近ごろ、少々長風呂を心がけている。
湯船のなかで時を過ごす方法を見つけたからだ。
胸の下までしかないぬるめの湯につかり、風呂のふたを机代わりにしてKindleで本を読むのである。
今読んでいるのは『独学大全』(読書猿)。「紙」版だと全788ページにおよぶ大著であるが、あせらず気長に読んでいる。そういうところも、この方法にぴたりと当てはまっているのかもしれないなどと思いつつ読んでいる。
慣れてくるとおもしろいもので、湯船のなかでついウトウトとしてしまうことが2回に1回はある。昨夜もまたそう。ふと気づくとオチていた。
あらあら、と苦笑しながら本へ戻る。
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読めない人の典型は、自分が知っている単語に条件反射的に動かされてしまい、その言葉がどのような文の中で、そしてどのような文脈の中で、使われているかを考慮せず、注意も払わない人だ。
こうした人は、単語にはいつも決まった固定された意味があるものとして考え、疑わず読んでいく。しかし文章で鍵となる言葉や概念は、辞書にある意味からいくらか離れ、独特のニュアンスを帯びたり、独特の意味を担うことが少なくない。一語一義に無自覚であれこだわりが強い読み手は、ここでつまずく。
(Kindleの位置No.7307)
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得たりとうなずき眠けが醒めたのにはわけがあった。
その朝、あることを考えていた最中に思いついたこんな文章を書きとめ、「下書き」として保存しておいたからだ。
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言葉にこだわらないひとほど、言葉(単体)を問題にし、言葉(単体)を糾弾する。
一方、言葉にこだわるひとは、言葉というものを文脈のなかでとらえるので、一つひとつの言葉をそれほど問題にすることはない。たとえその使用法が意味的に適切ではなかったにせよ(それ自体を指摘することはあるとしても)、全体として意味を成していればよしとする。
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おもしろいものだ。
ひとり微笑んで『独学大全』に戻った。
すると、くだんの位置ナンバー(ページ数)に目が止まる。
7307?
10726分の7307?
???
おかしい。
たしか10%も読み進めてはいなかったはずだが・・
と、そこで気づいた。
オチた瞬間、どこをどうしたかわからないが、ページを進めていたらしい。
ページを少し戻してみると、この項、「チャリティーの原理」について書かれていたものだった。
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チャリティーの原理とは、ざっくり言えば、相手が言っていることをできる限り「正しい」「筋が通ったもの」として解釈しようという原則を言う。書き言葉であれば、その文章がうまく理解できなかった時には、相手の書き方が悪いのではなく自分の解釈がおかしいと考え直せ、という方針になる。(No.7292)
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ナルホド。
大きくうなずいたのは言うまでもない。