人生ブンダバー

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東西四連 第60回東西四大学合唱演奏会 山本夏彦『変痴気論』(中公文庫)etc.

2011-07-11 05:00:00 | 音楽

7月3日(日) 夏向きの散髪--ほとんどスポーツ刈りかしらん--を済ませ、一路
三軒茶屋へ。昭和女子大学人見記念講堂で行われる東西四連である。17時30分
開演に対して、会場入りは16時40分だった。指定席1Fキ-24(前から6列目)で頂
戴したプログラムにじっくり目を通す。
客席は、友人、知人の学生、家族、OB、そして合唱ファンでで埋まっていった。
今年は珍しく四校とも邦人作品を取りあげた。こんなことは初めてカモ。


<プログラム>
[エール交歓]

1.同志社グリー『永訣の朝』(宮澤賢治作詩、西村朗作曲)
  指揮;伊東恵司、ピアノ;萩原吉樹
2.慶應ワグネル『中勘助の詩から』(中勘助作詩、多田武彦作曲)
  指揮;佐藤正浩、独唱;小貫岩夫
3.関学グリー『青いメッセージ』(草野心平作詩、高嶋みどり作曲)
  指揮;広瀬康夫、ピアノ;前田勝則
4.早稲田グリー『方舟』(大岡信作詩、木下牧子作曲)
  指揮;高谷光信、ピアノ;寺本紗綾香

[合同演奏] ベートーヴェン交響曲第9番合唱付きより第4楽章
  ソプラノ;牛津佐和子 
  アルト;永澤麻衣子 
  テノール;小貫岩夫
  バリトン;稲垣俊也
  指揮;小久保大輔 演奏;早稲田大学交響楽団 


[エール交歓] 以下( )内はプログラム掲載のオンステメンバー数
同志社グリー(30人);Topは、5人かな6人かな、一人ひとりがいい声だが、どうして
も頑張り気味かしらん。しかし、全体としていいトーンだった。
慶應ワグネル(34人);オーソドックスだったが、やや硬い塾歌だった。Topの最高音
は破綻なく、練れた声だった。
関学グリー(53人);50人以上いればだいぶ「余裕」が出る。Topは独特の明るい発
声を引き継いでいた。
早稲田グリー(82人);ステージの4割を占拠。恣意的なクレッシェンド、デクレッシェン
ドの味付けのある「都の西北」だった。(--<個人的には>オーソドックスな「都の西
北」が好きなのだが。)また、人数が多いのだから、必要以上に頑張らなくていいのだ
が・・・・・・。


1.同志社グリー『永訣の朝』(宮澤賢治作詩、西村朗作曲)(30人)
  指揮;伊東恵司、ピアノ;萩原吉樹
宮澤賢治は、昭和8年37歳で亡くなっている。その時はほとんど無名の詩人だった。
宮澤賢治を世に広めたのは草野心平である。
宮澤賢治の詩を合唱にした『永訣の朝』は鈴木憲夫版(昭和50年)があるが、今回は
西村朗(あきら)版(平成18年)、同声三部合唱である。「愛する人(妹)を見送らねば
ならぬ者の悲痛と孤独を表現した詩への深い共感を感じつつも、いたずらに感傷に
流されることなく、簡潔な音楽にすることを心がけて作曲された」ようだ。

緞帳が上がり、同志社グリーが3段に整列するなか、伊東さんが左に楽譜をかかえ、
右手に約20cm、独特の短めの指揮棒を持ち、ピアニストと入ってきた。譜めくりを含
め、3人とも黒の上下である。(譜めくりは黒子?)伊東さんは40代半ば。脂がのって
いる。

演奏は、会場も意識したのかしらん、子音を強調した、本当に日本語の分かる、すば
らしい演奏だった。伊東さんは、いつも見事なアンサンブルを作り上げる。しかし、や
やもすれば予定調和的な演奏になることがあるように感じていたが、まったくの変身
である。
伊東さんは下手に下がる時に、Topテノール付近でメンバーに向かって軽く右手を挙
げた。一種のガッツポーズだったのだろう。第1ステージから四連にふさわしい名演だ
った。


2.慶應ワグネル『中勘助の詩から』(中勘助作詩、多田武彦作曲)(34人)
  指揮;佐藤正浩、独唱;小貫岩夫(テノール)
『中勘助の詩から』は昭和33年多田武彦28歳の作品。関学グリーにより初演された。
作曲されて53年になる。
中勘助は明治18年生まれ。夏目漱石に師事した、大正、昭和前期の詩人・作家で
ある。素直な文章は『銀の匙』に有名だが、自身控えめな性格だったらしい。

