さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

事業仕分けに関するNatureの記事

2009-11-18 23:56:48 | その他
 行政刷新会議の事業仕分けで、科学関連の予算に対して軒並み「削減」の提言がなされている。日本の科学行政の行方に大きな影響を与えそうな出来事なだけに、国内の研究者たちだけではなく海外からの注目を集めているようだ。Nature誌に短い記事が載っていた。無料で読める期間を過ぎてしまったが、プリントしたものが手元にあったので翻訳して掲載することにする。

(以下引用)
新たに内閣府に設置された諮問機関によって提言された大幅な予算削減策で、日本の研究者たちは混乱している。

 9月に設置されたに鳩山首相が議長を務める行政刷新会議の作業部会が、11月11日より始まったが、見直しを始めた220の国の事業の中には大規模な研究プロジェクトが多数含まれている。幾つかの例を挙げれば、スプリング8シンクロトロン、計画段階であった世界最速のスーパーコンピュータ、海底採掘計画、基盤的な助成金などだ。

 これらの提言は日本の来年度の予算案から3兆円を圧縮することが目的であるが、政府が国内の研究の優先度に関して大局的・長期的な変更を行う意思があることの何よりの証拠でもある。

 日本の研究者たちは不満とともに悲観的な反応を示している。ある有名な結晶学者は、「匿名で」としながら我々に次のように語った。
「もし今回の提言が実行されれば、若い研究者などは海外に流出してしまうだろう。そうなれば日本の科学はお終いだ。」

鳩山内閣は8月に発足したが、政府の支出をこれまでの無駄な事業から市民に向けさせると約束してきた。例えば高速道路の無料化などだ。8月に鳩山首相は我々の取材に対し、それでも科学への支援は強化すると語っていた。

 ところがそれ以来、彼の政府はひたすら予算の削減に奔走してきた。10月に文科省は、30のプロジェクトに対し当初2700億円の研究費を支援する計画だった最先端研究開発支援プログラムを1000億円に縮小した。
10月8日、鳩山首相は総合科学技術会議(日本の科学行政の最高機関)の席で、彼を含めた理系出身者を擁した彼の内閣は「非常に稀有だ」と語った。彼は「我々も研究の経験があるから分かるが、研究者やアカデミックの人間は自分の分野に閉じこもってしまう」と日本経済新聞で語っている。「もっとこれからの社会に適した研究をするように促していった方が良いのではないか。」

 行政刷新会議は3つのグループに分けられ、毎日対象事業に関して1時間で見直しを行っている。この様子はインターネットを通じてリアルタイムに誰でも観られるようになっており、さらにそこでなされた提言は毎日ウェブ上にアップされている。元来官僚同士が密室で取引をした後に予算が決定されていた日本にとっては、これは信じられないくらいの透明性だろう。「今はもう取引をすることは難しいでしょう」と政策研究大学院大学、科学技術・学術政策プログラム・ディレクターの角南篤氏は語る。

 経済学者や財務戦略家、地方行政官、その他の知識人と数人の科学者を含む第3ワーキンググループのメンバー19人は、科学業事業の見直しを担当している。見直しに対して、反論を行う立場にあるのは当の研究者たちではなく各省庁の官僚だ。
ワーキンググループは既にSPring-8に対して払われていた1080億円について、「必要性が見えない」として、3分の1削減を提言している。不足分は利用者への課金で補われることになる。
「予算の削減はひどい。」KEK放射光科学研究施設の施設長でスプリング8の共同運営者でもある構想生物学者の若槻壮市氏は語る。「世界を見渡しても、スプリング8ほどこれだけ独自収入がある加速器は他にないだろう。」若槻氏は今回の見直しに対して「一方的だ。科学者は反論する機会すら与えられていない。」と嘆く。兵庫大学の結晶学者、月原冨武氏はスプリング8で行われている蛋白質結晶学や他の基礎研究に影響が出ると懸念し、提言に対する反対運動を行おうとしている。

 理研(日本の研究室ネットワーク)が計画していたスパコン計画は、日立やNECの離脱によって、提言よりも前に既に迷走していた。ワーキンググループは「見送りに限りなく近い縮減」を提言し、世界一にこだわる意味は無いとした。

