さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

地球温暖化のいや~な影響

2006-05-31 21:39:14 | 地球温暖化・エネルギー
 ウルシによってかぶれた経験はまだありませんが、噂によると相当酷いことになるようで、ハイカーや、森で働く作業員など、毎年多くの人を悩ませています。

 米Marine Biological LaboratoryのJacqueline Mohanらのチームは、今後半世紀に予測される大気中CO2濃度の増加がツタウルシ(Toxicodendoron属)の生育を劇的に早め、世界中の森が危険地帯になるかもしれないと警告しています。
 彼女らは、ノースカロライナ州のある松林のCO2濃度を6年もの間現在の濃度よりも200ppmほど人為的に高めました(今後五十年間に予想される上昇幅)。その結果、その区域の樹木類の生育速度は31%上昇したのに対し、ツタウルシの生育速度は通常の2倍になったそうです。

 恐らく、樹木類ではCO2から得た炭素を幹などの木質の成長に使うのに対し、ツタ類では葉の成長に使うことが、この成長速度の差を生み出していると考えられます。植物はCO2を葉から吸収するため、より葉を多く付けたツタはその分より多くのCO2を取り込めるという正のサイクルを生み出すことが出来るからです。

 さらにCO2の上昇はツタウルシの量だけでなく、毒性の質にも影響しうることも明らかになりました。ウルシアレルギーの原因物質はウルシオール(urushiol)と呼ばれる脂溶性の物質ですが、そのアルキル鎖の飽和度によって毒性が異なり、不飽和であるほど毒性が高いらしいです。高CO2濃度で生育したツタウルシでは何故か、この毒性の高い不飽和型のウルシオールの割合が高くなるそうです。

参考:
Greenhouse gas breeds venomous vines(Newa@Nature)

Urushiol(Wikipedia)

HIVの起源

2006-05-28 00:25:26 | 医療・衛生
 日本のメディアにも取り上げられていますが、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の自然宿主がカメルーンに生息するチンパンジーの亜種(Pan troglodytes troglodyte)であることが明らかになりました。

  アラバマ大学のBeatrice Hahnのチームは、このチンパンジー集団の糞からヒトで最も流行しているHIV1の祖先と考えられるサル免疫不全ウィルス(SIV)遺伝子の痕跡と、それに対する抗体を発見し、おそらくこの集団の30から35%の個体が保因者となっていると推定しました。このSIVの塩基配列はHIVに非常に近いことからおそらく、この土地でチンパンジー→ヒトの感染が直接起こったと考えられます。

  HIV陽性の血液は1952年にキンシャサ(コンゴ共和国)で最初に採取されたため、従来まではこの地域が集中的調べられていたようです。しかし今回本当の起源地域が特定されたことで、おそらくカメルーンで感染した人間がキンシャサまでウィルスを運び、当時都会的な環境であったその場所で感染が一気に拡大したというストーリーが浮かび上がります。

  ちなみにSIVに感染しているチンパンジーには人間のAIDSのような症状は見られないようです。HIVもあと数百年か数千年ぐらいすれば人間との共生関係が確立し、その病原性を失っていくのかも知れません。もちろんその前に有効な治療法が確立している筈ですが。

参考:
HIV-like virus found in wild chimps (News@Nature)


RNAを介した非メンデル式遺伝

2006-05-27 22:32:31 | 分子生物学・生理学
 -遺伝子-という言葉の意味する正確な定義としては「遺伝情報の最小単位」といったところでしょうか。1800年代の中頃にGregor Mendel がエンドウマメで発見したこの「最小単位」の実体は、1952年のAlfred Hershey と Martha Chase の実験によりDNAという物質であることが証明されたのでした。
  有性生殖において、遺伝子は母親と父親からひとつずつ次世代に受け継がれます。しかしながら、このメンデルの法則では説明できない遺伝様式が様々な生物で現在発見されてきており、DNAの塩基配列以外の遺伝的情報層の存在が考えられるようになりました。

