さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

むずむず脚症候群の関連遺伝子

2007-07-22 22:32:25 | 医療・衛生
むずむず脚症候群(Restless legs syndrome:RLS)という恐ろしい神経疾患があるそうです。症状としては、じっとしたり横になって寝ている最中に主に下肢の部分にピンで刺された様な痛みやムズムズする異様な感覚を感じるそうです。患者はこれを抑えるために絶えず体を動かし続けなければならず、睡眠障害や過度のストレスによる様々な問題を引き起こします。

 この病気は欧米で1200万人、日本でも200万人程患者が存在していると推定されていますが社会的な認知度はまだ低く、医師による適切な診断が受けられない場合が多いようです。原因は不明で、一部では正式な病気とは認めるべきではないという懐疑論もあるそうです。

 独ヒト遺伝学研究所とマックス・プランク研究所の研究チームは、ドイツ系およびフレンチカナディアンの家系性RLS患者のSNP解析から、この疾患に関与している可能性の高い3遺伝子を突き止めました。また、アイスランドの製薬会社もアイスランド人を対象にした調査から、独のチーム特定した同じ遺伝子を関連遺伝子の候補として発表したそうです。

 これらの遺伝子が病気に対してどのような関与をしているのかは今のところ分からないようですが、RLSがある程度遺伝的に支配されている病気であることを示唆する意味で興味深いようです。

<参考>
A Big Step for Restless Legs Syndrome
むずむず脚症候群

チェルノブイリ原発と野鳥とカロテノイド

2007-07-13 18:34:12 | 生態学・環境
 前回に続き抗酸化物質の話。

 生物が放射線による暴露を受けた場合、生じたラジカル類によってDNAが損傷されます。抗酸化作用を持つカロテノイドはこうした電離放射線によって生じた遊離ラジカルを中和しその影響を緩和する作用があるそうです。一時期β-カロテンが癌を抑える効果があると注目されましたが、こちらの方は否定的な研究結果(むしろ癌の発生率を上げるかもしれない)が出ているようです。

 カロテノイドは一方で、動植物の色素や代謝制御など幅広い役割も持っています。仏マリ・キュリー大と米サウスカロライナ大の研究チームによる調査によると、チェルノブイリ原子力発電所の近辺に生息する野鳥類では、カロテノイドを色彩のために多く費やす色鮮やかな種類の野鳥ではそうでない種に比べ生息数が減少しているそうです。どうやら、放射線によって生じたラジカルを処理する分が不足してしまうみたいです。また興味深いことに、原発近辺にずっと生息している留鳥よりもむしろ渡り鳥の方が放射線の影響を強く受け数が減小していることも分かりました。これは渡りの際の高代謝状態でカロテノイドを多く消費してしまうからだろうと考えられます。

<参考>
Chernobyl Hits Birds Hard(Science Now)
松永和紀「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)

フラーレンの抗アレルギー作用

2007-07-10 14:31:15 | 材料・技術
フラーレン(C60)は炭素原子60個からなるサッカーボール状のユニークな形をした分子ですが、形もさることながら様々な面白い性質が発見されており、材料分野などでの応用が期待されています。このC60には、生物に有害である活性酸素などのラジカル類を消去する作用があることも分かっていて、医薬品分野でも注目されているそうです。

 バージニア州を拠点とするナノテク関連企業 Luna Innovations の研究チームは 、C60 に特定の官能基を付加して親水性を上げることで抗アレルギー薬としての作用を向上させることができるとJournal of immunology(179:665-672)に発表したそうです。医薬品としての期待の一方で「C60は人体に対して何らかの有害性があるのではないか」という懸念があるそうですが、この改良版のフラーレンでは今のところ目に見える副作用はないそうです。

 この改良版のフラーレンを免疫応答に関わる人間のマスト細胞と一緒に培養し、いくつかのアレルゲンを与えたところ、フラーレンが無い対照区に比べヒスタミン(アレルギー反応の指標の一つ)の放出量が半減しました。またマウス個体による実験でもフラーレンの投与によりアレルゲンに対するヒスタミンの放出量がやはり激減し、アナフィラキシー反応に伴う体温の低下が抑えられたようです。

 ヒスタミン放出量だけでアレルギー反応が抑えらるかどうかは分からないという専門家の指摘もあるようですが、臨床試験の結果が非常に興味深いと期待されいてます。

 どのようなメカニズムでフラーレンがヒスタミン放出を抑えているかは今のところ分かっていません。ただ、活性酸素種の増加がヒスタミンの放出量が増加に関連しているということが知られているので、恐らくそれらの活性酸素種をフラーレンが消去することでヒスタミン放出を抑えているのではないかと研究チームは考えているようです。

<参考>
Buckyballs could help fight allergies(Nature@News)
有機化学美術館