さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

カジキとカレイ

2010-08-18 23:26:26 | 生態学・環境
 

 
 カジキってカジキマグロと呼ぶぐらいなので、僕はてっきり彼らをマグロの仲間だと思っていた。実際、諸々の形態的特徴の共通性からカジキ類は比較的最近までマグロを含むスズキ目サバ科(Scombridae)に含まれるか、その姉妹群と考えられていたらしい。彼らはマグロ並かそれ以上の速度で泳ぐことができる(時速100km超!)し、体もでかいうえ味もマグロにどこか似ている。また、マグロとカジキは変温動物でありながら体温を外部よりも高く保つ仕組みを持っていることで知られ、この機構が彼らの高い運動性を支えている。しかし、近年の分子系統学的解析(DNA配列の類似性から類縁関係を明らかにする方法)はカジキ類とサバ科の魚はかなり遠い関係にあることを示していた。

ではカジキ類は現生の魚類では何に一番近いのだろうか?カナダの研究者らがこれまでにない大規模な解析を行った結果、カジキ類はなんとカレイの仲間に最も近いということが分かった。ちょっとにわかに信じがたいが、そういう結果が出たらしい。



 カジキとマグロの類似性は収斂進化の結果なのだろう。収斂進化とは、別々の形態的特徴を持つ祖先から独立に進化した二つの種やグループが、同じ環境や同じ生活スタイルに適応することで結果的に形態的な特徴が似通ってしまうという現象である。これまでに様々な例が知られているが、分かりやすいところで言えばコウモリと鳥類だ。収斂進化は、形態に基づいた種の分類と実際の進化的な関係の間に齟齬を引き起こすことがある。コウモリの場合であれば、詳しく観察すれば鳥とは異なり哺乳類の仲間であることは比較的簡単に直ぐに分かるが、カジキ類の場合DNAを調べることで初めて正確な系統的位置を明らかにすることができた。

<参考>
Pocket science – swordfish and flatfish are close kin, and ancient death-grip scars(Not Exactly Rocket Science/Discover)

ルービックキューブを解くための最大必要手数

2010-08-15 02:11:48 | その他
ルービックキューブは何手あれば解けるか?こんな疑問が一部の数学者にとって30年来の研究対象となっていたらいしい。ルービックキューブを解くために必要な手数の最大値(God's Number)は1995年まで18手であると予測されていた。しかし、この年に数学者のMichael Reid が最低20手を必要とするポジション(Super-flip)を発見し、研究者たちは目下、これ以上の手数を必要とするポジションを探すことに心血を注いでいた。
Rubik's cube pattern #5 SUPERFLIP


   そして2010年の今年、20手こそがルービックキューブを解く必要最大手数、つまりどんなポジションからでも20手あれば解くことができることが証明された。意外に少ないんですね。証明方法は半分力づく。あり得る全てのポジションをスーパーコンピューター上で再現し(実際には対称性を考慮して計算時間を大幅に削減している)、21以上を必要とするポジションが存在し無いということを確かめたとか。ちなみに20手を必要とするポジションは全ての組み合わせ約4.3x1019個中に10個以上存在しているらしい。

 以下はルーブックキューブの最大手数を巡る発見の歴史(参照)。
  最多手数  
下限 上限  範囲 備考
1981 18 52 34 どんなポジションからでも52手以内で解けることが証明される
1992 18 42 24 どんなポジションからでも42手以内で解けることが証明される
1992 18 39 21 どんなポジションからでも39手以内で解けることが証明される
1992 18 37 19 どんなポジションからでも37手以内で解けることが証明される
1995 18 29 11 どんなポジションからでも29手以内で解けることが証明される
1995 20 29 9 20手必要なポジション(super-flip)が発見される
2005 20 28 8 どんなポジションからでも28手以内で解けることが証明される
2006 20 27 7 どんなポジションからでも27手以内で解けることが証明される
2007 20 26 6 どんなポジションからでも26手以内で解けることが証明される
2008 20 25 5 どんなポジションからでも25手以内で解けることが証明される
2008 20 23 3 どんなポジションからでも23手以内で解けることが証明される
2008 20 22 2 どんなポジションからでも22手以内で解けることが証明される
2010 20 20 0 20手以上を必要とするポジションは存在しないことが証明される

