JOEは来ず・・・ (旧Mr.Bation)

なんの役にも立たない事を只管シコシコと

松本清張  或る「小倉日記」伝

2009-06-13 | BOOK
今年は松本清張生誕100年なんだそうである。太宰治も100年だけど・・・
ということで松本清張の文庫本にスポットが当たったり、松本清張原作の映画にスポットが当たったり。若い頃推理小説を毛嫌いしていて(謎解きが面倒臭いんですもの)松本清張は「点と線」「砂の器」くらいしか読んどりませんでしたのでこの機会に1冊読んでみました。

推理小説ではなく芥川賞を取った「或る「小倉日記」伝」を含む短編集
松本清張傑作短編集(一)

短編でこそ、その本領を発揮すると言われる松本清張という意味がよく解りました。どれもこれも傑作揃い。

当時の作品のパターンの一つと言える境遇と才能のアンバランスによるコンプレックス。無名の好事家の哀切な生涯を綴る表題作他数編。
非現実的な学芸の世界に没入する人々と家族との関係。
一種のオタクさんたちですから・・・
報われなさが最高です。

それら一連の作品を実に好ましく読むことができましたが、個人的なベスト1はテーマは違えど「赤いくじ」に尽きます。

1944年、朝鮮の西沿岸を防備する備朝兵団。
参謀長楠田大佐と軍医少佐の2人が出征軍人の若い妻、塚西恵美子を争う。何かと理由を付けて近づこうとする2人だが夫人の美しさの前には高潔で精神的。しかし終戦を迎え、塚西恵美子がくじでアメリカ兵相手への生贄ともいえる慰安婦に選ばれてしまう。結局アメリカ兵は紳士的で恵美子らは難を逃れるのだが、既にもう周囲の人々の見る目が違ってくる。楠田と末森も御多分に漏れず、それまでの高貴な振る舞いが一転して恵美子夫人を略奪しようとする。

塚西恵美子と2人の男のやりとり。前半の高貴さと後半の野卑さ。これがなんともエロチック。性的表現などほとんど無いにも関わらず、下手な官能小説以上のエロさがある。
松本清張にこのような面があるとは・・・・恐るべし。

或る「小倉日記」伝
菊枕
火の記憶
断碑
笛壷
赤いくじ
父系の指
石の骨
蒼のある断層
喪失
弱味
箱根心中

推理小説的なものは「火の記憶」くらいだけど、どれも面白く、また推理小説の大御所の片鱗がそこかしこに見えるのも楽しめます。

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