シェルティー ラン吉

拙者シェルティーラン吉でござる ラン吉のランは「団らん」のラン 一度しかない今日もろもろをラン吉ママがしたためまする

「仮称 メイちゃんの保護ストーリー 5」 ポチの思い出ものがたり-番外編- 2

2014-05-29 00:58:44 | ポチの思い出ものがたり

そんなこんなの「メイちゃん」の保護騒動は、近所や犬なかまの間でも、ちょっとした事件として知られました

N子さんの人生にとっても、大きなできごとの一つでした

「メイちゃん」がアパートの廊下で閉じこめられていたキャリーは、N子さんにはなかなか捨てることはできませんでした

「ひょっとして、メイちゃんは新しい飼い主になつかずに、戻ってくるかもしれない・・・

そうなったら、このキャリーでお迎えに行かなくちゃいけないわね・・・

いつか、そんな時がくるかもしれない、きてほしい・・・」

N子さんは、あわい期待をこめて、そのキャリーを大切に保管していました

 

でも、一月たっても二月たっても、スナックのママさんからも、あたらしい飼い主からも、N子さんにはなんの連絡もありませんでした

N子さんは、ついに「メイちゃん」との再会をあきらめて、そのキャリーを粗大ごみに出しました

時がすぎればまるで何事もなかったかのように、N子さんにも、犬散歩のなかまたちにも、また元のとおりの生活がもどりました

 

そんなことがあって半年ほどたった時、あの「メイちゃん」を新しい飼い主に引きあわせてくれたスナックのママさんと、N子さんは、ばったり町で会いました

スナックのママさんは、N子さんにむかい、一気に話しはじめました

「N子さん、あの時はごめんなさいね

あなたとメイちゃんを、あんなふうに、無理にひき離すようなことになってしまって、申し訳なかったわ

わたしも心のそこから、本当に苦しかった

でもね、あれは、メイちゃんの幸せを優先したことだったのよ

 

メイちゃんは、人なつこいから、新しい飼い主にはじめて抱かれた時からすっかり甘えていたわ

はじめて会ったのに、こんなに甘えてくるよって、新しい飼い主さんはとてもよろこんでいた

でももし、その場にあなたがいたら、どうだったかしら・・・

たとえ一週間でも一緒にいたら、メイちゃんは、新しい飼い主よりもあなたを選ぶに決まっていた

あなたの足元に走りよって、くんくんと甘える犬の姿をみたら、新しい飼い主さんはどう思ったかしら・・・

この犬は新しい自分たちのもとに来るよりも、N子さんの家のほうがいいのかな??

新しい飼い主さんに、もしもそんな迷いがあったら、メイちゃんへの接し方にも迷いがでる

そんな中途半端に迷った接し方は、メイちゃんの幸せにはつながらないわ

メイちゃんは、あなたがあの場所にいなかったからこそ、新しい飼い主さんのもとにすんなりと甘えることができたのよ

あなたにはつらい別れ方になってしまったけれど、メイちゃんと新しい飼い主には、幸せな出会いだったはず

けっして、あなたがメイちゃんに未練をのこさないように、という気持ちからではなかったの」

 

ママさんの話によれば、メイちゃんは、新しい飼い主のもとで、それはそれは大切に育てられているということです

「仮称 メイちゃん」は、新しく正式な名前をもらって、今は「アンズちゃん」と呼ばれているそうです

 

「アンズちゃん」になった「仮称 メイちゃん」、今のくらしはどうでしょう

どんなに暮らしがかわっても、放置されて苦しんでいた時にむかえに来てくれたN子さんのやさしさと愛情をわすれてはいないはず

ひょっとして、こんなふうに思っているかもしれませんね・・・

 

「捨て犬だったわたしを抱きしめ、愛情いっぱいに家族としてむかえてくれた、神様のようなN子さん

わたしを受け入れてくれて、ありがとう、ありがとう、ほんとうにありがとう

なのに、わたしのせいで、あなたには色々とつらい思いまでさせてしまったのね

ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい

N子さんに会いたい、会いたい、今でも会いたくてしかたないの

でも、たとえ会えなくても、N子さんがわたしを愛してくれた一週間のご恩はけっして忘れるものではありませんよ!!!」

 

