちすくんでいる私の顔をおどける様な表情で笑いを誘おうとしています。
「帰るの?一緒に帰ろう」私は耳を疑いました。
キオが声をかけてくれることも驚きましたが、次の言葉は驚愕しました。
キオは駅に近づくと看板を指さしながら「飲めるんでしょう?少し飲んで行こうよ」
と誘ったのです。私は地に足がついていない状態でいわれるまま居酒屋の中に入って行きました。
生ビールを飲んだ後キオは照れくさそうに言います。
「りかさんと二人で飲みたかったんだ」また耳を疑いました。
「気になっていたんだ。初めて会った時から」
からかっているのだと思いました。
私は何の取柄もない平凡な女です。ただひとつのことを除いては・・・。
そして、その夜、私はキオに抱かれました。初めての男でした。

続く・・・

善人の背中 ~1~

2017-10-15 12:33:40 | ミステリー恋愛小説
キオを殺します。永い年月を得て私は決断しました。キオを殺します。
もはや私の生きていく道はこれしかないのです。私が私でいる為にしなければならない
必要な行為なのです。
キオが私にした侮蔑と裏切り、私の傷は少しずつ蓄積して、固まり
やがて胸の中に大きな固い岩となって存在してしまいました。
大きくて固い岩は7年間声に出せずに耐えた苦しみの固まりです。
もはや私には自分の力ではその岩を壊せないのです。
もう一歩も歩き出せない自分の人生のために今すべきことはキオを殺すしかないのです。
人間は知らず知らず自分の生活の中で自分が生きやすいように演技しているます。
もちろん私自身も。
紳士的で礼儀正しい、親切でハンサムな青年、それが世間の人がキオに感じる印象です。
しかしそれはキオの表の顔であって内面はネガティブなドロドロとした感情が渦巻いている
男であることなど誰も気づかないでしょう。
キオは社会に見せる演技が抜群に上手でした。
それは天性のものなのでしょう。
キオが私の勤務する会社へ中途入社してきたのは、6月の初めでした。
有名大学を出た青年が社員50人程の中小企業に就職してきたことは、社内で話題になり
、一躍時の人となりました。
男性社員たちは国立Y大学出て何でこんな小さな会社に就職するんだろう。
いくらでも会社を選べただろうと羨望を含んだ口調で言います。
「ねえハンサムじゃない彼。俳優の小岩涼に似ている。時々憂いを含んだ表情が魅力的よね」
恋愛渇望の真只中の生活を一番に生きている若き女達は
早速キオを恋人候補に勝手に祭上げていました。
キオの醸し出す言動はセンスがあり、かっこよかった。
そしてキオは自分が充分魅力ある男だということを知ってると感じました。。
ほとんどの女子社員は熱をあげ彼の日々の一挙一動を追いかけていました。
ひそかに私もキオを目で追いかけていました。
その中で唯一沈着冷静な菅田れん子だけがとりまきの女性達を遠くから冷ややかに見つめています。
「あういう男にひっかかる女達っておろかよね」
腕組みをしてキオの回りにいる女子社員達を見つめています。
私は自分の本音を知られたような気になり下を向きました。
そしてれん子はまるで占い師のように低い声でしかしはっきりと言ったのです。
。「いい人ほど気をつけなければならないのよ」と。
そうです。私はその時れん子の言葉の重さを受け止めるべきだったのです。
危険地帯に入ってはいけないことを自覚すべきだったのです。

続く・・・