2014年の7月2日、当時1億ビューの視聴を誇り、ネット陰謀論の筆頭だったリチャードコシミズはこう書いた。
「 自衛隊の諸君は、銃口を安倍晋三に向けよ!」
ワールドフォーラムでデビューして以来、安倍晋三と旧統一教会との繋がりを叩くのは、リチャードコシミズ十八番の鉄板ネタであり、この旧統一教会の組織の背後に当時はまだ健在だった大富豪デイヴィッド・ロックフェラーがおり、巨大な政治力と財力を使って間接的に日本の政治経済をコントロールしている ――― というのが彼の陰謀論の主軸であった。
実際、リチャードコシミズは自身の講演会でも、配信する自分動画のなかでも、上記のようなことは日常的によくいっていた。
証拠として、ban されていまは存在しない、biglobe の当時の richardkoshimizu's blog の7.2記事を下に挙げておこう。
( マイケル注:白文字、現在の彼の顔面画像、矢印、赤丸は僕がつけたもの )
ところがリチャードコシミズがこういってから8年と6日後の2022年の7月8日、自民党の元総理・安倍晋三氏が奈良で遊説中に銃撃され、実際に死んでしまったのだ。
明治の伊藤博文、大正の原敬などの例は歴史で知っていたが、まさか令和の今の世でそれが起こるとは思わなかった。
僕はたまたま東京地検を訪れているときにこの衝撃的な事件を聴いた。
そして、聴いた瞬間、
―――― ああ、この事件、ひょっとして陰謀論者が犯人じゃないのかなあ? と咄嗟に感じた。
僕にそう感じさせたのは、たぶん平成後半あたりから僕等の日常の裏地にずっと貼りついていた、なんともいいがたい閉塞感に満ちた「 時代の空気(ニューマ)」であったのだろう、と思う。
令和に入ってから、この閉塞感はさらに加速した。
コロナの蔓延。
プーチンがはじめたウクライナ戦争。
あがいても這いあがれない派遣労働者たち。
世界的な物価上昇と反比例するかのように進んでいく日本の円安……。
そうした暗い世相を浮き彫りにするような事件も、同時進行していくらも続いた。
石油を撒いて多くのアニメーターを殺害した京アニ事件。
患者のために医院がもっとも人を集めたその時を狙って放火した大阪北クリニックの事件。
東大の門前で受験生を狙って凶刃をふるった17才の少年の事件……。
このような陰鬱なニュースの背後に常に貼りついていたのが、いわゆる陰謀論の影だった。
ドナルド・トランプ英雄論を掲げて米国連邦議会を襲撃したQの席巻と凋落。
平塚正幸のノーマスクフェスを皮切りに広がった「 毒ワク 」「 ノーマスク 」の全国的デモ。
廃れたQのリバイバルのように現れ再び全国に広がっていった神真都Qの盛衰……。
現在のリチャードコシミズは全盛だった当時と比べるとすっかり落ちぶれてしまって、ネットでの知名度も彼等には到底及ばない存在になり果ててしまったのだが、このとき僕が連想したのは、ほかでもない、2014年当時のリチャードコシミズの言論そのものであった。
日が経ち、銃撃犯である山上徹也の素性が明らかになるにつれ、冒頭に挙げた画像そのままの事実が僕を驚かせた。
リチャードコシミズは「 自衛隊の諸君は、安倍晋三に銃口を向けよ 」といった。
そして、山上徹也は実際に「 自衛隊の出身 」だった。
さらに彼は旧統一教会を憎んでいた。その繋がりが許せないことが彼が安倍晋三を狙った動機だったのだから。
リチャードコシミズは、旧統一教会の使徒として働く安倍晋三を撃て、と何度も激を飛ばした。
その8年と6日後に、山上徹也は、リチャードコシミズの激が導いた通りに、現実の安倍晋三を撃ったのである ―――。
僕は政治家としての安倍晋三を評価してはいなかった。
しかし、だからといってこのようなかたちで安倍晋三を排除していいか、と問われたなら、当然僕の答えはノーだ。
通常のノーではない、断固たるノーである。
旧統一教会に家庭を破壊されて怨むにいたった彼の境遇には同情の余地が多分にあるし、心情的に彼が憎い旧統一教会を狙いたくなる気持ちも分かる。
けれども、安倍晋三は旧統一教会の信者でも内部の人間でもなかった。
いってみるなら部外者だ。
票を取るために大きな団体に接近していくのが政治家という職業の業である。
その程度の認識はいまどきの小学生なら誰でも持っていることだろう。
ところが山上徹也はこの認識を持っていなかった。
過程を破壊された怨みを果たすために、彼は旧統一教会の内部者でなく、協力者にすぎない安倍晋三を銃撃したのである。
恐るべき短絡であり、許しがたい蛮行である、と思う。
彼は旧統一教会の中枢の人間を狙いたかった、と自身でもいっている。
だけれど、教会はガードが固く、本部も韓国にあるので狙いにくかった。
だから、教会と協力関係にあり、知名度もある安倍晋三を狙った。
安倍晋三は以前から気に入らない人物だったからちょうどよかった、とも彼はいっている。
なんという自棄だ、と僕は言葉を失う。
これはつまり教会と関連していて、知名度があり、自分が好感を持っていない人物なら、誰でも殺していいということになるのではないか。
この発想と感性は、ほとんど無差別殺人のそれに近い。
けれども、彼のこの動機は、よくよく見るなら陰謀論のそれとよく似ているのである。
Q勃興の初期に起こったピザゲート事件。
ドナルド・トランプが焚きつけて起こった連邦議会襲撃事件。
コロナワクチンを毒であると決めつけて、接種会場の東京ドーム大規模接種所に訪れ妨害した神真都Qの事件……。
今世紀に入ってからの陰謀論の興隆には凄まじいものがある。
Q、神真都Qなどの陰謀論は、どうしてあれだけの数の信徒を集めることができたのだろう?
