醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1321号   白井一道

2020-02-07 11:22:01 | 随筆・小説



   徒然草第146段  明雲座主、



原文
 明雲座主(めいうんざす)、相者(さうじや)にあひ給ひて、「己れ、もし兵杖(ひやうぢやう)の難やある」と尋ね給ひければ、相人(さうなん)、「まことに、その相(さう)おはします」と申す。「如何なる相ぞ」と尋ね給ひければ、「傷害の恐れおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思(おぼ)し寄りて、尋ね給ふ、これ、既に、その危(あやぶ)みの兆なり」と申しけり。
 果して、矢に当りて失せ給ひにけり。

現代語訳
 明雲天台座主は人相見に出会い、「私には、もしかして武器による災いが起きるだろうか」とお尋ねになったところ、人相見は「誠に、その兆しがでています」と申した。「如何なる災いの兆しがあるのか」と、お尋ねになると「傷害を受ける恐れがありませぬようご自身でも仮にも災いが起きやしないかとお尋ねになる。このことが既に災いの兆しだ」と申した。
 果たして、明雲天台座主は矢に当たりお亡くなりになった。

 人相とは、   白井一道
 『人間喜劇』の小説群を書いたフランスの小説家ド・バルザックは「三十才を過ぎなければ女には顔がない」と言ったという。顔にはその人間の人生が表現されている。37点もの自画像を描いたゴッホは自分の顔に何が表現されているのかを知るために自画像を描き続けた。同じようにオランダの画家、レンブラントも何点もの自画像を描いている。顔にはその人間の生活が表現されている。
 人相を見る。顔にはその人間の思想が表現されている。人に対して優しい人、厳しい人、朗らかな人、冷たい人、暖かい人、そのすべてが顔には表現されている。顔には人間が表現されていると言う事を兼好法師は述べているのかもしれないなと、私は感じた。