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さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

綺麗なだけじゃない

2010-03-17 22:24:47 | その他
Whiskered Auklet
Credit: John Doe/USFWS


 孔雀や極楽鳥など、誰か作ったんじゃないかと信じたくなるほど凝った見た目の生物は多い。そのような所謂“装飾”が何故進化したのたのか、分かっているようで実はあまり分かっていない。「異性が気に入るから綺麗な装飾を持つ個体(遺伝子)が選ばれて進化した(キリッ)」、と言えば何となく納得した気になるかも知れないが、じゃあ何故綺麗な装飾の異性が好きなの?装飾が邪魔で生存能力が落ちたら気に入る方も気に入られる方も淘汰されないの?など考えはじめると、また分からなくなる。

 一つの有力な説明は、もともと装飾は生存に意味のある器官から発達したと考えることだろう。シラヒゲウミスズメAethia pygmaea(写真)という海鳥の頭には冠毛と呼ばれる装飾が付いている。最近の研究によればこの冠毛は感覚器官として機能していて、彼らの住処である暗い洞穴の中で頭をぶつけない為に役立っているらしい。

 確かめたのは暗い迷路の中で冠毛をテープで留めた個体とそうでない個体とで頭を壁にぶつける頻度を測定するという実験。この実験によると冠毛を留められた個体はそうでない個体と比べて3倍頭をぶつける回数が多かった。


<参考>
Seabird evolved head feathers as sensory device (New Scientist)

ミトコンドリアの逆襲

2010-03-07 02:42:46 | その他
 全身性炎症反応症候群(SIRS)は病原体の感染や外傷によって引き起こされる炎症、心拍数の増加、呼吸障害、多臓器不全を伴う症状で、集中治療における主な死因の一つである。特に病原体に起因するSIRSは敗血症と呼ばれるが、これは病原体の侵入に対する人間側の免疫反応が過剰になって起きるとされている。同じ症状が外傷だけでも起こることは以前から知られていたが、一体なぜそのような病原体が存在し無い場合でも免疫の暴走が起きるのか研究者の間では謎だった。

 Harvard Medical SchoolのHauser らの最近の研究によると、免疫を暴走させている犯人は、我々自身のミトコンドリアらしい。ミトコンドリアは我々の細胞の中にある細胞小器官の一種で、酸素を使って有機物からエネルギーを取り出すという重要な役割を持っている。ミトコンドリア自体はもともとは自立した原核生物だったのだが、遠い昔に真核生物の細胞の中に取り込まれて共生化したと考えられている。我々の中にいるミトコンドリアは完全に器官と化しているのでもはや単独で生きていける能力を持ってはいないが、自立的に生きていた時代の名残としてか最小限のゲノムをまだ保持している。ミトコンドリアは細胞の内側に存在しているので、普段は免疫系の細胞と接触することはない。しかし、外傷などを受けて細胞が損傷すると、壊れた細胞膜から大量のミトコンドリアが流出する。研究によればこの流出したミトコンドリアがバクテリアの感染を受けていると免疫系に誤認させ、SIRSを引き起こすらしい。

<参考>
Circulating mitochondrial DAMPs cause inflammatory responses to injury
Nature 464, 104-107 (4 March 2010) | doi:10.1038/nature08780

How the cell's powerhouses turn deadly (Nature@News)

飛べないメスの蚊はただの虫けら

2010-02-26 23:44:51 | その他
 ネッタイシマカ(Aedes aegypti)はデング熱、黄熱病といった感染症を媒介する重要な衛生害虫の一種だ。特にデング熱に関しては今のところ有効なワクチンや治療法が開発されていないので、殺虫剤による媒介蚊の駆除が主な対策手段となる。しかし厄介なことに、この蚊は都市部に非常に適応しているので、水桶や花壇の鉢の水など居住空間の様々な場所で繁殖することができる。そのため、生息地が分散してしまい集中的な殺虫剤の散布で個体数を減らすことが困難な場合が多い。

 殺虫剤に変わる害虫の駆除方法として、不妊虫放飼という方法がある。この方法では、何らかの方法で人工的に不妊化(要するに”種無し”にする)した虫を大量に作って野外に放出する。すると、性欲は一人前にあるが子孫を残せない虫(通常オスが使われる)が野外に溢れることになるため、同じ種の虫の数が徐々に衰退していくことになる。この方法はうまくいけば非常に効果が高く、実際、特定の害虫種を完全に根絶してしまうことも可能である。日本でもウリミバエという外来の農業害虫を沖縄県から根絶した経緯がある。