また、どうして陰謀論を信奉する輩は、安倍晋三と旧統一教会を混同した山上徹也のような倒錯を簡単に許してしまうのだろう?
コロナワクチンが毒であるというのは、いまだ証明されていない、彼等限定の願望情報だ。
ところが彼等のうちの誰も、自分たちの願望言動を「 現実 」と突きあわせて検証してみようとはしない。
出所も曖昧なデマ情報に自分らなりのデマ情報を上乗せして、自らの幻想大陸を拡張していくのが「 彼等のやり口 」なのだ。
彼等のそうした言動を目にするたび、僕は悲しくなる。
彼等は「 現実 」からはぐれた浮浪児の群れのようじゃないか、と思う。
彼等がいちばん憎んでいるのはコロナワクチンでも現政府でもない、そういったものを全て包括した「 現実そのもの 」が彼等の敵なのだ。
自分たちをこのような夢のない境遇に追いこんだ「 現実 」こそが、彼等にとっての仇なのだ。
彼等が連呼する「 ディープステート 」というのは、彼等の敵を指し示す言葉ではない。
それは、自分とおなじように「 現実 」からはぐれた気の毒な同士たちにむけて呼びかける、友好のための符丁なのである。
これから同じ地下シェルターに入る同士の、不安と隣りあわせの、最小限の友誼的表明とでもいうべきだろうか……。
✖ ✖ ✖ ✖
リチャードコシミズは、いま現在行き渡っている全ての陰謀論の始祖であり、雛型であり、アイコンだ。
あらゆる現実を憎み否定する彼の団体「 独立党 」から、現在流布している陰謀論の枝々が派生した。
一世を風靡した Q の okabaeri@9111 は、彼の主催する「 独立党 」の出身である。都真都Q の Q もここから取られている。
渋谷の毎週末のクラスターフェスで名を売った、国民主権党の平塚正幸もここの出身者だ。
僕が名を口にしたら読売新聞の記者が顔をしかめた、名古屋の活動家(?)寺尾介伸氏もここの出身。
リチャードコシミズは2014年の7月2日に「 自衛隊の諸君は、安倍晋三に銃口を向けよ 」といい、
その8年と6日後の2022年7月8日に、自衛隊出身者の山上徹也がそれを実行した。
確かにリチャードコシミズは安倍暗殺の実行犯ではない。
彼はいつも通りのヘイトな与太を飛ばしてみせただけだ。
けれども、このような与太を撒いて、それを実行する人間が実際に出てきたということは全く罪に問えないものだろうか?
陰謀論がこれほどの害悪を世に振り撒いているこの時代に、彼程のインフルエンサーがこうまで野放しにされていいものだろうか?
2021年の12月15日、彼の言論を信じて大阪市内の小学校に侵入した男が捕まっている。
https://blog.goo.ne.jp/iidatyann2016/e/89ed8bfa28936d185a57b2c4c4127ce7
2021年の9月には、コロナの特効薬として駆虫薬イベルメクチンの個人輸入を推奨した咎で、上田保健所から2件の行政勧告が発せられてもいる。
https://blog.goo.ne.jp/iidatyann2016/e/f86eb12283a1db01d98f985b7faffe73
2022年の3月には、彼の「 コロナには駆虫薬のイベルメクチンが神薬だ( 上記の薬機法55、68条で行政勧告を出された案件) 」という持論(?)を信じて、これを服用した元・独立党の人間が散々な被害にあってもいる。
https://blog.goo.ne.jp/iidatyann2016/e/6f79a521265b8845ee7d2f211986423b
今回の安倍晋三銃撃教唆事件に関しては、すでに奈良県警にも報告済みだ。
公安調査庁の職員たちにもこの情報を届けたい、と僕等は考えている。
リチャードコシミズはネットをツールにした陰謀論者の第1世代だ。
彼の陰謀小学校から巣立った平塚正幸( さゆふらっとまうんど )―――
Q の翻訳者として米国記事にまでなった okanaeri@9111( 岡林絵里。よかとよ )―――
去年のコロナ禍のさなかに行政に多数での電凸攻撃を仕掛け、ワクチン接種機関をパニクらせた名古屋の寺尾介伸( バレバレ )―――
彼等・第2世代が世に広めた混迷を見るがいい。
陰謀論は語るべき言葉をもたない絶望者に言論を貸与し、「 自分らもいっちょまえの論客なんだ 」といった虚栄のプライドを付与する装置であり、化粧品なのだ。
これのもたらす害悪の最たるものが、今回僕が紹介したこの銃撃事件だ。
陰謀言論ウイルスの培養者、リチャードコシミズを討て ―――。
僕等の指針はいまも変わらない。 (了)