母乳が出にくい体質の女性に向けて売っているのではなく、明らかに母乳フェチの男性がターゲットとなっており、一昔前のブルセラを彷彿とさせます。また、ほとんどの母乳販売アカウントにはメニュー表があり、母乳50mlあたり1200~1500円が相場のようです。
6/10/2021
ネット上で母乳が売買されている―――。そんな衝撃的な事実が2015年から世界的に広がりを見せ、日本でも行われています。

※イメージです
Twitterで「#母乳売ります」で検索をかけると、次々に母乳を販売しているアカウントが表示されます。 しかし、厚生労働省からは「インターネット等で販売される母乳を乳幼児に飲ませると、病原体や医薬品等の化学物質等が母乳中に存在していた場合、乳幼児の健康を害するおそれがある」と注意喚起が出ています。(インターネット等で販売される母乳に関する注意/厚生労働省)
背景に貧困が?「#母乳売ります」に群がる男性たち
母乳が出にくい体質の女性に向けて売っているのではなく、明らかに母乳フェチの男性がターゲットとなっており、一昔前のブルセラを彷彿とさせます。また、ほとんどの母乳販売アカウントにはメニュー表があり、母乳50mlあたり1200~1500円が相場のようです。

それらのアカウントのツイートを見ていると、シングルマザーらしき人も多く見受けられ、「お金がないので援助してほしい」と、PayPayのQRコードを貼っている人もいました。母乳販売アカウントの背景には女性の貧困が潜んでいることが考えられます。
母乳販売は意外なきっかけから
メグミさんのツイート。母乳用フリーザーパックに母乳を入れた写真が添えられている
メグミさんは既婚者で会社員ですが、現在は育児休業中。母乳を販売していることを夫は知らないといいます。彼女が母乳の販売を始めたきっかけは意外な出来事からでした。
「子どもが生まれてすぐ、Twitterで育児専用アカウントを作って日々の育児についてツイートをしていました。するとある日、男性らしきアカウントから『母乳を売ってくれませんか?』というDMが届いたんです。最初は気持ち悪いなと思ったのですが、以前『裏垢』を作ってちょっとエロい投稿をしていた時期もあったので、SNS上で知らない人とやり取りをするハードルが低く、どうせならたくさん出る母乳を売ってお小遣い稼ぎしようと思い始めました」
メグミさんの母乳の取引の流れはこうです。まず搾乳してすぐに母乳バッグに入れて24時間以内に冷凍。そして取引のDMが来たら条件などを交渉し、取引が成立したら先にアマゾンギフト券かPayPayで料金を支払ってもらい、着払いのクール便で送るそうです。
メグミさんが母乳の販売を始めたのは今年の4月から。今のところ20件ほど購入希望者からDMがあり、実際に販売に至ったのは5件とのこと。対面ではなく完全にネット上でやり取りをしているため、危険な目に遭ったこともないそうです。
取り引きが成立しない理由
購入希望者とのやりとりはTwitterのダイレクトメッセージで行われる(メグミさん提供、以下同じ)
顔写真の提供を断ったため取り引きが成立しなかった例

「罪悪感は特にないですね。冷凍保存した母乳は、長くて6か月が子どもにあげられる期限だと言われています。私の場合は念のため、1か月冷凍して、余ってしまったら捨てるようにしていました。だから、捨てるくらいなら売ったほうがいいなと思って。育児アカウントのほうで初めて『母乳を売ってください』とDMが来たときは気持ち悪いなと思っていたのですが、今はそのようなフェチのある男性は大変だなとしか思わないです」
多くの母乳販売アカウントは貧困のために行っている印象が強いのですが、メグミさんの世帯収入は現在育休手当も入れて月40万円ほど。そのため、メルカリ感覚でお小遣い稼ぎのためにやっていると言います。母乳販売で得たお金でUberEatsを頼んだり、コンビニのスイーツを買ったりと、本当にちょっとした贅沢を楽しんでいるとのことでした。
売り上げの使い道は、UberEatsやコンビニスイーツ
メグミさんは今後も母乳が出る限りは母乳の販売を続けていきたいと言います。しかし、冒頭でも述べた通り、厚労省は個人間の母乳売買に関して警鐘を鳴らしています。
厚労省が2015年に行った注意喚起では「母乳を通じて感染する可能性がある病原体の例」としてHIV(ヒト免疫不全ウイルス)や、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)が挙げられています。また、昭和大学江東豊洲病院と一般財団法人・日本食品分析センターが、販売されている母乳を検査・分析したところ、粗悪なものでは細菌量が最大1000倍も検出されたそうです。
このように衛生面でも問題のある母乳売買。今回、メグミさんはお小遣い稼ぎ程度の感覚でしたが、取材できなかった他の母乳販売アカウントの女性たちの中には貧困にあえいでいると思われる人もいます。しかし、このような行為を厚労省が問題視していることを忘れてはいけません。