  University of Nice-Sophia Antipolisの発生遺伝学者 Minoo RassoulzadeganらはDNAにコードされたkit とという遺伝子に変異を起こしたマウス (原著論文を読むとlacZ 遺伝子を挿入したようですが) では、正常型kit とのヘテロ接合で尻尾の先と脚が白くなることに気付きました(ホモ接合では致死)。
 不思議なことに、このkit +/- 型のマウス同士を交配させると、次世代における kit +/+ 型のマウスにもkit 変異型と同じ表現形が出るようになったのです。このDNAを全く介していないと思われる遺伝情報はその後数世代に渡って徐々に減衰しながら伝わるそうです。

 パラミューテーションと呼ばれるこのような現象は実は1950年代にすでにトウモロコシで見つかっており、未だそのメカニズムについては明らかになっていないようです。
 今回、マウスで見られるこのパラミューテションが、RNAを介して伝わっているということが明らかになりました。kit +/- ヘテロやその子孫においては通常よりも短くポリA鎖の無いkit のRNAが蓄積しているのです。このRNAが単独でkit 変異型の表現形を生み出すことも確かめられています。

 また、この異常型RNAは雄の精子にも含まれており、父親、母親の関係なく次世代に伝達されます。おそらく何らかの形で正常型のkit の発現を阻害するのでしょうが、この発見が従来から考えられてきた「遺伝子=DNA」というパラダイムに大きな影響を与えることは間違いないでしょう。

 いつかnon-coding RNA の分野について包括的なレビューを試みたいと常々考えているのですが、素人の私がやるべきではないかなとも思ってしまいます。非常に興味はあるのですが・・・

参考:
Mendel's Laws: Foiled Again (ScienceNOW)
Mouse Finding Violates Laws of Heredity (Scientific American)
Mutant mice challenge rules of inheritance (News@Nature)
Epigenetics (Wikipedia)



二種の家禽ウィルスに対する二価ワクチンの開発

2006-05-23 23:26:32 | 医療・衛生
 近年、感染力の非常に高いH5N1型の鳥インフルエンザウィルス(AIV)が世界中の家禽類の間で蔓延しつつあります。このウィルスはヒトへの感染例はまだ少ないながらも、感染した場合、非常に高い死亡率を示しています。ひとたびヒトからヒトへの感染力が突然変異などで発達すれば、世界中で多数の死者が出ることが予想されます。

 こうしたパンデミックを未然に防ぐために最も有効とされているのが、感染が確認された地域一帯の家禽類を速やかに処分することです。すでに一億5千万匹以上の鶏が世界で殺されました。経済的なことを考えればワクチンによる感染予防が望ましいのですが、今までのところ有効で実用的なものは開発されていないようです。

 ドイツのFriedrich-Loeffler-InstitutのAngela Römer-Oberdörferらは、現在有効なワクチンがすでに普及している同じく家禽類の病原性ウィルスであるニューキャッスル病ウィルス(NDV)の弱体化した株に、AIVから単離したヘマグルチニン(H5)の遺伝子を導入し、遺伝子組み換えNDV(rNDV)を作りました。こうして作られたワクチンを与えられた鶏では、AIV、NDVともに非常に強い抵抗力を示しました。
 また、Mount Sinai Medical SchoolのPeter Paleseのチームは違うサブタイプのヘマグルチニン(H7)を用いて、同様の結果を得たそうです。

 NDVそのものは飲み水など通して容易に感染するウィルスであることから、実用化すれば非常に便利で、また安価な二価ワクチンになると期待されます。

 しかし一方で、一度NDVに免疫を獲得しまった鶏ではこの方法が使えなくなるため、最初のワクチン接種以降この方法が使えず、さまざまなサブタイプの鳥インフルエンザウィルスに免疫を持たせるという訳にはいかないようです。

参考:
Two Bird Vaccines with One Stone(ScienceNOW)
Combo Vaccines Show Promise against Bird Flu(Scientific American)

乳製品で双子出産率増?

