いい女よりもいい男の数は少ない

男の恋愛ブログです。
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上司

2019-02-14 00:20:40 | 日記
その男はフリーランスとして働く傍ら、企業でアルバイトとしても働く日々を送っていた。俗にいうWワークだ。お金が欲しくて始めたのだが、時給で選んでもいなかった。自分でもできそう、あまり電車に乗りたくない、そんなワガママを通せるのも本業があっての事だろう。生活がかかっていたら文句を言える立場ではないのだから。

実は最初はスキマ時間に近所のセブンイレブンで週2で働いていた。レジをやりながら肉まんを作ったりして意外と楽しかった。オフィス街だったこともありサラリーマンやOLが多く、自分もスーツを着て働いていたよなあ、と時々昔の事を思い出していた。そんな想いが高じてオフィスでアルバイトをすることにしたのだった。

久し振りにスーツを着て面接を数社受けてみることにした。早めに着いたら別室に案内されるものだと思っていたがエレベーターホールで立って待たされた企業や法曹関係の事務所はこちらからお断りした。一流企業と言ってもピンからキリまであるのだなあと思い知らされたものだ。求人広告と全く内容が違う提案をしてきた企業も辞退した。こちらが選ぶ側なのだ。企業側ではない。恋愛だってそうだった。ブサイクでガリガリだったなりに、無い物をこねくり回して、「ある」事にしてきたのだ。最終的に選んだのは通いやすくて自分でも活躍できそうな職場だった。

初日に挨拶されたのが上司となる男性だった。一目でゲイだと分かる男性で、ちょっと好きな顔だった。手を出そうとは思わないが、ずっと見ていたい顔だと思った。

「ちょっと記入してもらいたいものがある」と、上司が資料を渡す手に指輪はなかった。お昼休みに弁当を持参している様子もない。誰かが毎日渡してくれそうなハンカチやタンブラーもなく、結婚していないにしても同棲もしていないだろうと思わせた。くだらない駆け引きや恋愛指南にありそうな事を仕掛けるつもりはない。テクニックを駆使して興味を引かせるよりも、ただ自分が美しい存在であればおのずと向こうからやってくるだろう。ジムに通いながらWワークに励む日々だったが、新人アルバイトにしては役職者である上司から声を掛けられる機会は多かった。「何かあれば相談してきて」と言われたのは、単なる社交辞令ではないだろう。単なる仕事の話ではあっても話してみたい、と、それくらいは相手から思ってもらえただろうか。

仮に2人が付き合う事になったとしても、この恋愛が上手くいかなかった時の損失は大きい。そもそも相手がゲイなのかどうか、恋人がいるのかさえ知らないまま何かが進展するとは思えないが、毎日同じ職場で顔を合わせているというのはかなり大きい。ジムで毎日見掛ける会員だからと言って用もなく話しかけられるものでもないが、職場となると「いい」のだ。「コーヒー、お好きなんですね」や「おはようございます」等、何とでも話しかけられる。しかも同じ会社なのだから、何でも割と好意的に受け止めてくれる。

「好きだとしたら、どちらが先だろうか」

窓の外に目をやりながら、ふと考える。こちらからしてみたら向こうから来てほしい。しかし、上司が新人に手を出してくるとは思えない。むしろ向こうこそ、こちらに興味があるとしたらだが、来てほしいと思うはずだ。相手からくることを望んで、来やすいように振舞っていると、他の人からもよく話しかけられた。いつの間にか模範的な新人に自分はなっていた。