** ラン吉ママの独白 **

この捨て犬の放置事件は、まさに、我が家の目の前でおこったことでした

もし、「アンズちゃん」がN子さんに会う時があったら、きっとメチャメチャ甘えちゃうでしょうね

そんな時には、今の飼い主さん、「アンズちゃん」をゆるしてあげてくださいね

 

このお話はこれでおしまいです

おつきあいくださったみなさま、どうもありがとうございました

犬猫をはじめ、不幸に生きる動物たちが、すこしでも減ることを願ってやみません

 


「仮称 メイちゃんの保護ストーリー 4」 ポチの思い出ものがたり-番外編- 2

2014-05-15 00:16:55 | ポチの思い出ものがたり

「仮称 メイちゃん」は、N子さん家族のもとで、まるでわが孫のようにたっぷりの愛情をうけて、安心して暮らしはじめました

ところが、一週間ほどした時のことです

おしゅうとめさんが、N子さんに言いました

「わたしは90歳をすぎて、命ももうそんなに長くはない

体もあちこちつらいし、天国にいる夫から早くお迎えが来ないかなとおもうこともある

なので、老いて死にむかう犬が目のまえにいるのは、つらくて耐えられない・・・

犬の面倒をみてあげることもできそうにないし・・・

この犬をひきとってうちで飼うのは、やめてもらえないかしら・・・

前のシロちゃんが死んだ時のことも頭にうかんで、はなれないの・・・」

 

このように言われては、家庭内の平和を最優先にしてきたN子さんは、いくらかわいい保護犬のためとはいえ、自分のわがままを貫くことはできません

夫は「メイちゃん」をほんとうの家族としてむかえようと何度も提案しましたが、高齢のおしゅうとめさんの心はかたくなでした

こうなっては、はやく新しい飼い主をみつけて、「メイちゃん」のおうちを確保しなくてはなりません

N子さんは、一日に何回も犬をつれて散歩にでかけては

「この子は、今うちで保護している捨て犬です、どなたか飼ってくださる人はいませんか」

すれちがう人みんなに声をかけて、新しい飼い主さんをさがしました

 

すると、この話をききつけた近所のスナックのママさんが、さっそく新しい飼い主候補さんを紹介してくれました

スナックの常連さんが最近飼い犬を亡くしてさみしくて、新しい飼い犬をほしがっているというのです

ママさんのお店にその人が来ているというので、N子さんはさっそく「メイちゃん」をつれて行くことになりました

が、その時、スナックのママさんはキッパリ

「お店の中には入らないでちょうだい、メイちゃんは預かっていくわね」

と言って、メイちゃんを抱くと、すたすたとお店にはいり、戸をしめようとします

「あの、もしも、その人とうまくいかなかったら、うちでも飼えるので、この子をかえしてください!

キャリーも預かっていますから、いつでも迎えにいきますから!」

N子さんは、スナックの店中にむかって、そう叫ぶのが精いっぱいでした

目のまえでメイちゃんを連れていかれ、お店の戸もしめられてしまい、あまりに急なことで一体なにがおこったのか・・・

N子さんは、心の準備もなく、お別れのキスもできないまま、メイちゃんとひき離されてしまい、ただただ茫然としてしまいました

いくら、あたらしいおうちがメイちゃんに必要だったとはいえ、こんなにも無情な別れがあるでしょうか・・・

 

自宅のまえのアパートから保護して一週間ほど、N子さんはひたすら、メイちゃんに愛情をそそいできました

かつての飼い犬「シロちゃん」にそっくりの子が、突然ふってわいたかのように目のまえに現れたのです

N子さんにとっては、この一週間におこったことが、まるで奇跡のようでした

アパートの廊下に放置され狂ったようにほえていた声が、実は、小さな白犬の悲痛のさけびだったとわかった時・・・

はじめてその犬を抱き上げた時の、甘えた声とぬくもりに流した涙・・・

人なつこく、抱っこをせがむまなざし、その無条件の愛くるしさといったら・・・

N子さんは、短い間でしたが、心のそこからメイちゃんをいつくしんできました

それが、突然メイちゃんが手元からいなくなり、N子さんは夜通し泣きました

 