 蚊に対して不妊虫放飼法が行われた例はこれまでに幾つかあるようだが、大規模な実施での成功はまだ無い。一般的に、蚊の不妊虫放飼には以下のような困難が伴う
  1. 従来の方法で不妊化することが難しい
  2.  通常、昆虫の不妊化は蛹期に放射線を照射することで行われる。しかし蚊の場合、蛹の時期は水生生活(オニボウフラ)なので、扱いが困難で大量に処理できない。
  3. 蚊の個体群サイズは幼虫期の資源獲得競争に規定されている
  4.  蚊の幼虫(ボウフラ)と蛹は水中で生活する。ネッタイシマカの場合、人工的な水溜りに卵を産み付けるが、これらの生育環境は限られている上に狭く餌資源も乏しいので幼虫同士の資源獲得競争が激しい。一方で、メスは一回の吸血―産卵で潜在的に沢山(数百)の卵を産み落とせる能力を持っているので、成虫の繁殖力を大幅に減らしても次世代の個体数に関してあまり影響は無い。つまり、蚊の個体数を減らすには成虫期ではなく幼虫期の個体群にインパクトを与えることが重要である。しかし、従来の放射線による不妊化では大抵の場合次世代は胚性致死(卵から孵らずに死んでしまう)になるので幼虫期で競合することは無い。
  5. メスを放飼することはできない
  6.  もしあなたの家の近くにできた怪しげな施設が、血を吸うメスの蚊を毎日大量に放出し始めたら、迷わず最寄の行政機関に苦情を申し立てるにちがいない。従って放飼する蚊はオスだけでなければならない。雌雄の区別が明確に分かるのは蛹か成虫期だが、これを人間の手で区別してより分けるのはいずれにしても労力が必要だ。
  7. 健康なまま放飼することが難しい
  8.  不妊虫放飼法にとって重要な点は、放飼するオスが野外のメスの獲得に十分競争力が無ければならないということだ。ヨレヨレの草食系オス蚊をいくら放しても、野生のオスたちに「へっ、見ろよあのオカマ」と鼻で笑われるだけで野外のメスと交尾する確率が低くなる。とくに蚊のオスはこれまで不妊虫放飼が行われてきたどんな虫よりもか弱く、不妊虫生産工場での様々な扱いで弱ってしまう。


 昆虫の不妊化に関しては放射線を使う代わりに遺伝子組み換え技術を使って優勢致死遺伝子を導入する方法もある。優勢致死遺伝子保有昆虫放飼法(RIDL:Releasing of Insects carrying a Dominant Lethal)と呼ばれるが、従来の不妊虫放飼法に変わる技術として期待されている。この方法では、一度そのような系統を作ってしまえば放射線の照射などがいちいちいらない為、飼育施設を小規模化することができる。もちろんただの優勢致死遺伝子を組み込んだ昆虫を作っても、実験室で増やして野外に放す前に絶滅してしまうだけなので、飼育環境化では働かないが野外では確実に働くシステムが望ましい。また、他の野外個体の幼虫と競合するように幼虫期の間はその致死遺伝子の作用が発動しない方が良い。しかも、血を吸うメスは成虫にならずにそのまま死んでもらって、オスだけ生きて成虫になるようなシステムであれば、いちいち人間が選別する作業も必要なくなる。そんな都合の良い方法、可能なのだろうか?

 英バイオ系のオキシテック(Oxitec)社はテトラサイクリンという抗生物質によって抑制されるtTA 遺伝子をドライバーとして、別に組み込んだ優勢致死遺伝子を発現させるという条件的致死な昆虫を作る技術をこれまでに確立している。この技術が使われた遺伝子組み換え昆虫は、テトラサイクリンンを与え続けることにより室内では普通に飼育できるが、テトラサイクリンが存在しない野外では組み込まれた致死遺伝子が発現することにより生活環を完了することができない。同社はこの技術を使って、以前に幼虫後期までは成育できるが、成虫にはなれない優勢致死遺伝子を持ったネッタイシマカ系統を作り出すことに成功していた。そして、今回この技術をさらに洗練させ、オスでは成虫に成れるがメスは成虫になれないという性特異性をも備えた新たな組換えネッタイシマカ系統を確立した。