2006-05-22 21:43:05 | 医療・衛生
 双子を授かるのは、一般的にはおめでたいイメージでしょうか。それは人それぞれ、また出産の苦しみを負わない男性側の身勝手さを象徴するのかもしれませんが、母親にも胎児にも負担がかかるということで通常の妊娠よりもリスクが高いといわれます。

 近年アメリカでは多胎妊娠率が急激に増加している傾向が見られ、1980年から75%も増えているようです(日本にも同様の傾向が見られるみたいです)。不妊治療の普及によるところも大きいようですが、それだけではこの伸び幅の全てを説明できないと多くの研究者らは考えてきました。

 Long Island Jewish Medical CenterのGary Steinmanはベーガン(動物性の食品を全く食べない菜食主義者)の女性が、通常の食事をする女性や乳製品を食べる菜食主義者の女性に比べ、双子の出産確率が5分の一も低いという統計結果を示しました。このような食生活と多胎妊娠の関係を示した例は珍しいそうです。

 Steinmanはおそらくある種の乳製品の摂取がIGF(インシュリン様成長因子)の生産を促し、排卵を促進しているのではないかと考えています。また、近年乳牛に使用される合成ホルモン剤(日本では使用されていない)も、何らかの影響を与えているのではないかということです。実際、牛乳の消費が多い国では双子の出生率が多いという傾向も彼の仮説を一応支持しています。

 ただし、この結果を見てすぐに食生活を変えようという女性がいれば、それはいささか時期尚早だと専門家は指摘しています。

参考:
A diet of milk could bring twins(News@Nature)

バケツの中の渦

2006-05-22 20:39:44 | 物理
 こうした物理的現象が新たに見つかるというのは珍しいことなのでしょうか。

 デンマーク工科大学の Tomas Bohrらは円筒形のバケツに入った水を高速(といっても秒速七回転)で回転させると、通常の渦ではなく、多角形の形をした幾何学的な渦が出来ることを発見しました。

 このようなシンプルな現象が今まで報告されていなかったというのは驚きですが、Bhorはおそらく誰も試みようとしなかったか、十分水を早く回していなかったのだろうと指摘しています。そもそもこの著者らが何故試みたのか、非常に気になりますが。

 似たような多角形型の渦は台風の目や、土星の渦模様などにも観察さているようですが、これらの現象との関係について今後調べて行きたいと彼らは語っているそうです。

参考:
Geometric whirlpools revealed(News@Nature)


働くママは健康

2006-05-15 21:19:34 | 医療・衛生
UCLの疫学研究者Anne McMunnが1946年生まれのイギリス女性1,400人を抽出してその健康状態を調査した結果によると、「働く子持ちの女性」、「専業主婦」、「独身の子持ち女性」、「子供無し」、「複数の結婚暦のある子持ち女性」、「断続的に仕事に従事した女性」の中で最も健康状態が良好だったのが「働く子持ちの女性」であることが分かりました。また一番健康状態がよろしくないないのが意外にも「専業主婦」のグループでした。その他、健康状態が悪いとされたグループは順に「独身の子持ち女性」「子供無し」だったそうです。

今回の調査では何故働くお母さんが一番健康なのかということの理由までは分かりませんが、全グループのうち最も肥満率が低かったようです。

何故同じ働く女性でも子供無しでは健康状態が良くないのでしょうか、という疑問がわきます。そういえば、哺乳類では妊娠経験のあるメスでは脳に変化が起きてストレスに強くなり認知能力も妊娠前と比べて向上する、という話を某科学系雑誌の特集で読んだことがあります。ひょっとしてそのようなことも関係してくるのなら、非常に面白い話だと思いました。

参考:
Working Moms Healthier than Full-Time Homemakers (Scientific American)
子育てで賢くなる母の脳 (日系サイエンス2006年4月号)

ラマの抗体でカフェイン測定

2006-05-14 17:15:30 | 材料・技術
1989年、ヒトコブラクダの免疫について研究していた科学者らは、この動物の血液中からH鎖のみで構成されている特殊な抗体を発見しました。このナノ抗体(nanobodies)と現在呼ばれている特殊な抗体はラクダと同じ仲間であるラマにも存在することが確認されていますが、その分子サイズの小ささやin vitroにおいて比較的に容易に合成できることもあり近年医療分野を中心に非常に大きな注目を集めています。