慶應ワグネルは、ステージでベタを使って、前寄りに3段に並んだ。(これも人見記念
講堂「対策」かな?)佐藤さんは、長身に黒の上下--上は夏らしくカジュアル系の
シャツ。30cmくらいの指揮棒を持って、大股で登場した。

ソリストの小貫さんは、プロフィールによれば同志社大学を卒業後、大阪音楽大学を
首席で卒業。「魔笛」のタミーノでデビューしている。平成12(2000)年には新国立劇
場に初登場。二期会会員である。余談だが、畑中/ワグネル盤のソリスト永田峰雄
さんもモーツァルト歌いの美声だった。

小貫さんは譜面を持ち、佐藤さんに続いて登場。礼をすると、ステージ中央下手寄り
の椅子に腰かけた。ピッチパイプによる音採りの後、「とほりすがりのからかさ屋」と
「絵日傘」が始まり、30秒ほどしただろうか、すっくと立った小貫さんの第一声「みい
ちゃんよっちゃんいらっしゃい 絵日傘さして遊びましょう」に惹きつけられた。まさしく
タミーノ。頭声のすばらしさ(とむろん歌唱)を堪能した。この曲では、モーツァルトに
強い小貫さんにお願いしたのは大変よかったのではないかしらん。

佐藤さんが暗譜で振った「中勘助」は、一言でいえば、しかし一言でいえないほど楽
譜に書かれていない、デュナーミクと音楽にあふれた演奏だった。いろいろなものが
詰まっており、またハミングにもニュアンスがあり、「おお、ここのハミングで大きなクレ
ッシェンドがくるのか」、と思わせるところもあった。(フルトヴェングラー?)
6曲目の「ふり売り」では、セカンドの長身(苗字にあらず)さんが「鯖よしかねー か
ん鯛安いよー」と魚売りの格好でステージをゆっくり歩き回った。ステレオ録音で聴け
ば効果抜群だろうに、実にいい声だった。

曲間をすべてアタッカで繋いできた、終曲「追羽根」--4分半の大曲--も、見事
な、長いソロとともに現役も身体が自然に揺れ、大変大きな音楽だった。「まるいむく
ろじ白い羽根」からだったかしらん、最後は小貫さんも加わり、全員合唱を盛り上げ
た。大きなリタルダンドで終わるや、私は思わず、上品に「ブラーボッ」と叫んだ。ステ
ージには聞こえたかしらん。

中勘助は控えめな性格だったようだが、長い間、兄との確執があったようだ。そんな
一面を思わせる、自己主張の強い、厳しい「中勘助」。50年間にわたって歌われてき
た「中勘助」に新しい発見があった。「中勘助」も佐藤さんも一回り二回り大きくなった
といえるかもしれない。
ワグネル現役も、しっかり、満足行くまで練習できたかな、一人ひとりよく歌っていた。
1月の定期演奏会での再演を切望したい。


3.関学グリー『青いメッセージ』(草野心平作詩、高嶋みどり作曲)(53人)
  指揮;広瀬康夫、ピアノ;前田勝則
昭和59年、高嶋みどり初期の合唱作品。草野心平の世界である。高嶋さんは石桁さ
ん、間宮さんのお弟子さん、私と同世代といっていいだろう。
この曲もまとまって聴いたのは初めてだ。ただし、ア・カペラの4曲目は省略された。
関学はベタを使わず、ヤマ台の1段目から3段に並んだ。広瀬さんも暗譜の指揮。指
揮棒は使わない、左手主体(左利きかしらん)の指揮である。

4曲目「サリム自伝」は「平和のための戦争である。」で始まる。途中「おれのふるさと
ソンミ。 ソンミでの大虐殺も平和のためだといわれている。」にグサッと来たが、「み
んなソンミって分かるのだろうか」などと考えた。
関学グリーというと、個人個人がフルボイスを出す以前に、まねができないほどパー
トの声をきっちりそろえ、デュナミークもパートが一つとなって付けるイメージがある。
しかし広瀬さんの音楽は、「雪明りの路」でも感じたが、とくに邦人作品では以前の関
学より大きなスケールを目指しているのではないだろうか。今回も一人ひとりの発声を
鍛えた、大きな音楽だった。そして前田さんのピアノは見事なサポート以上に一つの
音楽を形成していた。