 この新しい系統 OX3604C に組み込まれたシステムの原理は、メスの関節飛翔筋(IFM:Indirect Flight Muscle)で蛹期に特異的に多く発現しているアクチン遺伝子 AeAct-4 のプロモーターを利用して tTA を発現させるというものである。IFM は飛翔にとって重要な器官である。都合が良いことに、AeAct-4 はオスとメスで異なったスプライシングをされることが分かった。この選択的スプライシングを利用して、オスにだけ使われるエクソンにストップコドンを入れることによりほぼ完全に tTA の働きをメスに限定することができる。さらにこのシステムでは tTAの誘導がメスの蛹期でしか起こらないため、終齢幼虫まではオスメスどちらもテトラサイクリン無しで普通に生育できる。従って、野外の個体と幼虫期に競合することになる。しかし、蛹期にメスのIFMで tTA の発現が起こり、tTA の産物が細胞毒性のあるタンパクの発現を誘導する。この結果、正常な IFM の発達が阻害され、変態しても飛ぶことができないメス成虫が誕生する。これは完全に致死ではないが、飛べないということは吸血できないのだから人間の病気を媒介することはできないし、何より産卵も出来ない。つまりメス蚊にとっては実質的に死を意味することになる。一方でオスの蚊は、普通に飛立つことができる。

 このシステムの素晴らしい点は、テトラサイクリンを与えなければメスは水面に漂うだけなので、自動的にオスだけを大量に手に入れることができるという点にある。さらにいえば、卵の状態で野外に放飼しても野外の(実質的な)メス個体を増やすことは無い。このやり方であればオス成虫を人間が取り扱うステップが無いので、懸念されるダメージが無くなるだろう。ネッタイシマカの卵は乾燥に強いため、簡単に保存し持ち運ぶことが可能だ。

 遺伝子組み換え蚊を野に放して、病気を防ぐという方法はこれまでにも様々な研究者が考えてきたアイデアだが、今回オキシテック社が開発した方法はそれらの中でもより現実的にうまく働きそうに見える。問題は遺伝子組換えの昆虫を野外に放すということに対して社会的な理解が得られるかどうかだ。組み込まれる遺伝子自体はなんら蚊に有利な形質を与えるものではない(むしろ条件的にだが有害)ので、放飼をやめれば先細りになって自然界から直に消滅するだろうと考えられる。ただ、やはり生理的・倫理的に受け入れられないという人はまだ多いかもしれない。

<参考文献>

Guoliang Fu, Rosemary S. Lees, Derric Nimmo, Diane Aw, Li Jin, Pam Gray, Thomas U. Berendonk, Helen White-Cooper, Sarah Scaife, Hoang Kim Phuc, Osvaldo Marinotti, Nijole Jasinskiene, Anthony A. James, and Luke Alphey
Female-specific flightless phenotype for mosquito control
PNAS 2010 : 1000251107v1-5.

事業仕分けに関するNatureの記事

2009-11-18 23:56:48 | その他
 行政刷新会議の事業仕分けで、科学関連の予算に対して軒並み「削減」の提言がなされている。日本の科学行政の行方に大きな影響を与えそうな出来事なだけに、国内の研究者たちだけではなく海外からの注目を集めているようだ。Nature誌に短い記事が載っていた。無料で読める期間を過ぎてしまったが、プリントしたものが手元にあったので翻訳して掲載することにする。

(以下引用)
新たに内閣府に設置された諮問機関によって提言された大幅な予算削減策で、日本の研究者たちは混乱している。

 9月に設置されたに鳩山首相が議長を務める行政刷新会議の作業部会が、11月11日より始まったが、見直しを始めた220の国の事業の中には大規模な研究プロジェクトが多数含まれている。幾つかの例を挙げれば、スプリング8シンクロトロン、計画段階であった世界最速のスーパーコンピュータ、海底採掘計画、基盤的な助成金などだ。

 これらの提言は日本の来年度の予算案から3兆円を圧縮することが目的であるが、政府が国内の研究の優先度に関して大局的・長期的な変更を行う意思があることの何よりの証拠でもある。

 日本の研究者たちは不満とともに悲観的な反応を示している。ある有名な結晶学者は、「匿名で」としながら我々に次のように語った。
「もし今回の提言が実行されれば、若い研究者などは海外に流出してしまうだろう。そうなれば日本の科学はお終いだ。」

鳩山内閣は8月に発足したが、政府の支出をこれまでの無駄な事業から市民に向けさせると約束してきた。例えば高速道路の無料化などだ。8月に鳩山首相は我々の取材に対し、それでも科学への支援は強化すると語っていた。

