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阿辻哲次さん『戦後日本漢字史』

2011-01-18 20:53:09 | 読書
本書は、漢字学を専門とし、現在は京都大学教授である著者が、

戦後の漢字を巡る動向を概説する著作です。


著者はまず、戦前の漢字規格や占領政策としての漢字廃止論を紹介した上で、

その後の国語審議会での当用漢字や常用漢字を巡る議論、

さらに、コンピューター時代における漢字や常用漢字について論じ、

最後に漢字文化の今後について検討します。



『康熙辞典』に基づく正字・誤字・俗字の基準

での表意派と表音派の議論

そして、JIS規格による強引な包摂など、

身近な漢字にかかわる問題だけあり、どの記述も興味深かったのですが

とりわけ印象的だったのは

終戦まもなく作られた当用漢字字体表の作成を巡る『密室』での作業です。


しばしば耳にする『常用漢字』について、

その意義や変遷を平易に解説するとともに、

国家と言語の関係について、根本的に再考させられる本書


国語や文字に強い関心をお持ちの方に限らず、

多くの方にオススメしたい著作です。

木内昇さん『漂砂のうたう』

2011-01-18 11:18:19 | 読書
本書は、『茗荷谷の猫』などで知られる著者による長編時代小説


芸娼妓解放令が出された後の根津遊郭を舞台に、

かつては武士だった立番と、

楼主、遣手、妓夫太郎、花魁ら

彼を取り巻く人々を趣のある文章で描きます。


主人公に近付く怪しげな噺家

没落の憂さを一夜の享楽で晴らす士族たち

そして、厳格だった父や兄への追想

どの場面も哀惜に溢れ印象的でしたが、

とりわけ印象的だったのは、

圧巻ともいうべき気高い花魁道中です。


鉄道が走り、士族が各地で叛乱をおこす―

一見、激しく移り変わるかに見える世で、

変わることも、変わりようもなく生きる人々を情感豊かに描いた本作



著者の作品や時代小説が好きな方に限らず、

多くの方にオススメしたい著作です。