醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1336号   白井一道

2020-02-23 07:46:04 | 随筆・小説



   徒然草第161段 花の盛りは



原文
 花の盛りは、冬至より百五十日とも、時正(じしやう)の後、七日(なぬか)とも言へど、立春より七十五日、大様違(おはやうかが)はず。

現代語訳
 桜の花の盛りは、冬至より百五十日ほど後とか、春分の日より二日後の昼夜が等しい時正(じしやう)の後、七日とも言われているが、立春より七十五日がおおよそ違うことはない。

 花を待つ人   白井一道

 立春が過ぎても「春は名のみの風の寒さや」と詠われるような日々が続くが、そのころからだろうか、そろそろ梅の花が咲き始め、桜の花が咲き始めるのを待ち望む日がやって来る。平安時代に生きた貴族たちにとって、時間はゆったりと流れていた。
 桜の花がいつ咲き始めるかを待っ日々が来ると夢の中にも桜の花が咲き始めたと詠んだ歌人がいた。

朝夕に花待つころは思ひ寝の夢のうちにぞ咲きはじめける         (崇徳院)千載和歌集
 
 
 山村に住む者にとって春は胸はずむ季節だ。山の若葉が萌えだすと日に日に春は迫って来る。沢を流れる小川のせせらぎに春が来ていると告げ始める。街場に住み、桜の花が咲くのを待ち望む人々に残雪の残る山肌に雪の間から草が萌えだすのを見せてあげたいものだと詠んだ家人がいた。

花をのみ 待つらん人に 山里の 雪間の草の 春を見せばや  藤原家隆


昔、山の中で見た山桜に心奪われた。その美しさが忘れられない。あぁー、いいなぁー。山の中に咲く桜の美しさは私一人だけのものだ。心の中にいつまでもしまっておきたい宝物だ。そんな思いが夢の中に出て来たと詠んだ家人がいる。

思ひ寝の 心やゆきて尋ぬらむ 夢にも見つる山桜かな      藤原清輔