 ところがそれ以来、彼の政府はひたすら予算の削減に奔走してきた。10月に文科省は、30のプロジェクトに対し当初2700億円の研究費を支援する計画だった最先端研究開発支援プログラムを1000億円に縮小した。
10月8日、鳩山首相は総合科学技術会議(日本の科学行政の最高機関)の席で、彼を含めた理系出身者を擁した彼の内閣は「非常に稀有だ」と語った。彼は「我々も研究の経験があるから分かるが、研究者やアカデミックの人間は自分の分野に閉じこもってしまう」と日本経済新聞で語っている。「もっとこれからの社会に適した研究をするように促していった方が良いのではないか。」

 行政刷新会議は3つのグループに分けられ、毎日対象事業に関して1時間で見直しを行っている。この様子はインターネットを通じてリアルタイムに誰でも観られるようになっており、さらにそこでなされた提言は毎日ウェブ上にアップされている。元来官僚同士が密室で取引をした後に予算が決定されていた日本にとっては、これは信じられないくらいの透明性だろう。「今はもう取引をすることは難しいでしょう」と政策研究大学院大学、科学技術・学術政策プログラム・ディレクターの角南篤氏は語る。

 経済学者や財務戦略家、地方行政官、その他の知識人と数人の科学者を含む第3ワーキンググループのメンバー19人は、科学業事業の見直しを担当している。見直しに対して、反論を行う立場にあるのは当の研究者たちではなく各省庁の官僚だ。
ワーキンググループは既にSPring-8に対して払われていた1080億円について、「必要性が見えない」として、3分の1削減を提言している。不足分は利用者への課金で補われることになる。
「予算の削減はひどい。」KEK放射光科学研究施設の施設長でスプリング8の共同運営者でもある構想生物学者の若槻壮市氏は語る。「世界を見渡しても、スプリング8ほどこれだけ独自収入がある加速器は他にないだろう。」若槻氏は今回の見直しに対して「一方的だ。科学者は反論する機会すら与えられていない。」と嘆く。兵庫大学の結晶学者、月原冨武氏はスプリング8で行われている蛋白質結晶学や他の基礎研究に影響が出ると懸念し、提言に対する反対運動を行おうとしている。

 理研(日本の研究室ネットワーク)が計画していたスパコン計画は、日立やNECの離脱によって、提言よりも前に既に迷走していた。ワーキンググループは「見送りに限りなく近い縮減」を提言し、世界一にこだわる意味は無いとした。

 他の提言としては、理研のバイオリソース事業及び植物科学事業の3分の1の削減、深海地球ドリリング計画の1割から2割の削減、そして海洋研究開発機構地球内部変動研究センターへの半減などがある。また科学研究費補助金などの競争的研究資金も「単純化し削減」としている。本誌が発売される頃には、日本とヨーロッパが共同で計画している核融合実験炉、ITER(国際熱核融合実験炉)についても何らかの提言がなされるだろう。

 今回の提言は科学研究の強化という約束と矛盾するのではないか、これらの削減は他の部分で増額することで相殺されるのか、これらの疑問を鳩山氏の代理人にぶつけてみたところ、「検討中である」とした。
 ワーキンググループの提言は財務省に提出する前に行政刷新会議によって検討され、来月下旬には予算案として発表される。


<参照>
Japanese science faces deep cuts,Nature 462, 258-259 (2009)

積極的なコウモリの雌

2009-11-07 02:47:09 | その他
 もし地球外生命体がこっそり地球にやってきて人間という動物をつぶさに観察したとしたら、この星にいる他の生物に比べて幾つかの点で突出した特徴を見つけることだろう。それは案外文明や知性などでは無く、生殖行為の圧倒的多様さかもしれない。
 いろいろな動物を見渡してみても、人間ほどウェットな生殖行為をする種はないだろう。人間以外の動物のセックスは、人間のそれに比べれば驚くほど淡白だ。中には異性に対して華やかな衣装や綺麗な歌声でアピールするもの、贈り物をするものなど、なかなか情熱的な種も多いが、そんな彼らでもこと本番にいたっては、お互いの配偶子を交換してさっさとお終いといったシンプルな感じのものだ。48通りもあみ出した種は、この星では人間だけである。

 これまでに、オーラルセックス(OS:いわゆるフェラチオ)を普通に行う動物は、人間以外の動物ではボノボという人間と比較的近縁な霊長類の仲間でしか知られていない。ボノボの行うOSの生態学的意味に関しては不明なようだが、人間のような生殖行為の一部としてではなく、子供同士の遊び、一種のコミュニケーションと見られている。実際、このお猿さんたちはオス同士でもしちゃうらしい。ちなみに、正常位のセックスを行うのも人間とボノボだけである。

