入間カイのアントロポゾフィー研究所

シュタイナーの基本的な考え方を伝えたいという思いから、日々の翻訳・研究作業の中で感じたことを書いていきます。

アントロポゾフィー指導原理(7)

2007-09-19 08:32:44 | 霊学って?
7.
人間における魂とは別の、また霊とも異なる本質は、
地球と地球外という二つの領域からなるこの世界に組み込まれている。
人間は、生命なきものを包括する地球領域に組み込まれている限りにおいて、
「物質体」を有している。
また、人間は自己の内に、
宇宙空間から地球領域へと生命を引き寄せる諸力を発達させる。
その限りにおいて、人間は「エーテル体」もしくは「生命体」を有している。
近代以降の認識の方向性は、
この地球領域と地球外領域の対立にまったく眼を向けていなかった。
そのため、エーテル領域に関して、
ありえないような見解がいくつも展開されてきたのである。
空想のなかに自己を見失うことへの恐れが、
この対立について語ることを妨げてきた。
しかし、それを語ることなしには、
人間と世界への洞察に到ることはありえない。(訳・入間カイ)

7.
Man findet den Menschen mit seinem außerseelischen und außergeistigen Wesen
in diese Welt des Irdischen und Außerirdischen hineingestellt.
Sofern er in das Irdische, das das Leblose umspannt, hineigestellt ist,
trägt er seinen physischen Körper an sich;
sofern er in sich diejenigen Kräfte entwickelt,
welche das Lebendige aus den Weltenweiten in das Irdische hereinzieht,
hat er einen ätherischen oder Lebensleib.
Diesen Gegensatz zwischen dem Irdischen und Ätherischen
hat die Erkenntnisrichtung der neueren Zeit ganz unberücksichtig gelassen.
Sie hat gerade aus diesem Grunde
über das Ätherische die unmöglichsten Anschauungen entwickelt.
Die Furcht davor, sich in das Phantastische zu verlieren,
hat davon abgehalten, von diesem Gegensatz zu sprechen.
Ohne ein solches Sprechen
kommt man aber zu keiner Einsicht in Mensch und Welt. (Rudolf Steiner)


ここでまず目につくのは、
冒頭の「魂とは別の、また霊とも異なる本質」という表現です。
ドイツ語では、außerseelisch とaußergeistig
そのまま訳せば、「魂外」と「霊外」とでもいうのか、
「地球外」(außerirdisch)に対応した表現になっています。
ここでは、シュタイナーが
人間の本質を四つの領域に分けて捉えていることが分かります。
つまり、「地球」、「地球外」、そして「魂」と「霊」の領域です。
シュタイナーの著作によく出てくる
「人間本質の四つの構成要素」という考え方はここから来ています。

僕には、シュタイナーが
「魂とは別の、また霊とも異なる本質」という言い方をすることで、
特に西洋のキリスト教世界では軽んじられてきた「肉体」(物質体)もまた、
「人間の本質」に含まれることを強調しているように感じられます。
西洋では、この肉体軽視に対立するかたちで、
極端な物質主義(唯物論)が出てきました。
しかし、シュタイナーは、
本当に注目すべき「対立」は、
精神と物質の対立ではなく、
「生命」と「生命外」、
もしくは「地球」と「地球外」の対立であるというのです。

地球を「生命なき領域」とすることには、
違和感を覚えられる方もあることでしょう。
しかし、生命に満ちたこの地球は、
宇宙とのつながりなしにはありえないことに意識を向ける必要があるのです。

もし地球が、宇宙とのつながりを絶たれて孤立したとすれば、
そこには生命は存在しえない。
別の言い方をすれば、
現在、地球上に見られるどんなに小さな生命活動のなかにも、
必ず宇宙とのつながりが働いている。
そのように、地球のなかに宇宙の作用を引き込み、
生命を成り立たせている働きを
シュタイナーは「エーテル体」(生命体)と呼んだのです。

ところで、
シュタイナーがこの文章を書いた時点では、
人類はまだ、宇宙には出ていませんでした。
人間が月に降り立ち、
他の惑星と物質的なつながりを持つに到ったことは、
人間の認識活動、とくに「生命科学」における意識のあり方に
大きな変化を及ぼしたに違いないと思います。

アポロの月面着陸は本当だったのか?
という陰謀説もありますが、
人類の視野が宇宙にまで広がり、
宇宙から地球を見るまでに到ったことは、
確実に、人類の意識に大きな影響を与えたと思うのです。

しかし、ここでシュタイナーが指摘している
生命と宇宙との関連から言えば、
もし人類の宇宙研究が物質レベルに終始するなら、
それは「地球領域」を宇宙に広げていくだけであり、
本当に生命の本質や、人間の本質の認識に到ることはないでしょう。

現在の宇宙論のあり方に対して、
それを否定するのではなく、
そこに生命(エーテル)領域、
さらには「魂」や「霊」の領域の認識を付け加えていくこと、
それがシュタイナーの目指した
「現代の自然科学を拡張する」アントロポゾフィーの役割ではないかと思います。