翌朝、目のはれあがったN子さんをみて、おしゅうとめさんも泣きました

「あなたにつらい思いをさせようとしたわけじゃないのよ・・・

でも、あなたをこんなに悲しませてしまって・・・

ごめんなさいね、ごめんなさい・・・」

N子さんとおしゅうとめさんは、かわす言葉もなく、ひたすら一緒に泣きつづけました

 

N子さんの家から、もう「メイちゃん」はいなくなってしまったのです・・・

 


「仮称 メイちゃんの保護ストーリー 3」 ポチの思い出ものがたり-番外編- 2

2014-05-06 23:54:32 | ポチの思い出ものがたり

N子さんが急いで家にもどると、夫もおしゅうとめさんも、そろって玄関にでて待っていました

ふたりとも、家の前でおこったただならぬでき事を心から心配していたのです

N子さんは、アパートの女性からきいたことと、その犬の愛らしい様子を、ありのままに話しました

N子さんの夫は、かつて大切に育てた「シロちゃん」の面影をなつかしみ、一も二もなく、その犬を引きとることに賛成しました

かくして、そのかわいそうな放置犬は、何ごともなかったかのように、すんなりとN子さん家族のもとで暮らすことになったのです

 

N子さんは、その犬がやってきた季節の五月にちなんで、仮の名前として「メイちゃん」となづけました

「仮称 メイちゃん」は、虐待されて人間不信におちいった犬とはまったくちがう、それはそれは人なつこい子でした

「メイちゃん」は、N子さんがはじめてアパートの部屋で抱きあげた時とおなじように、当りまえのように、だれにでも抱っこをせがむ甘えん坊だったのです

N子さんの家では、夫もおしゅうとめさんも、この犬をかこんで、なごやかな時をすごしていました

 

が、本当の名前ではない、犬に仮の名前をつけたN子さんが思うには・・・

「この犬にも、今までの飼い主がいるのは間違いない」

「もしかしたら、飼い主が犬を返してほしいと言ってくるかもしれない・・・」

「でも、元の飼い主がこの犬を捨てたのだとしたら、そんな飼い主にこの子は返せない」

「でも、ひょっとして、この子がだれかに盗まれでもして、飼い主がさがしているなら、やはり返してあげなきゃいけない」

「いえいえ、まるでシロちゃんの生まれ変わりのようなこの子は、だれにも渡さない、わたしが育てる」

「あー、だめだめ、自分の都合で決めちゃだめ、この子にとっての幸せが一番なんだから・・・」

 

N子さんは様々な思いをいだきながらも、「仮称メイちゃん」をつれて、毎日近所の公園を散歩しました

そして、「この犬を知りませんか、この犬の飼い主を知りませんか」と、すれちがう犬散歩の人みんなに尋ねました

犬散歩のなかまたちはこの犬を写メして、友だちに転送したりして、情報をあつめようとしました

N子さんのしらないうちに、公園の犬なかまの間には、この保護犬の話がまたたくまに広がっていました

 

でも、この犬や飼い主を見たことがあるという人は、ひとりも現れませんでした

「メイちゃん」は、保護当時、首輪はつけていましたが、鑑札など連絡先につながる物はつけていませんでした

また、N子さんは「メイちゃん」を動物病院でみてもらいましたが、その結果、年齢は7歳くらいで、ながいこと手入れされていなかったことがわかりました

「それではやはり、この子は放置虐待された、ふびんな捨て犬ではないか」ということになり、この子にとっての幸せを願って、N子さんは堂々とこの犬を飼う決心をあらたにしたのでした

 

が、そんな時・・・

 