ワシントン大学医学部のJack Ladensonらのグループは、このラマの抗体を使ってホットコーヒー中のカフェインを検出することに成功しました。通常の動物の抗体では失活してしまう温度帯においても、構造が比較的単純なナノ抗体なら活性を維持できるというのがミソなのでしょう。研究者らは今後、妊娠検査薬のような一般人でも簡単に使えるような製品を開発したいと話しています。それを使えばコーヒーを飲む前に本当にそのコーヒーがデカフェなのか確認できるということです。

凄い技術なのでしょうが、果たして売れるのかは心配です。

参考:
Llamas help to spot fake decaf (News@Nature)

マウスの癌抵抗性は移植可能!?

2006-05-10 20:52:39 | 医療・衛生
1999年、Wake Forest大学のZheng Cuiは悪性腫瘍を様々な系統のマウスに注射し、癌の成長を観察していく過程で、ある日、全く癌が進行していない一匹の雄のマウスを見つけました。彼は当初アシスタントの手違いだと思い、もう一度注射をやり直すように指示しました。ところがそのマウスでは何度腫瘍を注射しても一向に癌の進行が見られなかったのです。そしてなんと、その雄マウスと通常の雌マウスを交配させたところ、できた子供さらに孫でも腫瘍注入において癌が進行しないことも分かりました。つまりこれらのマウスには遺伝的に癌に対して抵抗力があることが分かったのです。

抵抗力の正体は彼らの免疫システムにあります。何故かこの系統のマウスの白血球細胞は癌細胞を認識して攻撃することが出来るようです。

Zhengらのグループは今回、この癌抵抗性系統のマウスの脾臓と骨髄から抽出した白血球を腫瘍を患っている通常のマウスに与えてみました。驚くべきことに、抵抗性マウスの白血球を注射された後の通常マウスの癌においても、著しい縮小が見られたのです。しかもこの効力は非常に長く持続するようで、実験から10ヶ月たった今でもこのマウスは健康的に生存しているということです。

今後この抵抗性の遺伝的な起源を明らかにすることが必要となってくるわけですが、このような癌に対する抵抗性はマウスだけでなく、おそらく人類の中にも存在すると思われます。もしそうだとしたら、例えばそのような遺伝的要素を持っているヒトの白血球を取り出して、癌治療薬として直接使用することも可能となるのでしょうか?

参考:
Cancer Resistance Found to Be Transferable in Mice(Scientific American)
Immune Systems of New Mutant Mice Fight Off Cancer(Scientific American)
The Mouse That Roared

携帯電話を利用した降雨量モニタリング

2006-05-07 20:58:52 | 材料・技術
自然災害による被害が世界中で頻発している昨今、天気予報というもののありがたみが身に沁みて分かります。特にすぐに浸水するような地域に住んでいる人々にとっては、降水量などの情報を即座に手に入れることがそこで生活営むうえで極めて重要な事項になるのだろうと想像できます。

携帯電話の電波は降雨時に弱くなります。これは空気中の水滴が電波を減衰させるためで、水滴の大きさと影響を受ける電波の周波数との間には相関があるそうです。

イスラエルのテル・アビブ大学のHagit Messerらは、この携帯端末から基地局への電波(cellular backhaul)の減衰からその地域における降水量を正確に計算することが可能であることを示しました。現在降雨量のモニタリングは主に気象レーダーを用いて行われていますが、携帯端末を利用したこの方法を実用化すれば、より高密度で正確なモニタリングができると考えられます。

この方法の素晴らしいところは、新たな設備投資が必要ないことです。携帯電話事業者の協力さえあれば、非常に低コストで高密度・高精度の降雨量モニタリングが実現でということです。

参考;
Mobile-phone signals reveal rainfall (Nature@News)