 他の提言としては、理研のバイオリソース事業及び植物科学事業の3分の1の削減、深海地球ドリリング計画の1割から2割の削減、そして海洋研究開発機構地球内部変動研究センターへの半減などがある。また科学研究費補助金などの競争的研究資金も「単純化し削減」としている。本誌が発売される頃には、日本とヨーロッパが共同で計画している核融合実験炉、ITER(国際熱核融合実験炉)についても何らかの提言がなされるだろう。

 今回の提言は科学研究の強化という約束と矛盾するのではないか、これらの削減は他の部分で増額することで相殺されるのか、これらの疑問を鳩山氏の代理人にぶつけてみたところ、「検討中である」とした。
 ワーキンググループの提言は財務省に提出する前に行政刷新会議によって検討され、来月下旬には予算案として発表される。


<参照>
Japanese science faces deep cuts,Nature 462, 258-259 (2009)

積極的なコウモリの雌

2009-11-07 02:47:09 | その他
 もし地球外生命体がこっそり地球にやってきて人間という動物をつぶさに観察したとしたら、この星にいる他の生物に比べて幾つかの点で突出した特徴を見つけることだろう。それは案外文明や知性などでは無く、生殖行為の圧倒的多様さかもしれない。
 いろいろな動物を見渡してみても、人間ほどウェットな生殖行為をする種はないだろう。人間以外の動物のセックスは、人間のそれに比べれば驚くほど淡白だ。中には異性に対して華やかな衣装や綺麗な歌声でアピールするもの、贈り物をするものなど、なかなか情熱的な種も多いが、そんな彼らでもこと本番にいたっては、お互いの配偶子を交換してさっさとお終いといったシンプルな感じのものだ。48通りもあみ出した種は、この星では人間だけである。

 これまでに、オーラルセックス(OS:いわゆるフェラチオ)を普通に行う動物は、人間以外の動物ではボノボという人間と比較的近縁な霊長類の仲間でしか知られていない。ボノボの行うOSの生態学的意味に関しては不明なようだが、人間のような生殖行為の一部としてではなく、子供同士の遊び、一種のコミュニケーションと見られている。実際、このお猿さんたちはオス同士でもしちゃうらしい。ちなみに、正常位のセックスを行うのも人間とボノボだけである。

 自然界の不文律では、子孫を残すという目的に関係ない行いは極力慎むべきなのだろう。そう思うと、後ろめたさも少し感じ無いでもないという方には少し嬉しいニュースかもしれない。中国の研究グループが、コバナフルーツコウモリ(Cynopterus sphinx)というコウモリの一種で、人間以外では初めて、生殖行動の際にOSを普通に行っていることを確認した。
 彼らの行うOSのやり方は、人間の女性にとってみればかなりアクロバティックだ。リンク先の動画を観てもらえれば分かるが、C. sphinxのメスは体を曲げながら挿入中のオスのペニスの陰茎体(竿)と基部を舐めている。研究グループは20ペアの交尾行動を観察したが、そのうちの14ペア(70%)でこの行動が観察されている。

 このコウモリにとって、OSにはどのような意義があるのだろうか。OSが行われた交尾と行われなかった交尾の持続時間を比べてみると、OSが行われた交尾は約2倍も長いことが分かった。したがって、C. sphinxのメスにとっては、OSの進化的意義に関して比較的簡単な説明ができそうだ。例えばオスをできるだけ長く自分に惹き付けて置くことで、他のライバルメスから交尾をするチャンスを奪う、といったような。

 ではオスにとっては?一般的には、生物のオスはできるだけ多くのメスと交尾するほうがより多くの子孫を残せるという意味で進化的なのだが、どうしてC. sphinxのオスはOSがあるときには長く留まってしまうのだろうか。

 「そんなの決まっているじゃないか」と考える人は多分生物学者には向いていない。

<参考>
Tan M, Jones G, Zhu G, Ye J, Hong T, et al. (2009) Fellatio by Fruit Bats Prolongs Copulation Time. PLoS ONE 4(10): e7595. doi:10.1371/journal.pone.0007595