さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

恐竜の体温

2006-07-13 00:37:12 | 分子生物学・生理学
 東京上野の国立科学博物館に行くと恐竜の化石いくつか見ることができますが、あのような巨大な生物が現実にこの地球上をかっ歩していた姿を想像すると何かゾクゾクしてしまいます。

 一般に温血動物といわれる哺乳類や鳥類では体の中で熱を生み出すことによって体温はほぼ一定に保たれ、それにより外気温に左右されずに活動性を維持することが出来きます。反面、体の表面からどんどんと逃げてゆく熱を補うために常に熱を作り出さなければならないので、エネルギー消費が激しくなり必要な餌の量も増るわけです。ところで、体サイズが大きくなればなるほど表面積/体積の比が小さくなっていくため体温維持が楽になります。実際恒温動物においては寒い地方、つまり体温の維持がより困難な地方に行けば行くほど、近縁種間で比較して体のサイズが大きくなるという法則(ベルクマンの法則)があります。例えばツキノワグマよりヒグマが大きし、ヤクシカよりエゾジカの方が大きいといった具合です。

 恐竜は現代の爬虫類に近い仲間とされてますが、冷血動物であったのか温血動物であったのかについてはいろいろと議論があります。その様な議論とはまた別に、体サイズの大きな恐竜に関してはその大きさゆえに、積極的に内部で熱を生み出す仕組みが無くとも十分一定の体温を維持することが出来たのではないかという考え方もあります(慣性恒温)。フロリダ大学のJames Gillooly はこうした体サイズ-体温の関係を示す数式を開発し、実際の恐竜の体サイズを使って彼らの体温を予測しました。その結果、体重12kgのプシッタコサウルス(Psittacosaurus mongoliensis)では高くても25℃と外気温に近く現生の小型は虫類と同じ程度の体温でしたが、体重12tのアパトサウルス(Apatosaurus excelsus)ではなんと40度以上もあると予測されました。一般的な動物の生存可能な体温のリミットが45℃とされていますが、ひょっとしたら恐竜の巨大化に歯止めをかけたのは高くなりすぎた体温のためである可能性も考えられると彼らは主張しています。

参考:
Bigger dinosaurs had warmer blood(BBC)
本川達雄著 ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)



ES細胞から分化させた人工精子

2006-07-11 23:04:47 | 分子生物学・生理学
 胚性肝細胞(ES cell)は胚由来のどんな組織の細胞にも成りうる万能性を持った細胞です。基礎研究の材料として現在用いられていますが、将来的には再生医療などの応用的な利用も期待されます。反面、「受精後」の卵(この時点で人間が誕生したとみなす考え方がある)から採取するため倫理的に微妙な問題も多く含んでいます。

 ジョージ-オーガスト大学のKarim Nayerniaらは、マウスのES細胞から分化させた精源細胞から作り出された精子が、メスの卵子を受精させる能力があることを示しました。受精した卵子は実際に発生が進み、成体まで成長したそうです。この技術は配偶子形成メカニズムの基礎研究にとって大いに役立つだけでなく、不妊治療にも大きな福音となることが期待されます。

 残念なことに、生み出されたマウスは「正常」ではなく、成長の異常や呼吸障害などが見られたようでそのまま治療に応用することはまだ難しいようです。なぜ「正常」でないか?ということも非常興味深いテーマになりそうですが。


参考:
'Lab-made sperm' fertility hope (BBC)
ES細胞精子から子ども誕生 マウスで成功 (asahi.com)