 自然界の不文律では、子孫を残すという目的に関係ない行いは極力慎むべきなのだろう。そう思うと、後ろめたさも少し感じ無いでもないという方には少し嬉しいニュースかもしれない。中国の研究グループが、コバナフルーツコウモリ(Cynopterus sphinx)というコウモリの一種で、人間以外では初めて、生殖行動の際にOSを普通に行っていることを確認した。
 彼らの行うOSのやり方は、人間の女性にとってみればかなりアクロバティックだ。リンク先の動画を観てもらえれば分かるが、C. sphinxのメスは体を曲げながら挿入中のオスのペニスの陰茎体(竿)と基部を舐めている。研究グループは20ペアの交尾行動を観察したが、そのうちの14ペア(70%)でこの行動が観察されている。

 このコウモリにとって、OSにはどのような意義があるのだろうか。OSが行われた交尾と行われなかった交尾の持続時間を比べてみると、OSが行われた交尾は約2倍も長いことが分かった。したがって、C. sphinxのメスにとっては、OSの進化的意義に関して比較的簡単な説明ができそうだ。例えばオスをできるだけ長く自分に惹き付けて置くことで、他のライバルメスから交尾をするチャンスを奪う、といったような。

 ではオスにとっては?一般的には、生物のオスはできるだけ多くのメスと交尾するほうがより多くの子孫を残せるという意味で進化的なのだが、どうしてC. sphinxのオスはOSがあるときには長く留まってしまうのだろうか。

 「そんなの決まっているじゃないか」と考える人は多分生物学者には向いていない。

<参考>
Tan M, Jones G, Zhu G, Ye J, Hong T, et al. (2009) Fellatio by Fruit Bats Prolongs Copulation Time. PLoS ONE 4(10): e7595. doi:10.1371/journal.pone.0007595

ダブルミーニング

2009-01-24 03:02:44 | その他
 Euplotes crassus という繊毛虫の一種で、一つのコドンが2種類のアミノ酸をコードするという現象が見つかった。これまで、一つのコドンが一つのアミノ酸をコードするというのが生物の基本原則として考えられてきたが、初めての例外になるようだ。

 E. crassus ではUGA(TGA)というコドンは通常システインをコードする(繊毛虫のある種では、他の真核生物で終止コドンとして使われるコドンがアミノ酸をコードしている)。しかし 、このコドンは条件によってはセレノシステインという別のアミノ酸をコードすることが分かったらしい。どのUGAがどちらのアミノ酸をコードするかは、非翻訳領域内にあるセレノシステイン挿入配列(SECIS)によって正確に制御されているようだ。

 研究の現場では、ほとんどの場合、遺伝子配列から蛋白質配列を予測するには対象が真核生物であれば遺伝コードからただ機械的に翻訳すればよいということになっていると思う。ただ、もし、その生物でも本当にコドンとアミノ酸の対応が普遍的なのかどうか?と誰かに率直に問われたとしたら、多くの場合、まだ誰も検討していないよと答えるしかないのが実情だろう。こういう基本原則に例外を考え出すときりがなくなるから、なるべくは考えたくない、というのが正直なところだ。

 今回は繊毛虫という事もあって、例外中の例外のような気もする。調べてみると他の真核生物でも、セレノシステインは同様にUGAにコードされているらしい。ただ 、SECIS がなければこのコドンは終止コドンとして働く。繊毛虫の場合、何故だかUGAコドンが通常のアミノ酸をコードするようになったため、2種類が被ってしまったということなのだろうか。

参考:
Genetic Code Sees Double(ScienceNOW)
セレノシステイン (Wikipedia)

関連:
サイレント変異は時に雄弁に語りき

クリスマスにおける論文投稿数

2007-12-20 22:46:51 | その他
 オックスフォード大の Ladle らによると、“12月25日”に科学論文雑誌に投稿される論文数が過去10年間で急増しているとの事です(Google scholar 調べ)。これは全体的な論文投稿数の伸びを考慮しても600%の伸びになるそうです。また、キリスト教圏のヨーロッパ及びアメリカだけを抜き出しても同じ傾向が出るみたいです。

背景には、
1.論文業績を作らなければ生き残れないという研究者間の熾烈な競争
2.論文執筆作業を押している多忙極まる教育や研究室運営の仕事
3.電子ジャーナル化が進み365日が営業日
という原因が考えられるそう。

