あるタカムラーの墓碑銘

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「ほな、アホのすること見せたろかい」 (旧版p249)

2014-01-30 00:33:07 | 神の火(旧版) 再読日記
「マークスの山を探せ! クイズ」の募集はまだ受け付けてます。多忙な方、退屈な方、時間潰ししたい方などなど、一切問いませんので、ぜひどうぞ。

ネタバレになりますのでご注意。

***

2007年7月6日(金)の旧版『神の火』 (新潮社)は、p266まで読了。

今回のタイトルは、日野の大将の台詞から。この台詞好きな人は、意外と多い? この後、島田先生を殴り、スーツやズボンをひん剥いて、腹を撫でて、脅す大将でありました。 島田先生、あっさり降参(苦笑)

【今回の名文・名台詞・名場面】

★「なあ、川端さんと一緒にならんか?」
「アホ」
「帰りを待っててくれる人を、作れよ」
「お前だけで沢山や」と日野はとぼけたが、その顔にはすでに、失った人間のことを忘れられないと呻く男の目が戻っていた。ビールを呷るコップの端から、川端さん親子には無縁の、鋭い刃がちらりとこぼれ落ちてくる。こうした平和な生活では包みきれない、閃光の片鱗が漏れ出してくる。それが、日野という男だった。
 (旧版p235)

川端さんは大将を慕っていますから、それなりにいい家庭は築けるだろうと想像はできるけど、柳瀬兄妹に出会ってしまったから、どうしようもないよね・・・。

★まいったな。こいつは本当にまいった……。
とっさに身を翻した女性の腕を掴まえたら、もう、ひっぱたくか抱くしかなかった。
 (中略) 
「堪忍して下さい」と川端さんは震えた。実に奇妙な感じで、何とも言いがたかった。身震いする女性の感触が心地好い。恋ではないと知っているのに、心地好いのが辛かった。心ない媚は見せず、淫らにもならない川端さんが、愛しかった。 (旧版p241)

だ・か・ら・な・ん・で!?

と誰もがツッコミ入れたと思われるこの場面。 「私も島田先生に抱きしめられたいっ!」 と望んだ女性もかなり多し。(もちろん私もだ)
川端さんばっかりズルイよ~。島田先生に旧版では抱きしめられ、新版では混浴して・・・キーッ!(←女の嫉妬丸出し)

★闇全体が日野の目の光だった。襲い掛かる刃の冷たさが、触れたとたんに火に変わる。恐怖は汗になり、苦痛と混じり合って燃える泥になる。 (旧版p249)

上記のタイトルの説明した場面の描写の一部。好きなので取り上げました。

★「安泰とは、一秒ですむ苦痛を、二十年味わう男の人生を言うんだ」 (旧版p263)

これも将来作成予定の<江口彰彦 名言・迷言集>に必ず入れます。

★これまで、江口に動かされるだけの人形だった自分が、初めて自らの意志で動いたのが今回の事件だったが、そうして動いたことすら、結局はすべて、四方八方の思惑に見透かされ、利用されていたのだ。この先、何があるかは本当に分からない。結果など、まだまだ先のことだ。 (旧版p263)

★「君みたいな誠実な人間には、こういう話は酷だろうがね。思想も理想も信念もない国で、そういうものを持とうとした者の茶番だよ、すべては。裏切りは、理想がなければ裏切りにならない。裏切るべき国家がなきゃあ話にならない。戦後の復興期にはまだ、国家の体を成す希望があったが、四十五年たって、この国が作ってきたのは物だけだ。売るべき物は持ったが、売るべき国家はない。日本人は商売人にはなれるが、スパイにはなれないということだ」
「それも詭弁です。あなたも僕も、自分の国を慈しむことはしなかった。この土地に生きている人々を、慈しまなかったのは確かです。スパイの定義が何であれ、僕らは確かに何かを裏切ってきたんです。父母、家族、恩師、妻、友人……」
 (旧版p264)

★江口はさらに、恥という概念は神のいない国でこそ意味がある、というような話をした。自分自身に対する恥であれ、他人の目を気にした恥であれ、神の思想の基準がある国では存在しない理屈だ。
そういう話をする江口の目には、ほんとうに懲りることのない精気がうごめいていた。年齢のない若々しさだった。善悪の判断は別にして、江口彰彦はこうでなくては、という気がする。島田は心底苦笑いした。あなたはゲームを百倍楽しめばいい。僕はもう、お付き合いはしかねる。
 (旧版p265)

★そう言えば、良などは恥という言葉は口にもしないだろう。良にあるのは風の匂いだったが、微動もしない信仰の岩の上を吹く風の、清々しさがあった。 (旧版p265)

★なぜスパイになったのか。一つは、単に卑劣な無節操であり、それは個人の資質の問題だった。もう一つは多分、故国という観念が遂に持てなかった人間の、辿る道の一つだったのだと思う。日本という故国が、自分の中では遂に生まれなかった。外国のどの国も自分の故国でないという対比においてしか、日本という国家を意識することができなかった。たとえ、自分の目が黒い色であっても、きっと同じであったと思う。何故そうなのか、理由が分かったときには、故国が生まれているだろうという気がする。 (旧版p265)

★だが、江口と自分の違いは明らかだった。江口はロマン主義の夢想で矛盾を埋めることができたが、自分は科学者だったのだ。万国普遍の科学技術は、ある意味では故国喪失感を埋める一助にはなったかもしれない。だが、現実にミサイルが飛び交う世界で、核兵器を埋め込むような国々の強烈な国家意識に無頓着であるという点では、産業用原子炉自体が、見事に無国籍・無責任・平和ボケの所産であるとは言えないか。その意味では、世界一安全だと自負するこの国の原子炉は、国家意識喪失の裏返しかもしれない。
そんなことを考え続けたが、自分の気持ちを静めるには程遠い結論だった。救いがなかった。
  (旧版p265)

以上、江口氏と絡めた島田先生の感慨。

★真夜中に、ふと自分の手を江口に摑まれて目覚めた。江口が、繰り返し耳元で何か呟いていた。
「しかしね、君は違うよ。君は私とは違う。良がそう言った。彼が初めて君に会ったのは、あの揚松明の夜だったそうだが、あの後大阪で彼と話をしたとき、彼は君のことをひどく気にしているような口ぶりだった。あの剛直な若者にしては、珍しいことだった。彼は君のことをこう言っていたよ。あの人は救い主を探している、とな。君が神を探しているのなら、私とは違う……」
  (旧版p265~266)

こうやって洗脳(?)してたんか!? と想像せざるを得ない江口氏の言動。 一種の睡眠学習ですか?




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