あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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アダムとイブには、きっと罪の意識はなかったのだろう (上巻p75)

2006-04-03 00:38:33 | リヴィエラを撃て 再読日記
2006年3月28日(火)の『リヴィエラを撃て』 は、上巻の1992年1月――東京のp47から1978年3月――アルスターを経て、1981年1月――《シンクレア》のp98まで読了。

1978年3月――アルスターに入ったところで挫折したという方も多いようですが、ここが事件の発端でもありますので、我慢して読みましょう。「IRAって何?」と疑問に思っても、心に留める程度にして、読み進めましょう。


【今回の主な登場人物】

手島修三・・・華麗なる(?)学歴と職歴の数々が判明。この後、しばらく登場しません。
手島時子・・・翻訳の仕事をしている。・・・どんな内容の書籍なんでしょうね? 
《ギリアム》・・・MI6職員。ちなみにこの物語で、2、3番目に好きな人物だったりします。・・・石は投げないで・・・(苦笑)
イアン・パトリック・モーガン・・・ジャック・モーガンの父。IRAのテロリスト。
イアンの母、ジャックの祖母・・・名前が出てきません。薬局《モーガンズ・ケミスト》を経営。
ジャック・モーガン・・・1978年当時は12歳。1981年当時は15歳。
ウー・リーアン・・・ジャックと同い年。《モーガンズ・ケミスト》の隣に住み、《ウーズ・バー》を経営している両親と暮らしている。学校での名前はジャクリーン・ウー。
ウー・リャン・・・リーアンたちの遠縁にあたる男性。中国からの亡命者。
バリー・ホクストン・・・ロンドンの不良グループのリーダー格。
ジェームズ・オファーリー・・・ロンドンに住んでいるジャックの伯父。イアンの姉・イヴリンの夫。
ノーマン・シンクレア・・・ピアニスト。とりあえず「サー」は外しておきましょう(笑) この方もこの物語では、2、3番目に好きな人物です。


【今回のツボ】

・北アイルランドやロンドンの描写。 高村さんがすべてその目で確かめ、その足を運んだところですから。その表現力に感服せよ!

・《ギリアム》による手島さんのスカウトのやり方。 イギリス紳士らしい(?)、手順を踏んだ礼儀正しさ。そして気長に待つ根性。ある意味、凄いぞ《ギリアム》。その際に《ギリアム》が名付けた手島さんのコードネームは、えらく意味深なものだということが、2回目に読んだ時に解った私。

・ジャックの食べた物。 むっちゃおいしそうやねんもん!

・セムテックス。 ・・・この作品にも出てくるか・・・。

・ジャックを襲うバリー。 ・・・バリーの心境が、どうにも私には不可解だ・・・。


【今回の音楽】

 LIEDERKREIS・・・リーダークライス。シューマンの歌曲集。ずばりそのものの意味を持つドイツ語。これは持ってないなあ。
 グレン・フライ・・・バリーが好きらしい。ところで、何者?(要調査。というより、どなたか教えて下さい) 


【今回の書籍】

『聖書』・・・高村作品では毎度お馴染みの一冊。但し今回のものは、《ギリアム》が手島さんにプレゼントした暗号満載の革表紙の聖書。


【今回の飲食物】
だって美味しそうなんだもん! 下戸の私には、酒の味はちっとも分からないのが辛いところですが。

・ビスケット・・・手島さんが帰宅しなければ、時子さんの夕食になったもの。私には信じられないが、「お菓子だけで一食分OKよ」という女性も、世の中にはいるからなあ・・・。

・お寿司、二合の酒・・・結局は、これが手島夫妻の夕食になりました。

・ファウル(三角形のパン)・・・イアンの帰宅時、投げ出した紙袋からこぼれたもの。食いかけだったらしい。アイルランド名物のパン?(要調査)

・ラガー、ビール、ウイスキー・・・これらは高村作品ではお馴染みですね。

・ローストビーフと茹でたシュリンプと、クリーム煮のキャベツと甘いデーニッシュを三つか四つ・・・入力しているだけで、よだれが出そう(笑) シーリンクのカフェテリアで、ジャックが食べた物。昼前に社用で行った銀行のソファで読んだので、お腹がクークー鳴りそうでした(笑)

・日曜日のアップルタルト。火曜日のフィッシュパイ。木曜日のマフィン。・・・ジャックの伯母・イヴリンが作ってくれたもの。彼女は既に亡くなったので、ジャックは味を覚えていない。

・ウォッカ・・・これも高村作品ではお馴染み。「ウォッカのグラスを片手に」したシンクレアさんという描写でしたが、ナイトキャップをするというジャックの証言もありますし、当然の如くウォッカが注がれていたんでしょう(笑)

