--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

地上オゾン濃度連続観測

2006-10-19 | 南極だより・観測
職場に電話がかかってきました。
渡井さんとは小中学校の同級生だという方からでした。
観測隊に参加していることは、南極から年賀状をもらって知っていたけれど、どうしても連絡を取りたかったとのこと。
手紙というわけにもいかないし、かといって他の連絡方法が分からず困っているところで、私の職場のwebサイトに渡井さんの「南極便り」があるのを見つけて連絡してくれたようでした。
見ず知らずの学校にまで電話をしてくれるなんてすごいことだなぁと思いました。
ただ、年賀状に実家の住所やメールアドレスくらい書かなかったのか?という疑問はあるのですが。
それでは渡井さんからの南極だよりです。
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2006年10月18日(水)プチブリ 地上オゾン濃度連続観測

自分が行っている観測の一つに地上オゾン濃度連続観測がある。
南極でオゾンというとオゾンホールが思い浮かぶが、その場合のオゾンは気柱量を指す。
地表からはるか上空までのオゾンを全部足した量だ。
一方地上オゾン濃度は地上にあるオゾンの濃度なので同じものではないのである。

オゾンの発生源は成層圏から輸送されてくるものの他に、対流圏内で一酸化炭素や炭化水素の光化学反応でも生成されるものもある。
一方消滅減は水素酸化物との反応だ。
風のない日などは新発から出される排気ガスの影響でオゾンが壊れ、一般的に濃度は低くなってしまうほどだ。
また昭和基地ではこのようなコンタミ(※コンタミネーション)を除けば明瞭な季節変化を示し、冬があけた8-9月頃に最も濃度が高く35ppbほどにもなる。

さてこのオゾン濃度の観測、他の二酸化炭素やメタンなどの連続観測は全て観測棟で行っているのに対しゾル小屋(※エアロゾル小屋:清浄大気観測室)で行っている。
大気観測では基地の汚染をできるだけ避けたいのだが、オゾン観測装置が割合コンパクトであるため移設が可能だったのだ。
この装置はかなり安定して動作するので 、毎日のメンテナンスが必須というわけではない。
そんな訳で毎日のチェックは、ゾル小屋の中に置いたオゾン計を写しているwebカメラを利用して行っている。

一般的にブリの日はオゾン濃度も低くなるのだが、最近、時折0.0ppbという値をはじき出すことが時折みられるようになった。
故障かと思ったがそうではない。
このような低濃度は春先に時折観測されるようなのだ。
上空からの輸送、現場での反応、これらが複雑にからみあってオゾン濃度の変化を起こしている。
何故こうなるのか?を調べるのが観測隊の役割である。


#オゾン計

#モニタには0.0296と表示されている
どうやらppmでの表示らしい


#10分ごとのデータらしい
今日は30ppbほどのよう


-----10月18日本日の作業など-----
・日刊昭和アザラシをみたら特別号編集
・観測部会資料周知
・S17オペレーションサマリ
・オペ会
・夕食後記念写真
 36人全員揃っての夕食は越冬期間中はこれが最後
 今度は2月上旬 しらせの中
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック
・HVS Air分析&濃度計算
 いまいち

<日の出日の入>
日の出  4:12
日の入  20:05
<気象情報>
平均気温-8.6℃
最高気温-7.5℃(0319) 最低気温-10.8℃(2400)
平均風速12.3m/s
最大平均風速20.9m/s風向NE(0840) 最大瞬間風速25.8m/s風向NE(0847)
日照時間 1.4時間

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さーて、調べすぎてどこから手をつければいいか分からなくなってきました。
今まで、(対流圏オゾンのことも少し触れていますが)オゾン層とかオゾンホールが話題になることが多かったです。
私も昔はそうだったのですが、二酸化炭素は悪者、オゾンはいいもの、メタンは悪者・・と、こんなふうに分けたくなるのです。
で、オゾンは紫外線を遮って私たちを守っている!
しかも、脱臭殺菌にも使われ、オゾン水なんてものまで売り出されている!!
ということで、私の中で勝手に「よいもの」に分類されるのでした。
渡井さんの南極行きの準備に合わせるように、南極調べにのめり込んでいく私。
オゾンホールに端を発して調べていくうちに、オゾンのことがだんだん分かっていくのです。
かつては、成層圏にあるものだと思ってたオゾンは私たちの周りにあります。
確かにオゾンはフッ素についで酸化作用が強く、殺菌や脱臭に役立っています。
大気中でもおそらく、殺菌や脱臭になるような酸化作用が行われていると思うのです。
しかし、必要以上にオゾンが増えるとどうなるのか?

オゾンは赤外線を吸収することから、二酸化炭素、メタンについで3番目の温室効果ガスと言われています。
また、大気中でOHラジカル(フリーラジカルについては、説明しきる自信がないのでWikipediaのラジカルを参考にしてください)を生成させ、これがメタン等と反応して温室効果ガスの大気中濃度に影響を与えるという役割もします。
オゾンは温室効果だけではありません。
南極だよりの中に
オゾンの発生源は成層圏から輸送されてくるものの他に、対流圏内で一酸化炭素や炭化水素の光化学反応でも生成されるものもある

