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【名人戦第1局】渡辺明名人に先勝 藤井聡太六冠の「攻めるか、守るか」の判断について感じたこと

2023年04月10日 15時03分49秒 | 文化と芸能




【名人戦第1局】渡辺明名人に先勝 藤井聡太六冠の「攻めるか、守るか」の判断について感じたこと(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース 




【名人戦第1局】渡辺明名人に先勝 藤井聡太六冠の「攻めるか、守るか」の判断について感じたこと
4/10(月) 11:02配信
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初手を指す後手番の藤井六冠(日本将棋連盟提供)

 藤井聡太六冠(20)が40年ぶりに最年少名人の記録を達成するか。それとも渡辺明名人(38)の4連覇か。第81期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社、朝日新聞社)の第1局が4月5日、6日の両日、ホテル椿山荘東京(東京都文京区)で開催され、挑戦者の藤井が渡辺に110手で先勝した。

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AI研究が役に立たない「力勝負」


 最近の対局は、序盤に角を交換する「角換わり」が多い。今対局は渡辺が「6六」に歩を進めて角道を塞いだことで角交換はなくなった。角換わりになると、早い段階から大駒が持ち駒になることなどで進展が早くなりやすいが、今回は角換わりではない上、AIによる「研究局」からも全く離れた「力将棋」となり、最初から極めて遅い展開となった。

  AIなどで研究した構想が両者で一致すると、あるところまではバアーっと進む。しかし今回は、渡辺がAI研究を頼れない「未知の世界」に誘導して経験の豊富さを生かした戦いに持っていく。これに対し藤井は慎重に見極めて対応していた。 

 そのため、なかなか戦端が開かれない。双方、いわゆる「雁木(がんぎ)」という陣形だが、藤井は居玉のままで、左右どちらにでも玉が逃げやすいバランスの良い形で対抗した。玉をがっちりと囲ってから闘うタイプの渡辺は振り飛車党ではないが、かつての大山康晴十五世名人(1923~1992)と似たところがある。

  昼食休憩の後、渡辺は27手目で「3五歩」と、藤井の角の頭を脅かす手を指した。 ここで藤井の手がぱたりと止まってしまう。そして1時間38分考えた末に、そこへは応対せず「6三銀」として自玉の上方を強化した。午後からも手数は進まず、渡辺に歩で止められた飛車を藤井が「8三」へ引いた時点で、午後6時半の「封じ手」となった。早い展開の将棋なら1日目の午前中で70手くらい進むが、この時点でまだ43手目だった。


「藤井さんでなくてはできない手です」


 2日目の朝9時、立会人の中村修九段(60)が開封した渡辺の封じ手は「7九玉」。地味な守りの手だった。藤井はどこまでも慎重だ。これに対して「9五歩」と端歩をぶつけて来るのに34分使った。

  2筋から攻める渡辺が「2五歩」とすると藤井は再び手が止まる。今度は1時間47分も考えた末に「3五歩」と応じた。 

 その後、藤井は飛車が成り込んで龍を作り、渡辺玉を脅かす。さらに、早い段階で「6五」へ跳ねていた藤井の桂馬 が渡辺玉の上部脱出を阻む。相変わらず「桂の高跳び歩の餌食」など何するものぞの藤井の桂馬の使い方は独特だ。

  渡辺は83手目で角を隅っこの「1一」に成り込んで馬を作り、42分の長考で「2一」へ寄せたが、まだ藤井玉は遠い。藤井は90手目に、それまで長く自陣の「4二」に据えていた角を一挙に「1五」に運んで渡辺玉の真横を狙う。渡辺はこの時、「4二銀」と初めて王手をかける。藤井は慎重に玉を「6一」へ逃がした。渡辺は「3二」に動かした馬を「5四」へ引き、藤井玉の上部脱出を防ぐ。

  藤井玉も安泰ではなくなり、守りの手を指すかと思った瞬間、先の「1五角」が効いている(ヒモになっている)「4八」へ金を打った。ABEMAで解説していた森内俊之九段(十八世名人資格=52)は「藤井さんでなくてはできない手です」と舌を巻いた。  


渡辺は粘りを見せたが、110手目に藤井が角を「2七」へ打つと、即詰みはなかったものの手がなくなった渡辺は投了した。午後8時39分だった。


藤井は「自信のない局面が多かった」

 加藤一二三九段(83)は本局の藤井について、このように分析した。 《歩を突き捨てて桂を跳ねる。この桂が、最後まで渡辺玉の「退路封鎖」に役立ちましたから。本当に「桂使いがうまい」棋士だと感じます》(日刊スポーツ3月7日付「ひふみんEYE」より) 

 渡辺については、《中盤、2筋の歩を突きましたが、そこで3筋の歩を突いて、飛車と銀で攻めれば有望でした。筋違いでしたね》(同)としている。確かに2筋からも3筋からも攻められそうな形だったが、もちろん筆者などにその優劣はわからない。 