***

【登場人物の描写】

手島修三をスカウトしようとする《ギリアム》のあの手・この手・魔の手
前後しますが、時間軸にあわせて紹介。

★その年の早春、トリニティ・カレッジで修士論文を書いていた手島は、専門である十八世紀アイルランド議会の《イェルバートン法》の資料収集のためにアイルランドへ小旅行をした。そして、たまたま通過点であったアルスターのエニスキレンでバスを待っていたとき、その男が手島の隣に座ったのだ。 (p49~50)

手段その1、偶然を装いさりげなく近づく。

★そのとき男は、初対面の青年に向かって、ロンドン大学で教鞭をとっている手島の父の知人だと名乗り (p50)

手段その2、身内の知り合いだと相手を安心させる。

★一九七八年秋、意図示威ギリかに戻った手島は一週間のアイルランド旅行をした。その手島を、旅先のアーマーの大聖堂で待ち構えていた男がいた。 (p49)

手段その3、待ち伏せ。

★アーマーの大聖堂で二度目に会ったその男は、そのとき革表紙の聖書を一冊、手島の膝に置いた。 (p50)

手段その4、プレゼント攻撃・1。

★パリのICPO本部に警部として一年勤務していたとき、偶然道ですれ違った男がいた。《ギリアム》だった。言葉は交わさなかったが、男は目で手島に呼びかけた。 (p51)

手段その5、忘れた頃に現れる。

★ロンドンの日本大使館に一等書記官に赴任した。そのとき手島は初めて、男がイギリス外務省の高官であることを知った。大使館時代の接触は数回あった。いずれも手島は無視したが、クリスマス・カードや花束や観劇のチケットを送ってきたりした。そう、たしか真夜中に電話をかけてきたこともあった。 (p51)

手段その6、プレゼント攻撃・2と電話攻撃。

★散漫な話ではあるが、そのようにして数回の接触を重ねてきた男の狙いは一つ。かつて明確な意思表示を避けた手島に、《君が欲しい》と無言のエールを送り続けていたのだ。 (p51)

まとめ。スパイのスカウトのマニュアルというよりも、悪徳業者か結婚詐欺師のマニュアルみたいだ・・・(笑)
しかし《ギリアム》の粘り強さもたいしたものだが、耐えに耐えて退けてきた手島さんは偉い!


【今回の名文・名台詞・名場面】

★手島は七八年春のアルスターの景色を瞼に浮かべた。爆弾や投石やデモで騒然としていたベルファストを出てしばらく車で走ると、もうどちらを向いても無人の大地ととてつもない緑と驟雨だった。春の色には未だ遠かったが、なだらかな丘陵を覆う雨と霧の下に、滲み出すような緑が浮かんでいた。その色が、永遠の緑に思われた。
荒廃とは違う、歴史も人も死に絶えたような、ある種の絶対的な静寂というものを、そのとき初めて感じたのを覚えている。
 (p53)

この手島さんの回想は、高村さんの回想でもあるのでしょう。描写や表現は違えどもこれとよく似た感慨は、登場人物を代えて何度も出てきます。

★現代史を動かすのは宗教でも民族の血でもない、経済原理だという通説は、少なくともアイルランドには通用しない。なぜなら、彼らのカルヴィニズムが否定するすべてのものが、アイリッシュ・カソリックの持っているものだからだ。「生活さえよくなれば」という、その価値観の根底が違うのだ。 (p57)

★西ベルファストの人間は、間違いなく《生活さえ良くなれば》と考えている。金さえあれば、デモも暴動も起こらなかった。週百ポンドくれるプロテスタントの雇い主と、週八十ポンドのカソリックの雇い主がいたら、間違いなくみんなプロテスタントの職場を選ぶ。問題は、どっちの職場もなかったことなのだ。 (p59)

★家では拳骨を振り回しても、外で何かあると急に身内意識を思い出すのがアイリッシュの男だ。 (p84)

★アイリッシュは全部カソリックで、全部貧しくて、全部飲んだくれで、全部IRAだというのは、ブリットが全部不信心で、全部金持ちで、全部変態で、全部紳士だと言うのと同じだ。 (p86~87)

★アイルランド全三十二州では、カソリックは四分の三で、プロテスタントのアングリカン(聖公会)とブレズビテリアン(長老派)が、四分の一はいる。そして、そのプロテスタントのほとんどが北の六州に集中しているから、共和国の独立から外れて連合王国に残ったのだが、そのとき字自治政府が、少数派カソリックの基本的人権を認めていたら、今日の紛争は起こらなかった。IRAも動かなかった。 (p87) 

★そして、生活らしい生活であろうがなかろうが、戦争しようが仲良くしようが、アルスターに生まれた者は、とにかくアルスターで生きるしかないのだ。カソリックもプロテスタントも。神に唾を吐くために生まれてきた者も。テロリストも。
それは単純な結論だったが、ジャックはそれ以上考えないようにしていた。ロンドンに住んでいると、宗教の違いで血を流そうなどという発想が、彼岸の妄想だったような気もするが、それでは父が戦ってきた戦争は、あれは何だったのか。いくつもの死を見たのは、あれは何だったのか。考え出すと、もはや収拾がつかなかった。
 (p87)

理解を助けるために、あちこちに散らばっている「アイルランド問題」や「アイルランド(人)の特色」について、いくつかピックアップしてみました。
時代や場所が違っても、民族や宗教の問題って、根深く長く複雑な歴史があるものです。


6 コメント

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池澤夏樹 (ぶぶんがぶん)
2006-04-04 21:54:36
またやってきました。

浅い高村ファンです。(それでもファンと言い切る自分がコワイ。)

ここ一年満足に本を読んでいないので

活字リハビリとして、最近、池澤夏樹氏の「イラクの小さな橋を渡って」という文庫本を購入。

そこのあとがきに高村氏との対談についてちょこっと書かれていました。

からなさんはご存知だったでしょうか?