と、書かれています。
成層圏から降りてくる?オゾンはさておいて、後半の光化学反応で生成されるものもあるとありますね。
化石燃料の燃焼(自動車や工場など)により発生する一酸化炭素や炭化水素などが太陽などの光で光化学反応を起こし、オゾンが生成されるのだそうです。
光化学スモッグの原因となる光化学オキシダントのほとんどが、このオゾンだということでした。
このように、オゾンは人間の健康や植生にとって悪影響を及ぼす有害物質でもあるのです。
東京では、夏になるとよく光化学スモッグの注意報が発令されます。
ほとんどがオゾンだという、光化学オキシダントの濃度を見てみると、
注意報:オキシダント濃度が0.12ppm以上で継続するとき
警報 オキシダント濃度が0.24ppm以上で継続するとき
重大緊急報 オキシダント濃度が0.40ppm以上で継続するとき
(大気汚染防止法施行令の及び大気汚染防止法施行規則)
となっています。
渡井さんが昭和基地で測定しているものと単位が違うので、同じ単位に直してみると、
注意報:120ppb
警報:240ppb
重大緊急報:400ppb
(#ppmは1gの 1,000,000分の1、ppbは1gの1,000,000,000分の1)
となります。
地上オゾンの観測値と光化学オキシダントの観測値がどのくらい違いがあるのか分かりませんが、参考くらいにはなるでしょうか?
地上オゾン濃度の経年変化(気象庁)を見ると、季節によって明らかな振幅がありますが、普段の地上オゾンはこのようになっています。
ただ、この3地点はいずれも大都市から遠く、都市部での観測結果はもっと違うかもしれませんし、昭和基地での観測結果は見つけることができませんでした。
(※綾里:岩手県大船渡市)

私が驚いたのは、化石燃料の燃焼によって一酸化炭素や炭化水素類が排出されることで生成されるオゾンが、やはり排ガスに含まれる水素酸化物によって消滅するということでした。
新発の排ガスでオゾン量が減少すると書いてあり、どういうことだか理解するのにずいぶん時間がかかりました(といっても今もちゃんと理解はしていないと思いますが)。

さらに調べていて驚いたのが、紫外線との関係です。
オゾン層を破壊するのは紫外線でしたよね。
でも、先ほどの光化学反応にはやはり紫外線がかかわっています。
紫外線はオゾンの生成にもかかわり、分解にもかかわるということなのです。
オゾンの生成にかかわる紫外線は、分解にかかわる紫外線より波長が短いようです。
つまり、オゾン層が破壊されて短い波長の紫外線が届くようになることで、より地上のオゾンが生成されることになるということですね。

昭和基地での観測では、ブリザードや新発の排ガスや風向きなどで、大きく数値を変えるオゾン。
この時期30ppbほどなのにブリザードの時には10ppbほどになる、そして時に0.0ppbになることもあるということでした。
二酸化炭素では大きな振幅がないと聞いていましたが、オゾンはどうやらいろいろなものに左右されて数値を変えている様子です。

オゾン層が紫外線を遮り、温室効果ガスにもなり、他の温室効果ガスを増やす役割もし、光化学オキシダントとなり人や植物に影響を与えている。
しかも光化学スモッグに見るとおり、その日の状況で濃度が大きく変化をする。
南極でもブリザードや排ガスに大きく影響されています。
どうやらオゾンが非常に不安定な物質であるがゆえに、いろいろな反応を繰り返すのだということが見えてきました。
その反応を残留塩素を残さない強力な殺菌方法、脱臭方法として、現在いろいろな分野で利用されています。
オゾンの強力な酸化作用により 細菌の細胞壁を破壊 または分解することで殺菌をします。
細菌のように小さいものはいちころです。
人間も50ppm(50,000ppb)ほどの濃度になると、この強力な酸化作用によって、1時間で生命が危険な状態になるのだそうです。
オゾンって驚くほどいろんなことをやってくれるんだと、思わず感心してしまいます。

こうやって書いてくるとオゾンというものは、私たちにとって大切なものであるけれど、必要以上にあってもいけないものだということが分かります。
本来は、あるべきところに必要な分だけあったものが、崩れつつあるということも見えてきました。
地球上で、とても微妙なバランスを保っているものは、オゾンだけではないはず。
そのバランスがどう崩れているのか、文明社会から遠く離れた南極で観測する意味がここにもあるような気がしました。

<以下、渡井さんに問い合わせている質問>
昭和基地ではオゾンそのものが成層圏や低緯度地方からくるの?
それとも、発生源が来てオゾンになるの?
この時期に増えるのは、
成層圏からの影響と低緯度地方からの影響のどちらが大きいの?

新発からの排ガスでオゾンが消滅するということは、
オゾンを生成するものも、消滅させるものも排ガスなの?(これは自己解決)
だとしたら、どうして風のない日は、消滅のほうに傾くの?
気象庁のレポート(2004)だと、6-7月のオゾン量が多かったんだけれど、今は8-9月でいいの?

疑問の追加。(10/21)
<渡井さんに送ったメールのため、話し言葉で失礼します>

> 新発からの排ガスでオゾンが消滅するということは、
> オゾンを生成するものも、消滅させるものも排ガスなの?(これは自己解決)
> だとしたら、どうして風のない日は、消滅のほうに傾くの?
>
> これは解決したようだからよいよね。
> 風のない日は排ガスがたまって影響をもろに受けるんだよね。

これね、上の2行だけ自己解決なの。
どうして風のない日は消滅に傾くのかというのは、まだ疑問中。
風がないと、排ガスがたまるというのは分かるんだよ。
でもね、夏の東京では、空気のよどんだ風がなくて雲がうっすら出ていて暑い日に光化学スモッグが発令されるの。
これって排ガスが風に飛ばされずにたまって、光化学反応が進んで光化学オキシダントが多くなると思うんだよね。
これって、渡井さんが書いている風のない日は排ガスの影響で消滅に傾くというのと、反対だと思わない?
排ガスの中にオゾン生成の先駆物質と消滅にかかわる物質があるわけだから、東京と昭和基地の何かの条件が違うことで、反対になっているのでしょう?
それは何なのかな?って思ったんだ。


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