さいえんす徒然草

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ミトコンドリアを拝借

2011-01-24 23:01:07 | 分子生物学・生理学

Cytology from a needle aspiration biopsy of a canine transmissible venereal tumor. Slide was stained with a modified Wright's stain (from wikipedia)


 可移植性性器腫瘍(CTVT)は犬の間で蔓延する伝染性の癌細胞だ。この腫瘍は交尾や噛み合いなどを通じて個体から個体へと伝染るが、この癌細胞は約一万年前にたった一つの個体で生じた癌細胞に由来すると考えられている。同じような伝染性の癌細胞は有袋類のタスマニアデビルの間でも知られており(デビル顔面腫瘍性疾患)、この生物の個体数の急激な減少をもらたしている。


デビル顔面腫瘍性疾患 (from wikipedia)



タスマニアデビルの場合、彼らの遺伝的多様性が少ないために免疫が非自己の細胞として認識できないことが近年の急速な伝搬の原因らしいが、犬の場合はそれほどでもないのか、免疫反応により縮退することがあるようだ。

 現存のCTVTは単一の起源を持つためにそのゲノムの多様性は非常に低い。しかし、細胞小器官のミトコンドリアのDNA(mtDNA)を調べた最近の調査によると、CTVTのmtDNA配列は単一のクレードを形成せず、現存の犬の持つmtDNAとは系統樹上で区別できないことが分かった(リンク先の図)。これは、CTVTがその進化の途上で何度か宿主からミトコンドリアを拝借してきたことを意味している。

 CTVTは体細胞に由来するが、通常の生物と違い一細胞期(つまり卵)を経由しない。そのため有害な変異を持つミトコンドリアが蓄積しやすいのではないかと著者らは推測している。偶発的に宿主から水辺伝搬したミトコンドリアはそのCTVTが持っていたミトコンドリアよりも性能が良いため、比較的素早く置き換わってしまうのだろう。また、CTVTが食細胞から生じたということも外部の細胞小器官を取り込みやすい性質の要因かもしれない。

Mitochondrial Capture by a Transmissible Cancer, Clare A. Rebbeck, Armand M. Leroi and Austin Burt Science 21 January 2011: 331 (6015), 303. [DOI:10.1126/science.1197696]

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