「辞めてもらいます」突きつけられた通知書 ある日突然、身に覚えのない理由で解雇になった(西日本新聞) - Yahoo!ニュース
辞めてもらいます」突きつけられた通知書 ある日突然、身に覚えのない理由で解雇になった
6/20(火) 9:20配信
解雇を言い渡された女性は「私と同じように悔しい思いをしている人は、他にもいるはず」と話した
身に覚えのない理由で不当に解雇を言い渡される働き手が、後を絶たない。労働契約法は不適切な雇用契約の打ち切りを禁じているが、会社側は一方的に社員の問題点を指摘したり、必要な手続きを省いたりして退職に追い込む。「辞めてもらいます」。ある日突然、告げられたら-。
沈黙が15分ほど続いた。昨年7月、九州にある事業所の会議室。社員の30代女性は、関東の本社から訪れた取締役と社会保険労務士に解雇通知書を突き付けられた。署名を求められ、拒むと会話は途切れた。
やがて、脅しに近い声が飛んだ。「今、署名しないと終われないから」「書かないと部屋から出られませんよ」。詳しい説明はなく、言い分も聞いてもらえない。怒りと諦めが湧いた。
「もういいかな、こんな会社」。名前を書き、その日のうちに荷物をまとめて職場を出た。数日後、正式に退職となった。
「気にすることはない」はずが…
女性は事務職として十数年、勤務してきた。トラブルの発端は昨年5月、同じ事務職の新人が入ってから。仕事を教えていると約2週間で出社しなくなった。
「指導が厳しい」「できない量の仕事をさせられる」。新人は上司にパワハラ被害を訴えたという。きつく接したつもりはなく、教えた業務も会社が指示した内容の一部だけ。戸惑った。事務職はもともと2人態勢で、退職が相次いだため女性が長く1人で担っていた。待ちわびた仲間を排除するはずがない。
6月、本社から訪れた部長と社労士に事情を聴かれた。女性はパワハラを否定しつつ
、「相手の受け止め方もあるだろうから、かみ合わなかったのなら、申し訳なく思います」とわびた。翌日も謝罪し、部長から「気にすることはない」と言ってもらえた。解雇通知書に署名を促されたのは、その1カ月後だ。
一般的に解雇の有効性を巡る訴訟では、本人に弁明の機会があったかが重視される。女性にはその場も与えられなかった。
思い当たる節はある。女性は1人で事務をする間、朝から日付が変わるまで働いても仕事が終わらず、泣きながら作業をしていた。何度か直属の上司に助けを求めたという。社内の他の事業所は事務職が辞めると補充があるのに、「なぜここはないんですか」-。
女性の残業時間が多いことを本社が問題視し、少なく申告するよう言ってきたこともある。その際も同じ上司に「出先から現実を報告しないと、どれだけ大変か分かってもらえないですよ」と意見をぶつけた。
「そういうのが生意気で気に入らなくて、パワハラで切ろうとしたんでしょうね。長年、頑張って貢献してきたのに恩をあだで返された感じ。悔しいです」
「あなたの仕事はなくなる」
九州の食品加工工場で働いていた40代男性も職を失う危機に立たされた。5年ほど前、上司に「工場を畳むから、あなたの仕事はなくなる。整理解雇でお願いします」と告げられた。
整理解雇は、企業が業績悪化で社員を減らす際に取る手続き。判例で確立された四つの要件を満たすかどうかで有効性が判断される。会社は解雇を避けるため、配置転換や希望退職者を募集するといった努力をしたか-などがそうだ。
当時、希望退職者は募っておらず、転勤の相談もなかった。同じ工場で働く正社員の同僚は別の職場に移ったのに、なぜ自分だけ解雇されるのか説明もない。会社が正しい手続きを踏んでいないのは明らかで、納得できなかった。
会社と交渉して解雇は取り下げられたが、本州に転勤に。応じたものの、九州に残してきた認知症の母を思うとつらい。母が暮らす施設の近くにも会社の事業所があり、そこで働きたかった。
「会社がきちんとルールを守っていれば、こうはならなかったんじゃないかな」。釈然としない思いがなお、胸に残る。 (編集委員・河野賢治)
■紛争件数、年間約4000件
不当解雇の現状を数字でつかむのは難しいが、それをうかがわせるデータはある。厚生労働省によると、解雇を巡る訴訟や労働審判の申し立て、労使が専門家を交えて解決策を話し合う労働局の「あっせん制度」の申請は、合計で年間4千件前後の水準が続く。
集計によると、解雇を巡り21年度、提訴が1082件▽裁判所への労働審判の申し立てが1751件▽労働局へのあっせん制度申請が1116件(有期労働契約の雇い止めを含む)あった。こうした事例の一部に、不当解雇が含まれているとみられる。
労働契約法は合理的な理由を欠く解雇を無効と定めている。社員が悪質な行為をした場合などの「懲戒解雇」、業績悪化で人員整理をする際の「整理解雇」、従業員の能力不足や病気などを理由にした「普通解雇」のいずれにも、この規定は適用される。
整理解雇は判例上、人員削減が本当に必要か▽配置転換など解雇を避ける努力をしたか▽人選は適切か▽労使で十分な話し合いをしたか-という四つの要件で有効性が判断される。解雇を巡って労働者と雇い主が争いになる場合、これらのルールが守られたかが争点になることが多い。
西日本新聞