<参考>
Rubik's Cube quest for speedy solution comes to an end (BBC)

着地がうまくできないカエル

2010-08-12 23:22:02 | 生態学・環境

 かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこあわせてぴょこぴょこむpyっ・・・。ジャンプといえばカエルのお家芸。彼らの形態を改めて良く観察してみると、跳躍する時に使う後ろ足が前足に比べ何倍も長く、しかも競輪選手のような筋肉が発達していて、「跳ぶ」能力が彼らの進化において本当に重要だった事がわかる。

 カエルの跳躍は後肢を勢い良く伸長させることから始まる。前肢は離陸直後には後ろに流れているが、空中にいる間に前方に突き出され、衝撃を吸収する準備に入る。接地より先に後肢は再び折り畳まれはじめ、着地時にはほぼ離陸前の体制に戻っている。

Tree frog Jump Slow motion

あまりいい参考動画が見つからなかった…


 理想的な着地は体を衝撃から保護する上でも重要だが、着地からまた直ぐに次の跳躍に移ることを容易にする意味もある。

 そんな訳で、カエルの跳躍行動は、離陸と接地という二つの要素が両輪となって行われる。普段我々が見るカエルはどちらも上手にできる仲間たちばかりだが、より原始的なカエルでは、この着地行動がうまくできないということが分かったらしい

Frog Doing a Belly Flop




 このカエルはムカシガエル科(Leiopelmatids)という、その名の通り古い時代に現存の他のグループから分岐したカエルの仲間だ。スロー映像を見ると、後肢が最後まで折りたたまれることが無く、腹ばいになって胴体着陸していることがわかる。彼らが敵から逃げるため時は、主に水に向かって飛び込むようで、陸に着地する能力は必要が無いらしい。現存の他のカエルたちの祖先も、最初は水に飛び込むために跳躍能力を進化させたのかもしれない。その後、二次的に硬い場所に着地する能力を獲得した種が、そうでない種を押しのけて現在に至っているんじゃないかとか。

<参考>
Bellyflop shows how frogs evolved(BBC)
Pocket Science – belly-flopping frogs, and fattening marmots(Not Exactly Rocket Science)

アブラムシの草食動物に対する忌避行動

2010-08-11 01:56:29 | その他


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 大型の草食動物にとってアブラムシはご馳走ではないが、アブラムシにすると彼らは寄主植物と一緒に自分たちまで飲み込んでしまう迷惑な存在だ。そんなわけで、アブラムシには草食動物の接近を感知して一斉に植物からポロリと落ちる習性があるらしい。アブラムシにとって、一時的にでも植物から離れることは大きなリスクを負うことになるが、食べられてしまっては元も子もない。こういう間接的な捕食者-非捕食者の関係っていろいろ考えてみると面白そう。

 ところでアブラムシは何を手がかりに草食動物の接近を感知しているのだろうか?植物の振動?影? 答えはどうも、動物の出す「呼気」らしい。実際、蚊などの吸血昆虫では呼気中の二酸化炭素を吸血源の探索に利用することが知られている。ただ、アブラムシの場合はそのような特定の成分に反応しているわけではなく、呼気中の湿度温度という二つの物理的な要素に反応して植物から逃亡するようだ。どちらか片方だけではダメで、両方の要素が合わさった空気でのみスイッチがはいるらしい。あまり敏感になりすぎると、間違えてポロポロ落ちて命が持たないからかね。

