富山高波 3
わが家無残 生活不安 避難所から一時帰宅
2008年02月26日
避難所のお年寄りに話し掛ける保健師(中央)=25日午後6時20分、入善町東狐の町農村環境改善センター
県東部での高波被害で、入善町の避難所となっている同町農村環境改善センター(同町東狐)では二十五日、住民十五人が二日目の夜を迎えた。避難指示が避難勧告に切り替わり、前日まで五十人余りいた避難住民のほとんどが一時帰宅。濁流とともに泥などが流れ込んだ家屋を見てショックを受けた。自宅での生活再開をあきらめ避難所に戻った高齢者らは「今後の生活はどうなるのか」と話し、疲労と不安の色がにじんだ。
避難住民は、ほとんど眠れないまま朝を迎え、疲れた表情で新聞やテレビで被害状況を確認した。避難指示が避難勧告に切り替わったことが伝えられると、多くの人が一時帰宅。屋内に流れ込んだごみや樹木などの撤去作業に追われた。
夜になると、後片付けができない一人暮らしの高齢者や、家屋の損壊が激しく自宅に住めない人が、避難所に引き返した。
同町芦崎の倉田きよ子さん(67)は「電気も水道も復旧していないので、生活ができない。避難所では眠れないので疲れがたまる」と話した。同地区で一人暮らしする母親の身の回りの世話をする金沢市の高畠勝志さん(47)は「母親を避難所で長く生活させるのは心配」と不安げな表情を見せた。
避難所で体調チェックに当たっている野坂真澄保健師は「避難所では眠れない人が多く、自宅の損壊を見てショックを受ける人もいる。体調のことを考えると、一日も早く住宅の復旧が進んでほしい」と話している。
北日本新聞社 富山のニュース
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水の使用 我慢して 入善・芦崎
2008年02月26日
水の使用自粛が呼び掛けられたことを受け炊き出しがあり、大勢の被災者が訪れた=25日午後5時半ごろ、入善町の芦崎漁業研修センター
県東部を襲った高波被害で最も大きな被害を受けた入善町芦崎にある同町現地対策本部は二十五日、芦崎の被災者に風呂や水洗トイレの水を極力使わないよう自粛を求めた。
生活排水処理のために使用している雨水排水路に高波で土砂が詰まり、一斉に水を使うと汚水が逆流する恐れがあるためだ
。「水が出るのに使えない」。被災者からやるせなさを訴える声が上がる中、同本部は仮設トイレ二十五基を同地区に設置した。
現地対策本部によると、芦崎地区では、ほとんどの世帯が井戸水を使用している。調理や洗面などに伴う各家庭の生活排水やし尿は、雨水排水路に排出されている。
高波被害後、大量の土砂が雨水排水路に流入し、十数カ所が詰まっていることが判明。このまま被災者が自宅でこれまで通りの生活を送れば、汚水が逆流する恐れが出てきた。
同本部は二十五日、土砂の除去作業に入るとともに、広報車や防災無線で、水を極力使わないよう被災者に要請。二十六日までに仮設トイレ計四十基を設置する。料理も水を使うことから、同対策本部で弁当を配布したり、炊き出しの利用を呼び掛けた。
自宅が浸水した自営業、井田貢さん(52)は二十五日夕方、芦崎漁業研修センター前で行われた炊き出しのうどんが夕飯。この日、自宅に戻ったが、町内の別の地区にある実家の風呂を使った。「被災者みんなで我慢するしかない。早く自宅で食事ができる日が来てほしい」と話した。
農業集落排水などを含む入善町の下水道整備率は73パーセント。芦崎では土地の境界が入り組んだ地区特有の事情も絡み、漁業集落排水事業による下水道整備が平成十七年からようやく始まった。約三百三十世帯のうち普及しているのは約三十世帯。これから本格的に工事を進めようとした矢先の高波だった。
同本部は「できるだけ早く雨水排水路の土砂を除去したい」とし、水の使用自粛への協力を求めている。
■4トンの防波扉破壊 芦崎の護岸堤
県東部を襲った二十四日の高波で、入善町芦崎の護岸堤に設置された重さ四トンの鉄製防潮扉が破壊された。これにより護岸堤には約十メートルの切れ目が生じ、大量の海水が流れ込んだ。地元住民の一部からは「防潮扉が破壊されなければ、ある程度被害を食い止められた」との声が出ている。
設置した町は「波は護岸堤をはるかに超える高さだった」として、浸水被害との関連性を否定している。
町によると、防潮扉は開閉でき、五、六年前に住民が海岸に入りやすいようにと設置した。行楽客の多い夏場などに開放している。今回の高波でくの字形に折れ曲がり、押し流された。
防潮扉が設置されていた護岸堤付近から大量の海水が流れ込んだため、一部住民からは被害との関連を指摘する声が出ている。
町は「建設当時に想定されていた波の高さをはるかに超えていた。今後、新たに設置する防潮扉については高さを含めて検討する」としている。
■計7ヘクタールの田に海水 入善・朝日
入善町や黒部市などの沿岸部で発生した高波により入善、朝日両町で計七ヘクタール程度の田が海水に漬かったことが二十五日、県の調査で分かった。県によると、漁船の破損、転覆、流出は計三十六隻。同日はまだうねりが残ったため定置網などの確認が進んでいないが、県は「かなりの被害がありそう」とみる。
海水に漬かった田では今後、土壌調査などを行い、必要に応じて対策をとる。
県水産漁港課のまとめでは漁船の破損は二十九隻、転覆六隻、流れて所在が分からなくなった船が一隻あった。
新湊漁協によると、新湊漁港で係留中の船同士がぶつかったり、岸壁に打ちつけられ三、四隻が損傷。伏木国分の国分港でも三、四隻が転覆などし、漁具を収納する船小屋五、六棟が損壊した。
北日本新聞社 富山のニュース
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入善町ルポ 町中に土砂・家は水浸し
高波で転覆した漁船が回収される入善漁港(25日午後4時1分) 断続的に続いた高波から一夜明けた25日、最大の被害を受けた入善町芦崎地区などでは、家屋が無残に壊れ、家財道具は散乱、町中に土砂や木材があふれていた。住民らは後片付けに追われていたが、復旧には時間がかかりそうだ。
入善漁港では、防波堤を越えた波で、約20隻の漁船のうち5隻が転覆。この日は引き上げ作業が始まっていたが、漁師の立塚達男さん(60)は「今はアンコウ漁の最盛期。漁ができるように戻るまで、あと1か月くらいかかるよ」と深いため息をつく。
隣の家と納屋がつぶれ、屋根や木材が1階の玄関横に突っ込んできた会社員石川奈津美さん(18)は、自宅にいた24日午前10時ごろ、急に大きな波が来て、腰まで水につかった。「住めるように戻るかわからない。お金もかかるし心配」と不安そうだ。
避難所で一夜を過ごした約50人は、25日夜には15人に。その一人の松岡金太郎さん(80)は、「家は水浸しで、寝る場所もない。片づけようにも水は出ないし、戻れないよ」。
芦崎地区に隣接する同町下飯野の路上には、重さ16トンの消波ブロックがあった。高さ約8メートルの防波堤を乗り越え、20メートル以上流されたことになり、自然の威力に改めて驚かされた。(写真・佐々木紀明、文・安藤康子)
高波から一夜明け、半壊した家屋などから廃材の搬出作業にあたる人たち(25日午後2時45分)
住宅に流れ込んだ土砂を集める住民(25日午前9時29分)
(2008年2月26日 読売新聞)
カメラリポート 写真 北陸発 YOMIURI ONLINE(読売新聞)