やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

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幽霊だけど恋してる―284話

2014-04-02 10:10:44 | 小説
式神の距離から見える合図。

それは露子が大事にしていたテンちゃんのぬいぐるみだ。

空中に高く舞い上がり、閻魔大王の頭上に届いたときに、生の世界から風を送る。

その風は強い力となって、閻魔大王の顔を覆っていた霧を一気に吹き飛ばした。

閻魔大王もこのことは予想もしていなかった。

風の強さに目を瞑った瞬間に、その顔は露わになる。

露子が想像していた閻魔大王とは違っていた。

その顔はまるで仏のように穏やかだと思えた。

ただ霧が消えると、その顔は見る角度により上下に二つあるようにみえる。

双頭ではないが、その上から見た時の顔は穏やかに天を見つめ、下から見上げる時の顔は恐ろしく地を睨んでいた。

天と地獄。

その感情を表した表情だ。

「露子。私の負けだ」

穏やかな顔がそう呟いた。

「ひとつだけ願い事を聞いてやると伝えた。その願いをいいなさい」

「はい」

露子がここに来た願いは、悪霊と死霊をこちらの世界に連れてくること。

だがこの試練を超えた時に、少し悩んでいた。

自分をここまで守ってくれた仲間たち。

自分を愛してくれた人達。

すべてを守りたい。

ずんばばばぁも返してほしかった。

だがそのすべてを叶える言葉は浮かばない。

「どうした?悪霊を地獄に連れてきたいか?死霊を地獄に落としたいか?それとも・・・生まれ変わりたいのか?」

「生まれ変わりたい?」

思わぬ言葉に、露子の思考が混乱した。

そんなこと考えもしなかった。

欲を言えばそうなのかもしれない。

もし生まれ変われれば、今度こそ本当の恋が出来るかもしれない。

生きている時に好きだった優一や、生霊の透のことは忘れてしまうかもしれないが、その経験を踏まえて新しい自分が生まれるかもしれない。

その事を考えると、露子も欲に負けそうだ。

でもそれはまた、露子の大切なものを失うことにもなる。

回答が出ないまま、時間が過ぎていく。

その時、「露子が幸せになることが一番だよ」

急にその言葉が、頭の中に響く。

「えっ?」

式神の声だった。

式神が答えをくれた。

私が幸せになること。。。

「それは・・・」

露子は閻魔大王を見上げる。




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