 こちらの動画は人間の呼気に反応するアブラムシたち。

サンショウウオと藻類の細胞内共生

2010-08-07 22:09:21 | その他

Scott Camazine

 サンショウウオで藻類の細胞内共生が報告されたらしい。このサンショウウオは 英名 Spotted Salamander (Ambystoma maculatum) という北米種で、わりと普通種のようだ。このサンショウウオが胚期に Oophila amblystomatis という藻類をゼラチン質に住まわせて酸素を供給させていることは、以前から知られていたらしい。したがって共生関係自体は目新しいものではないようだが、今回分かったことは、この藻類が細胞外に留まらず細胞内にまで及んでいるということだ。藻類と動物との細胞内共生これまでサンゴ(刺胞動物)などで知られているが、脊椎動物では初めての事例らしい。一般的に、脊椎動物は高度な免疫システムが発達しているので、“非自己”である共生生物を体内で安定的存在させることは他の動物よりも難しいと考えられている。藻類がどのような機構でサンショウウオの免疫系からの攻撃を回避しているかも興味深い。

 藻類とサンショウウオは具体的にどのような物質のやりとりをしているのか。単純に考えれば、藻類が光合成で得た酸素と炭水化物をサンショウウオに、サンショウウオが窒素原や二酸化炭素を藻類に、という関係が想像される。実際、報告した研究者によるとサンショウウオ側のミトコンドリア(有酸素呼吸を行う細胞内小器官)が細胞内に入った藻類の周りに集まっているのが透過電顕で観察されているようだ。

 

脱走するGM作物

2010-08-07 00:50:26 | その他
 

Tilo Hauke, Deutschland




 アメリカで除草剤耐性の遺伝子組み換えナタネが圃場以外の場所で生育しているのが見つかったというニュース。アメリカ国内では初めての事例になるらしい。結構意外。

 記事によると、研究者がノースダコタのGMナタネ栽培地周辺に自生していたナタネを調べたら、約80%がグリホサート(ラウンドアップ)かグリホシネート(リバティー)という各二種類の除草剤に耐性を付与する遺伝子産物(タンパク)のうちのどちらかが検出されたとか。さらに、両方の耐性遺伝子産物が検出される個体も見つかっているという。市販されているGMナタネには、どちらかひとつの耐性遺伝子を組み込んだものしか存在し無いので、これらの個体は圃場外で交配しながら世代を経ていることを示唆している。

 日本でも、自生している遺伝子組換えナタネが見つかったという話はよく目にする。港で多く見つかっているようで、恐らく輸送中の車両からこぼれ落ちたものが発芽してしまっているようだ。ナタネ自体は雑草ではないが、もし他の近縁種の雑草と交配すると、その雑草種の集団内に除草剤耐性遺伝子が広まる可能性がある。言ってみれば、人間が作物を守るために導入した遺伝子が、巡り巡って敵側に利用されて食料生産が脅かされてしまうということ。無視できない問題ではある。

 先日、三重県の路上で、イヌガラシとGMナタネが交雑したと思われる個体が見つかったというニュースがあった。もし本当なら大変だなあと思ったが、件の個体を詳しく調べている国立環境研究所の中嶋信美氏の途中経過発表によると、どうやら交雑個体ではなく、生育不良で形が変になったGMナタネのようだ。

 いずれにしても、GM作物の管理区域外への拡散と、それが自然環境や食料生産に与え得る影響は今後も注視し続ける必要があるだろう。ただ、露天で大規模に栽培する以上は、外に飛び出していく種子を100%物理的に封じ込めるのは恐らく不可能だろうと思う。次世代を作り出せなくするGURT(Genetic use restriction technology)、いわゆるターミネーター技術を使えばかなり安全性は増すと思われるが、こちらはこちらで別の批判が強いのだろうか。

セミの脱皮

2010-08-06 00:18:37 | その他
 今日の帰り道、セミの幼虫を拾ったので、家に持ち帰って、脱皮のシーンを撮影させてもらった。ミンミンゼミかな。脱皮したては、まだ模様が見えないので分からない。

 この時期の夕方、セミのいる公園などで下を向いて歩いていれば、ヨチヨチ這っているのが見つかるだろう。長い地中生活を終えて出てきたばかりの終令幼虫だが、必ずその日のうちに脱皮して成虫になる。子供がいれば、一緒に観察してみるのもきっと楽しいだろう。家の中で観察するのが便利だが、その場合、朝までに外に出してあげるのをお忘れなく。