「仮称 メイちゃんの保護ストーリー 2」 ポチの思い出ものがたり-番外編- 2

2014-05-01 12:21:17 | ポチの思い出ものがたり

N子さんがそっと様子をみていると、アパートの奥からおまわりさんがでてきて、無言でパトカーに乗ると、しずかに走りさっていきました

アパートの廊下をのぞくと、犬の乗せられていたキャリーはなくなっています

N子さんは、まる半日もほえていた犬のことが気になってたまりません

普段からそのアパートの人とはおつきあいがありませんが、おもいきって部屋をノックしてみました

中からでてきたのは、若い女性でした

部屋の中には、あのキャリーがおいてあるのが見えます

N子さんはおもいきって、犬のことをたずねました

すると、その女性が言うのには

「わたしはこの犬のことはまったく知らないんです

部屋の前におかれていたのにも、身に覚えはまったくありません

仕事から帰ったらこの犬のキャリーがドアの前にあったので、どうしていいか分からずに110番したんです

この犬の捜索願いか、盗難届けでもでているかと思ったんですけど、そういうものはでていないそうです

かわいそうにね、この子、捨てられちゃったのかもしれない・・・

でも、このまま犬をおまわりさんに手渡せば、保健所におくられて殺されてしまうとおまわりさんに言われまして、そんなひどいことはできませんでした

実家では犬を飼っていて、わたしも犬は好きなのですが、このアパートはペット禁止なので私には飼えません

今晩一晩はわたしが保護することで、おまわりさんには引きとってもらいましたけど、だれかかわいがってくれる人はいないかしら」

 

N子さんが部屋のなかをみると、「シロちゃん」にそっくりな犬は、部屋の中からこちらの様子をうかがっています

狭いキャリーから解放されて部屋にいれてもらったその犬は、大声で狂ったようにほえていた時とはちがって、愛らしいまなざしでN子さんをみつめました

N子さんが、いとおしさから思わず「おいで」と呼ぶと、その犬は、差しだしたN子さんの手の中にとびこんできました

そしてN子さんが腕のなかにだきあげると、その子はクーンとはなをならして、N子さんにあまえてきたのです

N子さんは、あの「シロちゃん」が天国から帰ってきたと確信し、涙があふれてとまりません

「この子をひきとって育てるのは自分以外にはいない」と心にかたく誓いました

「あすの朝、この子を迎えにきます」と話して、アパートの女性とおたがいの電話番号をかわし、警察にもそのように連絡しておいてもらうことにしました

家族のだれにも相談しないで、N子さんはその犬を引きとる約束をしてしまいましたが・・・

 


「仮称 メイちゃんの保護ストーリー 1」 ポチの思い出ものがたり-番外編- 2

2014-04-29 22:48:25 | ポチの思い出ものがたり

N子さんは、犬がだいすき

N子さんは、夫とこども達、おしゅうとめさんと郊外の住宅で暮らしながら、白くてちいさな犬を「シロちゃん」となづけ、それはそれは大切に育てていました

家族みんなで「シロちゃん」をかわいがり、こども達もすくすくとおおきくなっていきました

やがてこども達は独立し、夫とおしゅうとめさんとの三人暮らしになりました

大切に育てていた「シロちゃん」も、年をとって亡くなりました

N子さんははなれて暮らすこども達をおもい、亡くなった「シロちゃん」をしのんでは、人知れず枕をぬらす夜もありました

 

歳月がたって、N子さんは「シロちゃん」のことを思い出すことも、だんだん少なくなりました

それでも、近所でかわれている犬を見かけると、おもわず近づいて声をかけてかわいがり、「シロちゃん」を思い出しては、また涙をおとすのでした

 

そんなある日の朝、N子さんは家の外から聞きなれない犬のほえ声がつづいているのに気づきました

近所の犬の声でもないし、ほえ方がおとなしくなったかと思うと、また急にはげしくほえたりします

なにか尋常ならざる気配に、N子さんは、そのほえる声の主を確かめようと玄関から外へでました

すると、その声は、なんとN子さんの家の目の前のアパートから聞こえてくるではありませんか

近づいて目をこらして奥をのぞくと、アパートの廊下には、犬用のキャリーがおかれてあり、ほえる声はそこから聞こえてきます

こんなところに犬を放置するなんてひどいと、N子さんの胸はしめつけられる思いです

はやく飼い主に帰ってきてほしいと念じながらも、よその犬には何もできず、N子さんは家にもどるしかありませんでした

 

が、昼をすぎても、夕方になっても夜になっても、飼い主は帰ってくるどころか、犬のほえる声はますます大きくなり、狂ったようにほえつづけています

そのほえ声は、あまりにすさまじく、人の手にあまる凶暴犬かもしれないと思うほどでしたが・・・

N子さんは、どうにもいたたまれずに、とうとうそのアパートの廊下にはいって行き、おそるおそるキャリーのふたをあけてその中をのぞきこみました

すると、あんなに大声で、まる半日もヒステリックにほえつづけていた犬は・・・

見れば、数キロほどの、かわいい小さな白犬だったのです

あっ、この子はあの「シロちゃん」にそっくり、とN子さんは目をみはりました

こんな狭いキャリーにとじこめられて、犬は身動きもできず、水も食べ物もなくトイレもできない・・・

「ああ、あのシロちゃんが、こんなかなしい姿で戻ってきた・・・」

N子さんはあまりにかわいそうな犬を目のあたりにして、こみ上げるものをこらえきれません・・・

とはいえ、他人さまの部屋の前にいる犬を勝手にどうすることもできません

 

