さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

アレルギーフリー ねこ

2006-09-28 21:31:42 | 分子生物学・生理学
 米サンディエゴの企業Allerca社はネコアレルギー体質の人でも飼える、低アレルギー誘発性のネコを品種改良により開発し、世界で初めて市場に売り出しました。これまで多くの企業が遺伝子組み換え技術などの高度な手法でネコアレルギーの人に対するアレルゲンを分泌しない低刺激性のネコの開発に挑んでいたようですが、今回 Allerca社はそれらと比べて非常に“ロウテク”な方法で開発に成功したようです。設立者のSimon Brodie 曰く「我々はラッキーだったのだろう」ということです。

 Allerca社も当初、ネコの脂腺から分泌されるタンパクでアレルゲンとなるFel d1の遺伝子発現をRNA干渉技術によって押さえ込む“高度"な手法を検討していたようです。しかし、その過程で研究に用いたネコの中でお互いに微妙に異なる3種類のFel d1タンパクが存在しているのに気が付きました。そしてそのうちの一つを保有しているネコではアレルギー患者に対して刺激性がないことが分かったのです。 Allerca社は偶然見つけたこの系統を利用することで、世界に先駆け低刺激性ネコの販売にこぎ付けたという訳です。

 一方で他のライバル企業からは、遺伝子組み換え技術を用いないで低刺激性ネコを開発できるるとは考え難いとの批判もあがっています。というのもAllerca社はまだ開発したネコに関するデータを公表していないからです。Felix Pets社のDavid Avnerは少なくとも、そのネコの分泌物と人の抗体が反応しないことを試験管内で証明すべきだと指摘しています。

 Allerca社側の言い分としては、「実物を使って人の被験者に試して成功だったのだから十分だ、データはないが我々が開発したネコの有効性は明らかだ」、ということです。ちなみにこのネコの販売価格は US$3,950 だそうです。

参考:
Allergy-free pets surprisingly simple(News@nature)
Allerca社HP

無重力で手術

2006-09-28 12:44:06 | 医療・衛生
 フランス人の医師らで構成されたチームが、無重力状態での人の外科手術に世界で初めて挑みました。

 目的は宇宙空間での手術がどんなものかという検証実験。そして遠隔操作ロボットによる地球や遠方からの手術という将来的なプログラムの一環として。航空機に乗込んだ五人の医師と患者らは、上空からの急降下で作られた無重力状態の中で腕部の嚢胞の摘出手術を行いました。急降下は合計で22回行われ、そのインターバル(約22秒)の無重力状態の時だけ施術が行われたようです。

 手術は無事成功し、チーフの外科医Dominique Martin は「宇宙空間での手術において、それほど難しい障壁はないだろう」と話しています。ちなみに今回被験者となった患者は熱心なバンジージャンパーで、一応“その道”の専門家だったようです。

参考:
Zero-gravity surgery 'was success'(CNN.com)

野菜嫌の遺伝子

2006-09-19 23:02:19 | 分子生物学・生理学
 ブロッコリーなど特にアブラナ科の苦い野菜に含まれているフェニルチオカルバニル(PTC)は人間の舌に存在するhTAS2R38 という味覚レセプターと結合し、「苦味」として知覚されます。このhTAS2R38 の遺伝子には感度の高いPAVと低いAVIという二つの対立遺伝子が存在していることが知られており、ある種の「野菜嫌い」な人たちは高感度タイプのPAV遺伝子を持っていることが原因ではかと考えられてきました。

 Monell Chemical Senses Center の Mari Sandell と Paul Breslinはこの仮説を実験的に検証することに成功しました。彼らはそれぞれの遺伝子型を持つ被験者たち(PAV/PAV、PAV/AVIおよびAVI/AVI)にブロッコリー、カリフラワーなどPTCを含む野菜、また苦瓜やナスなど苦いけどPTCを含まない植物を生で食べてもらい、それぞれの被験者がどれだけ「苦さ」を感じているか調べました。その結果ホモで持つヒト(PAV/PAV)、ヘテロで持つヒト(PAV/AVI)、持たないヒト(AVI/AVI)、の順にPTCを含む植物をより強く苦いと感じていることが分かりました。一方PTCを含まない植物に関しては両者に優位な差は見られませんでした。

 何故、この二つの対立遺伝子は人間という種の中に共存しているのでしょうか。それれはおそらく、PTCを含む野菜には人間にとって負と正の両方の側面があるからではないかと考えられます。PTCは無機ヨウ素と結合し甲状腺からのヨウ素の吸収を阻害します。ヨウ素自体は甲状腺ホルモンの合成に不可欠なものであり、これが欠乏すると甲状腺腫などの疾患を引き起こします。海から離れた高山地帯など慢性的にヨウ素が欠乏するような地帯ではこの甲状腺腫に悩まされる人たちが多く、このような場所ではPTCを摂取することを出来る限り避けることがより適応的と考えられます。
  一方PTCを含む野菜にはブロッコリーなど栄養価の高いものも多く含まれます。ヨウ素が十分あり欠乏が起こらないような環境ではこのような野菜を積極的に食べられる事の方がより適応的かも知れません。
  つまり、このような拮抗する選択圧の中で感度の違う二つの味覚レセプター遺伝子がどちらも淘汰されずに存在しているのではないかということです。

  なお、味覚や趣向にはこれ意外にも沢山の要因があり、遺伝的に決定されるのはあくまで部分的なものだとBreslinは付け加えています。

 参考: Distaste for sprouts in the genes(news@nature)
Variability in a taste-receptor gene determines whether we taste toxins in food Mari A. Sandell and Paul A.S. Breslin Current biology Vol.16, 18 , 19 Sep. 2006, Pages R792-R794