さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

積極的なコウモリの雌

2009-11-07 02:47:09 | その他
 もし地球外生命体がこっそり地球にやってきて人間という動物をつぶさに観察したとしたら、この星にいる他の生物に比べて幾つかの点で突出した特徴を見つけることだろう。それは案外文明や知性などでは無く、生殖行為の圧倒的多様さかもしれない。
 いろいろな動物を見渡してみても、人間ほどウェットな生殖行為をする種はないだろう。人間以外の動物のセックスは、人間のそれに比べれば驚くほど淡白だ。中には異性に対して華やかな衣装や綺麗な歌声でアピールするもの、贈り物をするものなど、なかなか情熱的な種も多いが、そんな彼らでもこと本番にいたっては、お互いの配偶子を交換してさっさとお終いといったシンプルな感じのものだ。48通りもあみ出した種は、この星では人間だけである。

 これまでに、オーラルセックス(OS:いわゆるフェラチオ)を普通に行う動物は、人間以外の動物ではボノボという人間と比較的近縁な霊長類の仲間でしか知られていない。ボノボの行うOSの生態学的意味に関しては不明なようだが、人間のような生殖行為の一部としてではなく、子供同士の遊び、一種のコミュニケーションと見られている。実際、このお猿さんたちはオス同士でもしちゃうらしい。ちなみに、正常位のセックスを行うのも人間とボノボだけである。

 自然界の不文律では、子孫を残すという目的に関係ない行いは極力慎むべきなのだろう。そう思うと、後ろめたさも少し感じ無いでもないという方には少し嬉しいニュースかもしれない。中国の研究グループが、コバナフルーツコウモリ(Cynopterus sphinx)というコウモリの一種で、人間以外では初めて、生殖行動の際にOSを普通に行っていることを確認した。
 彼らの行うOSのやり方は、人間の女性にとってみればかなりアクロバティックだ。リンク先の動画を観てもらえれば分かるが、C. sphinxのメスは体を曲げながら挿入中のオスのペニスの陰茎体(竿)と基部を舐めている。研究グループは20ペアの交尾行動を観察したが、そのうちの14ペア(70%)でこの行動が観察されている。

 このコウモリにとって、OSにはどのような意義があるのだろうか。OSが行われた交尾と行われなかった交尾の持続時間を比べてみると、OSが行われた交尾は約2倍も長いことが分かった。したがって、C. sphinxのメスにとっては、OSの進化的意義に関して比較的簡単な説明ができそうだ。例えばオスをできるだけ長く自分に惹き付けて置くことで、他のライバルメスから交尾をするチャンスを奪う、といったような。

 ではオスにとっては?一般的には、生物のオスはできるだけ多くのメスと交尾するほうがより多くの子孫を残せるという意味で進化的なのだが、どうしてC. sphinxのオスはOSがあるときには長く留まってしまうのだろうか。

 「そんなの決まっているじゃないか」と考える人は多分生物学者には向いていない。

<参考>
Tan M, Jones G, Zhu G, Ye J, Hong T, et al. (2009) Fellatio by Fruit Bats Prolongs Copulation Time. PLoS ONE 4(10): e7595. doi:10.1371/journal.pone.0007595

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