 局後、破れた渡辺は「仕掛けを後手に与えてしまい、面白くない展開になった。2日目は一手遅れている感じがずっとあり、苦しめの局面が多く、最後まで差が埋まらなかった」と話した。勝利した藤井は「自信のない局面が多かったが、終盤は居玉が王手のかかりにくい手になり、それを生かせていいスタートが切れた。2日目の夕方に休憩があるなど、持ち時間8時間の対局と違う感覚があった」と語った。 

「王手のかかりにくい形」と言ったが、偶然そうなったのではなく、藤井が龍を我慢して8筋からずらさなかったため、渡辺が角で反対サイドの8筋から藤井玉に王手することができなかった。

  名人戦は持ち時間が9時間と最長だ

「違う感覚」と言いながら、二度にわたる大長考も、きっちりとその時間差を見極めたものなのだろう。 

 自玉に守りの金や銀をべたりとくっつけず、一見、危なっかしく見える「居玉」で戦う感覚、ABEMAで解説していた黒沢怜生六段(31)は「この将棋を居玉で戦うとは。藤井さんはやはりすごい」と脱帽していた。それでも終盤、渡辺に王手を指されて逃げた時は銀を引いて自玉に近づける。アシスタント役だった山口恵梨子女流二段(31)が「ここへ来て囲うんですね」と驚いていたが、普通は序盤でやることを終盤でさっとやってのけるのだ。


「攻めるべきか、守るべきか」に出る天性

 将棋というゲームは「攻める時か、守る時か」の判断が最も難しいだろう。攻め方や守り方は詰将棋の本や定跡本などでも学べるが、実戦でのこの部分は天性や勝負勘といった要素が多いように感じる。とりわけ藤井将棋を見ていると、その感慨が深まる。

  詰将棋は詰むことがあらかじめわかっている。しかし実戦では、詰むと思って持ち駒を使い果たし、そこで詰まなかったら一巻の終わりだ。藤井はつまるところ、「守るべきか、攻めるべきか」の判断に優れるのだろう。 

 以前の藤井は「ここは守るはずだ」と思った時に大胆に攻めて驚かせることが多かったが、最近は解説陣の「攻め時でしょう」といった予想に反してさっと守ったりもする。対人の将棋やAIでの勉強、研究等でそうした判断もある程度は磨かれるだろうが、基本的に「攻めるか、守るか」の判断は生まれ持った天性ではないだろうか。


健啖家の渡辺明名人

 それにしても、渡辺は対局中も実によく食べる。1日目の昼食は藤井と同じ握り寿司を注文したのだが、渡辺は「寿司増量、ワサビ抜き」として別の皿で何貫か追加している。 

 2日目の昼食も、藤井は天ぷらうどん、渡辺は豪華な松花堂弁当。さらに、名人戦は2日目の午後5時に「軽食タイム」があり、藤井はおにぎりを2つを注文したが、渡辺はここでも天ぷらそばをしっかり食べていた。 

 いつものように藤井は2日目の午後のおやつはドリンクだけだが、渡辺はスイーツもしっかり食べたようだ。驚くべき健啖家棋士である。

  加藤九段が現役時代、対局中に板チョコ2枚をバリバリ食べて相手を驚かせた逸話を思い出してしまう。もっとも、最近の棋士はずっと上品になっているようで、そういう姿もあまり見ない。 

 飲料や食べ物を持参することは自由だが、愛妻弁当と水筒、好きなスイーツなどを持ってこられたら、有名棋士が注文することでの「売上アップ」を期待する地元の料亭や飲食店、菓子店などは愕然である。トップ棋士は様々に気を使っている。


第2局の会場は相性の良い静岡

 天才棋士・渡辺は20歳で竜王を獲得して以来、タイトルホルダーを堅持してきたが、藤井には三冠(棋聖、王将、棋王)も奪われている。死守している名人位まで奪われ無冠に落とされたくはない。

  第2局は名人挑戦者を決める順位戦A級リーグの最終日が行われた静岡市の「浮月桜」で4月27、28日に行われる。藤井六冠にとって静岡県は、棋聖戦、王位戦、竜王戦、王将戦の4つのタイトル戦をすべて勝ってきた相性のよい土地。しかも圧倒的な勝率を誇る先手番だ。 

 渡辺は「少し間が空くので気を取り直して頑張りたい」と話していた。対戦成績こそ3勝17敗と大きく負けているが、内容の差は数字ほどないはず。不幸にして「藤井聡太に最も多くのタイトルを奪われた棋士」になってしまっているが、最強棋士として君臨していたことの証しである。

  今回の対局では先手を決める「振り駒」の結果、名人である渡辺が先手となった。その後は一局ごとに先手と後手を入れ替え、7番までもつれた場合は再度、振り駒を行う。  


注目の名勝負をもう一度、振り駒が行われるまで見たい。 (一部、敬称略)
粟野仁雄(あわの・まさお)




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