4.早稲田グリー『方舟』(大岡信作詩、木下牧子作曲)(82人)
  指揮;高谷光信、ピアノ;寺本紗綾香
昭和55年、木下牧子初の合唱作品(混声版)。昭和62年男声版(上智グリー初演)
ができている。木下さんの合唱も最近しばしば耳にする。一種の流行である。どうで
もいいことだが、木下さんは、高嶋さんより年少、昭和30年代のお生まれである。
早稲田はベタを使って4段に並んだ。指揮者高谷さんは、大阪音大の器楽学科卒業
後、キエフ国立チャイコフスキー音楽院指揮科を首席卒業。まだ30代前半の若々し
さだ。以前も早稲田グリーの定演で振っておられたが、早稲田と相性がいいのかしら
ん。

高谷さんはピアニスト寺本さん(まだ20代かな。)とともに登場、寺本さんと握手をし
て指揮台にあがった。燕尾服である。1曲目から3曲目までは指揮棒を持たず、左手
を実にうまく使って指揮をした。寺本さんも繊細なピアニズム。3曲目「夏のおもひに」
では音楽がよく流れていた。終曲の「方舟」で初めて指揮棒を持つ。炎のコバケン並
みの棒、学生らしい、パッションあふれる演奏だった。ただ、人数の割にはやや遠い
声で、2曲目「木馬」という言葉が、イントネーションは違うはずなのに、私には「ぼく
ら」に聞こえた。


東西四連は、いつも高水準の演奏を聴かせてくれるが、今年も期待にたがわぬ演奏
ばかりだった。拍手は毎回緞帳の下がるまで続いた。

なお、各大学とも合唱団員の中には、上半身に力が入るのか、手が無意識に大きく動
いたり、上半身が傾いたりしている人が散見された。声に関係ないかもしれないが、
(いや断じてある!)、やはりポスチャー(姿勢)には注意した方がいいカナ?


[合同演奏] ベートーヴェン交響曲第9番合唱付きより第4楽章
  ソプラノ;牛津佐和子 
  アルト;永澤麻衣子 
  テノール;小貫岩夫
  バリトン;稲垣俊也
  指揮;小久保大輔 演奏;早稲田大学交響楽団 
男声だけで約200人となる合唱。これに女声を加えると合唱は500人になってしまい、
ステージに乗り切れないので、やむなく男声だけで演奏することになったのだろう。
--という冗談はさておき、男声合唱だけの「第九」は初めての経験だ。

これは、四連60周年を記念した、まさしく祝祭的な音楽だった。小久保さんは福永陽
一郎さんのお孫さんである。四連は、歴史を見れば分かるが、陽チャンが初期から活
躍されていた。お孫さんが60周年の合同演奏を指揮するなんて、天国の陽チャンも
感慨無量だろう。

ちなみに私は四連20回記念演奏会(東京文化会館)に乗っている。合同演奏は木下
保先生の「音楽への讃歌」だった。(あれから40年!あんたは若かった、は綾小路き
みまろカナ?)

その小久保さんは、指揮台においた譜面を開かず、キッチリと暗譜で振り切った(小
澤征爾スタイル?)。前半のチェロ・パートがなかなかうまくてよかった。稲垣さんの
「おー、友よ」も立派。合唱はドイツ語の発音がいまいちだったが、マーチの前のフェ
ルマータも大きく決まり、私の好きな二重フーガも大変よかった。コーダはほどほどの
アッチェレランドながら大きく盛り上がった。演奏が終わるや、会場は大きなブラボー
と拍手に包まれた。


5分ほど続いたカーテンコールの後は、オーケストラが退場するするとともに、ステー
ジ上の合唱団が大移動。再びエールの配置に着いてステージストームが始まった。
同志社は「やまやまの~」という日本語の曲(なんだったかしらん?)。ワグネルは「ス
ラーヴァ」。関学は「ウ・ボイ」。早稲田は「斎太郎節」(いじりすぎ?)。それぞれがそれ
ぞれらしい演奏だった。

ホールからロビーに出ると、そこでもストームが始まっていた。翌日に備え、後ろ髪を
ひかれながらも、早々に失礼した。(20:40)


(今後は土曜の夜か日曜の昼の開催にしてもらえるとうれしいのだが・・・・・・。)



当日のプログラム


昭和女子大学正門


会場入り口


ホール1階と緞帳のおりたステージ


ロビーでは各大学のCDが販売されていた


25分間の休憩後、オーケストラ用の椅子が準備されたステージ


まだまだ元気なロビーストーム
若さ、それ自体が財産である     20:40



7月4日(日) 早朝、NHK TVでコパ・アメリカの「ブラジル対パラグアイ」を観る。ブ
ラジルが89分30秒、一瞬で2:2の同点に追いつく。パラグアイ勝ち点3が試合終
了直前で消えた。ブラジルは2試合続けてのドローとなった。
南米サッカーもサッカーのグローバル化、ヨーロッパ化かスピード重視となっている。