N子さんは泣く泣く自分の家にもどると、しばらくして、その犬は、はたとほえなくなりました

N子さんはようやく少しほっとしましたが、どうにも気になって玄関からのぞいてみると、アパートの前には、なんとパトカーがとまっています

いったい何があったのでしょう・・・

 


「トチの思い出ものがたり 後編」 ポチの思い出ものがたりの番外編

2013-04-11 12:51:31 | ポチの思い出ものがたり

お父さんは、「トチ」をゆずった箱根の知人に電話をかけました

「実は、トチなんだが、今うちに来ている・・・

ああ大丈夫、元気だよ・・・ やせてるが、飯も食ったし、落ちついてるよ・・・

ところで、もし、トチを飼うのが大変なら、こちらでまた、引きとることができないわけじゃないが・・・

ああ、そうだな、わかったよ・・・ じゃあ、待ってるからな・・・

それまではこちらで面倒みるから、心配しなくていいから」

                    

K坊やは、トチは箱根がきらいで逃げてきたんじゃないかと心配でしたが、お父さんいわく

「箱根のうちでも、トチが無事にこっちに来ていることがわかって、本当に喜んで、ほっとしていた

家族みんなでかわいがって育ててきたのに、突然いなくなって、奥さんはショックで寝こんでしまったそうだ

2年も暮らせば情がうつって、トチのいない暮らしは考えられないから、是非かえしてほしいと言っている」

「でも、いなくなっても、ほうっておいたから、こんなにガリガリになって、うちまで来ちゃったんじゃないか」

「そうじゃないぞ。トチのチラシをつくってまいたり、人を何人もたのんで毎日さがしていたそうだ

それに、警察や保健所や猟友会にもすぐに連絡して、なにかあったら教えてくれるように頼んでいたらしい」

「保健所?猟友会?それってなあに?警察なら迷子だからわかるけど・・・」

「もしトチがノラ犬や野犬にまちがえられれば、狂犬病だといけないからって保健所がつかまえて、殺してしまったかもしれないんだ

山で狩りをする人たちも、もしかしたらトチを獲物とまちがえて、撃って殺してしまったかもしれない

それに、警察だって迷子の世話だけってわけじゃないんだ

車にひかれて交通事故にあう動物だって、たくさんいるからね」

「そんなあぶない目にあうかもしれないのに、わざわざここまで来たなんて・・・」

「保健所も猟友会も、車の事故も、みんなヒトの勝手だ。動物には、まったくめいわくな話だ

とにかく、トチを逃がしてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだったと言っていたよ

箱根からむかえが来るまでの間、トチを休ませて栄養をつけさせないといけないな」

この夜、はじめてK坊やは「トチ」とならんで、家のなかで寝ました

この時だけは、犬といっしょに寝ても、お父さんはとがめたりしませんでした

                    

翌日から、前にもまして、K坊やは「トチ」をかわいがりました

お父さんとお母さんは、仲良しどうしをひき離すのをかわいそうに思いながらも、「トチ」を箱根にかえすと決めていました

「K坊、トチはもう、うちの子じゃなくなっているのよ」

「今度の日曜日、箱根のおじちゃんがトチをむかえにくるから、そのつもりでいろよ」

                    

日曜日、箱根のおじちゃんが「トチ」をむかえにやって来ました

「このたびは誠に申し訳なかった、今後このようなことのないように十分に気をつけるよ」とあやまりました

そして、おじちゃんが「タロー」とよぶと、「トチ」はしっぽをブンブンふって突進していきます

おむかえに来てもらったことがわかるのか、大喜びではしゃいで甘えています

K坊やは、その時の「トチ」の姿をみて、はっきりとわかりました

「トチは、もう、うちのトチじゃないんだ。箱根のタローなんだ・・・」

                    