対談は2001年の暮れに行われていたそうです。

私としては初耳だし、びっくりです。

池澤夏樹氏は大好きな作家の一人なのですが

高村氏とどんな対談をしたのか興味津々です。

どこかにないですかね?対談集。



からなさんの文章を読むたびに

自分ってほんとに浅くしか読んでないな~と

つくづく思います。

いかんいかん。

私としては「これは研究書だよ!」と叫びながら読んでます。

ですので楽しみに更新を待っております。

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対談の難しさと楽しみ (からな)
2006-04-06 23:14:31
ぶぶんがぶんさん、こんばんは。

ファンに浅いも深いも、短いも長いもありませんよ♪



>高村氏との対談



いえ、知りませんでした。情報ありがとうございます。



>どこかにないですかね?対談集。



一般的に、「対談集」は書籍になりにくいようですね。話した内容を文字にすると、ニュアンスが違ったりしますし、お互いだけで通じ合って、解っていて敢えて言わない・語らない雰囲気が、活字では伝わりにくいとか。第三者に解るようにするため手を加えるらしく、余計に手間がかかるようです。



でも、小説作品では解らないことが解ったり、作家さんの人となりも垣間見えますから、対談を読むのは楽しいですよね。



池澤夏樹さんが昨年の毎日新聞で、『新リア王』の書評をされた内容が、ご自身のブログでも紹介されています。



アドレス↓

http://www.impala.jp/bookclub/saishinsyohyo/cgi-bin/archives/000233.html



>自分ってほんとに浅くしか読んでないな~



いや、それは読む回数を重ねれば・・・(苦笑) ですから、何度でも読んで下さい(笑)

『リヴィエラを撃て』も、森村誠一さんの選評で「三度読むとわかる」と、ある選者さんが言ったとありますから。

私も現在読んでいて、「ああ、そうやったんか!」と膝を打つことが、度々あります。

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書評、ありがとうございます。 (ぶぶんがぶん)
2006-04-07 19:50:13
またやってきました。

池澤さんの書評読みました。

も~詳しくストーリー書きすぎ!丁寧すぎるんだよね、アノ人も・・。

(好きだといいつつこの言い草)

まったく興味のない人への親切心かな・・。

ともかくありがとうございます。

あの二人のからみが?今後とも楽しみです。

今は池澤さんの長編「静かな大地」を読んでおり

これがおわたっら「新リア王」に挑戦かな・・。と思っております。

ではまた。
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どういたしまして。 (からな)
2006-04-10 21:34:38
ぶぶんがぶんさん、こんばんは。



>も~詳しくストーリー書きすぎ!

>まったく興味のない人への親切心かな・・。



もともと新聞の書評で、制限があったと推測されますが、コンパクトにまとめてらっしゃる。プロはさすがに違いますね。



>「静かな大地」



朝日新聞で連載されていましたね。・・・私、ナナメ読み+飛ばし読みでした・・・(小声で)

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手島修三 (みどり)
2009-12-10 18:30:09
こんばんは!
「リヴィエラを撃て」の手島修三は好きな主人公です。
読んでいるとき、まるで映画のシーンのような感じでした。
ラストは、いつもながらやっぱり悲しかったです。
単行本と文庫本を読み比べていませんが、どちらすぐ購入しました。
「L・j」の文庫本出たらいいんですけど。それこそ首を長~くして待っているところです。
ぬか喜びでも嬉しかったですよ。
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遅くなってごめんなさい (からな)
2009-12-14 22:36:34
みどりさん、こんばんは。風邪のせいでネット落ちしてたので、お返事遅れてしまい、申し訳ございません。

>「リヴィエラを撃て」の手島修三は好きな主人公です。

手島さん好きな私には嬉しいお言葉、ありがとうございます♪
『リヴィエラを撃て』には、まるでリレー方式のように主人公が次から次へと現れ出てきますが、どれも魅力溢れる人物たちですよね。

>ラストは、いつもながらやっぱり悲しかったです。

リトル・ジャックも現在生きていれば、そろそろいい年頃・・・。手島さんの望むような「いい男」になっていれば嬉しいですね。

『LJ』文庫の件は申し訳なかったです。でも、きっと来年には出て欲しいものです・・・。
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