一方、ドイツで開催されている女子サッカーWCでは、延長後半、日本が1:0とドイ
ツをリード!そのまま逃げ切り。女王を破り、初のベスト4進出!(6:20)
NHK TVニュース、関西弁の山野さんも解説に力が入っていた。得点した丸山も丸
山。ピンポイントパスの沢も沢だった。


6時からの「時事放談」は藤井さんとムーミンパパの武村さん。大震災から4か月。
松本復興相辞任と後任人事のドタバタが話題に。


15時 藤沢男声合唱団の定期演奏会を聴く。指揮は畑中、佐藤先生、吉川さん。
→詳細は来週の「人生ブンダバー」でご報告。



吉田秀和『永遠の故郷 夕映』(集英社)★★★
感動の最終巻である。終章《菩提樹--かつての中学、高校の同級生たちに--》
「軍事教練という科目が新しくできたのは、私たち中学の二年生の時だったかしら。
・・・・・・」はとくに感動的だった。
*吉田さんは、東京帝大出身だが一高ではなく、成城高校である。いかにもである。




船山隆『マーラー』(新潮文庫 カラー版作曲家の生涯)★★★★
現在は絶版のようだ。amazonで入手した。マーラーの生涯がコンパクトにまとまっ
ている。コラムの執筆者は、小澤征爾、渡邉暁雄、山田一雄、朝比奈隆、岩城宏
之、小林研一郎、秋山和慶、若杉弘の各氏。高校生、大学生にもおすすめ。




山本夏彦『変痴気論』(中公文庫)★★★★
久しぶりに山本夏彦を購入。元々は昭和46年に出たものだ。山本は当時56歳(現
在の私より若い。)だった。
山本さんはぶれない人だ。いつも同じことを繰り返し言っていたと言い換えてもいい
だろう。山本は「常識」を基準に、時に「古い」言葉で、物事の本質を論じ、言い切っ
た。
「栄枯」--「新聞は売れている。・・・売れているが読まれてはいない。・・・いま読者
が新聞のために割き得る時間は、十分か十五分か。」
「反体制」--「商売としてのエロは転向可能だが、商売としての反体制は、転向不
可能である。いうまでもなくマスコミの反体制は商売用で、本ものではない。」高校
時代、「体制か反体制か」という議論がはやっていたが、今から考えればばかばか
しい。時間の無駄だった。--こういう言い方が山本夏彦である。







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4 コメント

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四連も世代交代 (和地村 藤村)
2011-07-12 18:28:07
昔京都で四連を聴いた時が畑中先生最後の指揮でした。そしてワグネルには佐藤先生、同志社には伊東さん、関学には広瀬さんが登場しましたね。まさに世代交代です。関学も同志社も合唱コンクールで金賞を取るくらいでレベルも相当上がっているのではないでしょうか。ワグネルには木下先生、畑中先生から引き継いだ音楽を堂々と歌って欲しいものです。
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Re;四連も世代交代 (katsura1125)
2011-07-13 08:41:33
和地村さん、コメント有難うございます。
10日には藤沢男声合唱団の定期演奏会で、畑中先生指揮する、ドヴォルジャーク「ジプシーの歌」を聴いてきました。
昨年は椅子に座って指揮をされたようですが、今回はアンコール(「秋のピエロ」)も含め、すべて立って振られました。音楽はいつも同様、それ以上情熱的なものでした。
返信する
久方ぶりでございます (せき)
2011-07-13 22:03:50
四連当日は自分が歌っている合唱団の練習だったため聴きに行くのをあきらめました。
katsura1125さんの演奏会リポートを拝読するたびに感じるのですが、素晴らしいステージが繰り広げられた場に居合わせなかったことが悔やまれてなりません。


ところで、同志社のステージストームですが、「つばさが」と連呼しつつ高揚して終わる曲が演奏されたとしたら、それは木島始氏のテキストに信長貴富氏が作曲した「さらに高いみち」という単品(楽譜は、カワイ出版『リーダーシャッツ21 男声合唱篇』に収録)であろうと思われます。
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Re;久方ぶりでございます (katsura1125)
2011-07-14 20:30:35
せきサン、コメント有難うございます。
合唱をやっていると自らの練習が忙しくて--最低でも週1回?--聴きにいけないこともありますよね~。
この四連のCDも作成される予定ですが、やはり生(ライヴ)はいいものです。
同志社のステージストームは、教えていただいた「さらに高いみち」をネット検索しましたが、それとと歌詩が一致する部分多く、それに間違いないことでしょう。
ステージストームでは何が飛び出してくるかも一つの楽しみです。
これからもお気軽にお立ち寄りください。
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