--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

窓のダンボールと光学観測

2006-09-04 | 南極だより・観測
<この記事は9月10日に書いたものです>
1週間前の南極だよりをずいぶんさぼってしまい、今頃アップです。
でも、8月の分もまだ書いていないのがあって、ちょっと焦り気味。
渡井さんがS17から帰ってきたので、この数日間の南極だよりも届くと思うし・・。
頑張らなくちゃ。
それでは、渡井さんからの南極だよりです。
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2006年9月3日(日)曇り 窓のダンボールと光学観測

基地の窓にはカーテンが取り付けられている。
また場所的にカーテンが取り付けられないところは全てダンボールで覆ってある。
何故だろうか?

これは室内の暖かさが外に逃げるのを防ぐためではなく、宙空部門のオーロラ光学観測のためなのである。
このところめっきりオーロラを見ることが少なくなったが、観測は毎日続けられている(一晩中見ていると規模の大小にかかわらず毎日見ることはできるらしい)。

夏に初めてこのダンボールを見つけたときは、この役目がわからず観測棟の入り口に張ってあったダンボールをはがしてしまった。
雪面の反射による眩しさを防ぐためかと思ったのだ。
ダンボールの意味に初めて気がついたのは、夜が始まり光学観測が行われるようになった頃であった。

昭和基地には宙空研究用の可視画像用のカメラが5台ある。

全天単色イメージャ(ASI : All Sky Imager)は2種類。
1つは全天のオーロラの空間分布を3波長で観測し、降下電子のエネルギーやフラックスの空間分布を得る装置だ。
検知器にはCCDが用いられ温度は-50℃に保たれている。
データは1波長あたり20秒、1セットのデータが1分間隔で得られる。
なおこのASI-1、特注なので値段は1000万円以上する代物だ。

もう一つはオーロラの単色デジタル画像を取得するためのASI-2だ。
これはもう一つの光学観測機器ファブリペローイメージャ(FPI)の参考用の画像を取得することが目的である。
こちらも検知器は-60℃に冷やされたCCDだ。
市販品を組み合わせたものなので、値段は安くなっているようだ。

真ん中にあるのは可視画像用の全天TVカメラ(ATV : All-sky TV)のレンズ。
魚眼レンズのついた普通のビデオで、基地内のwebにリアルタイムでオーロラ映像を流したり、後日ASIなどで得られたデータを解析する際の参照用にもなる。

#右からASI-1、ATV、ASI-2

以上は全て情報処理棟にあるものだが、隣接している光学観測棟には、昭和-アイスランドの共役点オーロラ観測用カメラ(CAI : Conjugate Aurora Imager)もある。
オーロラは北極にも南極にも現れ、その変動は太陽活動に大きく左右される。
そこで北極圏のアイスランドと南極の昭和基地で同時に観測を行うことで特性を研究しようとするものだ。

#CAI
カメラよりドームに映った人に目がいってしまう・・


最後に、衛星受信棟の上に設置された透明なドームに覆われたテレサイエンス用のカラーカメラだ。
これは観測データをインテルサットを用いてリアルタイムで伝送し、また観測を日本にいながら遠隔自動運用することによって、オーロラ研究をできるようにしようという試みだ。
広報的用途にも使われ、このカメラで取得される映像だけはjpegファイルだ。


#テレサイエンス
これだけ大きい?


-----9月3日本日の作業など-----
・論文
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック

<日の出日の入>
日の出  7:32
日の入  17:12
<気象情報>
平均気温-21.3℃
最高気温-20.3℃(0005) 最低気温-23.4℃(2313)
平均風速3.0m/s
最大平均風速6.3m/s風向NNE(1840) 最大瞬間風速8.3m/s風向NNE(1830)
日照時間 0.0時間

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南極で観測するものとは?と聞かれたら、多くの人が迷わずオーロラと答えるのではないでしょうか?
私もそうです。
今まで南極だよりで紹介してきたオーロラの観測は、掃天フォトメータ、HFやMFの電波を使用したものでした。
今回は、オーロラをそのまま?見て観測をするものが出てきて、少しだけ私まで観測に参加している気分になりました。
それもそのはず、この全天TVカメラ(ATV : All-sky TV)は日本でも見ることができるからなのです。
残念ながらカラーではないのと動きが見られないのですが、1分ごとに自動更新してくれるので便利です。
オーロラが出たとの情報が後で入った場合でも大丈夫。
Selected All-sky data plotで、観測されたオーロラの様子を見ることができるのです。
これが、1枚目の写真の真ん中にあるカメラで捉えられたものです。
毎日のオーロラ観測の記録はオーロラ光学観測月別サマリを見ると、昨晩はどんな空だったのか?というのが分かって、さらに身近に感じるのです。

光学観測棟にある、昭和-アイスランドの共役点オーロラ観測用カメラ(CAI : Conjugate Aurora Imager)は、CAI絶対値を校正した2台の同型デジタル全天イメージャーなのだそうです。
絶対値を校正したというのが、どういうことなのかは詳しくは分からないのですが、なるべく同じ条件で精査できるように調整してあるということなのでしょう。
磁力線は南極から北極につながっているので、太陽から発せられた電子は北半球と南半球の両極にあるオーロラ帯に同時にオーロラ現象を起こすのだそうです。
しかも、南北の1つの磁力線で結ばれた2つの地点では、良く似た形や動きのオーロラが観測されると言われており、これを共役点オーロラと呼んでいます。
しかしこの双子のオーロラは、そっくりだった動きが全く違った動きになることもあるらしく、それを調べることが、オーロラ発生のメカニズムを解明すると考え、この共役点での観測が重要になっているのだと書いてありました。
アイスランドと昭和基地は北緯・南緯である点を除くと、地磁気の緯度経度の数字が同じなのです。
北極・南極側の両方が陸地で、かつオーロラ帯上である場所はとても少なく、北極・南極側の両方が陸地である場所も、南極で昭和基地以外は観測基地がないのです。
ですから、現在アイスランドと昭和基地だけが、継続してオーロラを同時観測できる共役点だということです。
オーロラ世界資料センターサイト内の共役点オーロラに分かりやすく書いてあるので、そちらを見ていただければ詳しく分かります。

昭和基地にある全天単色イメージャ(ASI : All Sky Imager)は単色と書いてあるので、モノクロなのでしょうね?
極地研ではアムンゼン・スコット南極点基地(南緯90度)でもASIを使って観測をしているようで、そちらはどうやら単色ではなく、カラーのよう。
南極点だけに4月から8月の冬の間は約4000時間連続してオーロラを観測できるのだそうです。

オーロラの画像をリアルタイムで見るためには宇宙天気情報センターがお勧め。
太陽活動が活発になる日を狙ってチェックすれば全天TVカメラ(ATV : All-sky TV)
そろそろ観測が始まったオーロラライブ(NiCT)でも見られるのではないでしょうか?

オマケですが。
アムンゼン・スコット南極点基地(南緯90度)でのオーロラ観測ページに1年に1度の南極点における日出画像が出ているのです。
確かに南極点は日の出も日の入りも年に1度。
日が出ると地平線をひたすら転がり続けています。
24時間オーロラが出ている下で、地平線を太陽が歩き続けている画像はすごいと言うよりもなんだかとても不思議な感じがしました。

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