 著者らによると、クリスマスぐらいは休んだ方がサンタさんが素敵なプレゼントを持ってきてくれるようになるだろうということです。例えば、 NATURE に論文が載るとか。

参考:
Come all ye scientists, busy and exhausted. O come ye, O come ye, out of the lab, :Nature 20 Dec. 2007 V. 450 (7173) pp1127-1276

マラリア用ワクチン

2007-10-20 21:49:43 | その他
 グラクソ・スミス・クライン社が開発中のRTS,Sというマラリア用ワクチンが、臨床試験において世界で初めて、新生児に対して副作用を伴わない有効性を示したそうです。これまでマラリアの予防用ワクチンは世界中で開発されてきたものの、未だ実用化には至っていません。RTS,Sは、数年前に行われた1-4歳児を対象にした治験においても良好な結果を出していて注目されていたようです。


 マラリアによる死亡者数は年間100万人以上と推定されおり、その大半が5歳未満の幼児です。これからより大規模な第Ⅲ相治験を行い2011年の実用化を目指しているそうですが、値段が高いといったいくつかの問題も残されているよう。値段に関しては、マラリアの被害が途上国に集中していることを考えれば非常に大きな問題かもしれません。それでも100万の内の数%でも救うことが出来れば、とりあえずは強力な武器になると言えるでしょう。

参考:
Taking a Shot at Malaria(SienceNOW)
Malaria Vaccine Shows Promise(SienceNOW)
Bedlam in the blood (National Geographic)

米国初の政府認証市販やせ薬

2007-02-08 23:14:51 | その他
 米食品医薬品局(FDA)は処方箋のいらない店頭販売可能な肥満改善薬としては初めて、グラクソ・スミスクライン社の「Alli」を認可したそうです。Alliはもともと医師の処方箋付きで購入可能な「ゼニカル」の有効成分を低く抑えたバージョンだそうです。有効成分は オルリスタット(orlistat)という物質で脂肪分解酵素の阻害剤として働き、脂肪の腸からの吸収を抑えるのがメカニズムだそうです。副作用として、油っぽい食事と一緒に摂取すると吸収されなかった脂肪による下痢や、油っぽい便(脂肪便)が出るそうです。またある種のビタミン類の摂取も阻害するためビタミン剤も同時に摂取することが望ましいようです。 オルリスタット自体は体内に吸収されないため、安全性は高いだろうと考えられます。

 販売が始まるこの夏からは、アメリカへの旅行客が増るかもしれませんね。

 
<参考>
Over-the-Counter Weight-Loss Drug Is Approved(The New York Times)
Orlistat(Wikipedia)

ダイオウイカの生きた姿の撮影に成功

2006-12-23 18:26:21 | その他
 ダイオウイカはマッコウクジラの餌として知られていますが、これまでに知られている世界最大の無脊椎動物でもあり、今まで見つかっている最大のものでは触腕(二本ある長い触手)を含めて18mもあるそうです。ダイオウイカは主に遠洋の深海に生息していると考えられており、見つかる標本は稀に浜などに打ち上げられる死体などに限られていたためその詳しい生態は謎に包まれています。

 東京国立科学博物館の窪寺恒己さんらのチームは小笠原諸島付近の海域で世界で初めて、この生物の生きた姿を映像に収めることに成功しました。彼らは一年前にも同じ場所で、カメラを取り付けた釣り糸のような仕掛けを用いて静止画の撮影に成功しています。その時は残念ながら最後にダイオウイカは7.2mの触腕を残して逃げてしまったようですが、今回は調査船に引き上げることができたようです。CNNのサイトに映像がアップされていましたが、「こんなことやっていいんでしょうかね我々?」という研究者(らしき人)の声が拾われていたのが少し笑えました。

 サイズは胴体の長さが3mと小型で、卵巣の成熟具合からメスの子供であるということです。釣り上げた時の傷で、船に引き上げてからまもなく死んでしまったようです。窪寺氏によると、ダイオウイカの個体数はこれまで研究者が考えていたよりもずっと多いのではないかということです。また、生息地が確認されたため、これまでよりも研究がいっそう進むだろうとのことです。


 
 船でいろいろなところを走り回って、世界一のイカを探す。このような研究をしている人は本当に幸せだろうなと、少し羨ましく思ってしまいました。

<参考>
Researchers catch giant squid(CNN)(本文中に映像のリンクあり)
First-ever observations of a live giant squid in the wild,Tsunemi Kubodera and Kyoichi Mori, Proc. Roy. Soc. B,272, No.1581,2005 P.2583 - 2586