箱根のおじちゃんは、箱根でとった「トチ」の写真を見せてくれました

写真には、犬専用のひろい裏庭で、穴掘りしたり走りまわったりしている「トチ」がうつっていました

箱根の山歩きにつれて行ってもらっている写真もありました

K坊やは思いました

(トチはおじちゃんと家族のみんなに大切にされて、楽しく暮らしているんだな

おおきなトチにとっては、自由に歩くこともできない町中より、箱根にいるほうが幸せかもしれない・・・

そうだ、僕もトチを大切にしよう、僕がトチを幸せにしてやろう)

                    

夕方になり、いよいよ「トチ」をつれてかえる時になりました

「トチ」は、軽トラックの荷台の檻に乗せられました

K坊やは、荷台に乗った「トチ」にむかって叫びました

「トチ、お前、もう二度とここにはかえって来るな~

かえって来ようとすれば、途中の道は危険だらけで、いつ死んでしまってもおかしくない!

だったら、もうかえって来るな~!

箱根で元気に生きていろ~!

会えなくてもいいから、元気でいろ~!

みんなにかわいがってもらって、幸せに、元気で、生きていろ~~」

                    

軽トラが動き出すと、荷台に乗った「トチ」が声をあげました

「ウォーン、ウォーン」と、まるで、K坊やの叫びに応えているようです

「トチ~、かえって来るな~!」

「ウォーン、ウォーン」

「トチ~、箱根で元気に暮らせよ~!」

「ウォーン、ウォーン」

お母さんは「トチが悲しんで泣いているわ」と涙をこらえています

が、お父さんは「なに、車に乗ってすこし興奮して吠えているだけだ」と平静をよそおいました

「トチ」を乗せた軽トラが、町の角をまがると、やがて「トチ」の声も遠ざかっていきました

こうして、K坊やと「トチ」は、お別れしました

その後、K坊やと「トチ」は二度と再び、会うことはありませんでした

「トチ」はK坊やに会いたい気持ちをおさえて、K坊やの言いつけを守りつづけたのでした

                    

その後、箱根からは、毎年決まった時期に「トチ」の元気そうな写真が送られてきました

そして、年月がたつにつれて「トチ」が老いていく姿が写真からもわかるようになりました

ある年突然に、「トチ」が亡くなったという知らせといっしょに、生前の「トチ」の写真が送られてきました

それを最後に、箱根から写真が送られてくることはなくなりました

                    

K坊やのお父さんは、無類の犬好きでしたので、「トチ」のあとにもいろいろな犬を飼いました

親戚にも犬を飼っている人がおおく、すっかり中年になったKさんは、今までに何十頭という犬に接してきました

どの犬もみんなおとなしく人なつこい子ばかりなので、Kさんも他の人たちとおなじようにかわいがろうとしますが、どの子も、けっしてKさんにはなつきません

それどころか、Kさんにはうなったり、時にはかんだりする子もいました

 

もしかしたら、この世でK坊やと遊びたりなかった「トチ」が、天国でやきもちをやいて、Kさんと他の犬が仲よくならないように、おまじないをかけているのかもしれませんね

 

<おしまい>

 

トチの思い出ものがたり 前編はこちらから → 前編

トチの思い出ものがたり 中編はこちらから → 中編

 

 


「トチの思い出ものがたり 中編」 ポチの思い出ものがたりの番外編

2013-04-09 12:36:14 | ポチの思い出ものがたり

そうざい屋の店主は、声をふるわせながら、K坊やに言いました

「おい、K坊、あれ、お前んちにいた犬じゃないか、ちょっと呼んでみろ」

K坊やは、なにを言われているのか、ピンときません

「ほら、でかい犬がいたろ、なんていったかな、えーと、ほら、トチとかいってたろ」

K坊やは「トチ」という名前をきき、あらためておおきな犬をみて、一瞬のうちに記憶がよみがえりました

でも、目の前にいる犬はあまりにもガリガリで汚れていて、それが「トチ」だとはにわかに信じられません

ましてや、K坊やの住んでいる町と箱根とは、同じ神奈川県内でも、100キロも離れていると聞かされていました

K坊やは、半信半疑でおそるおそる近づいていきます

「おいお前、トチなのか?おいお前、トチか?トチ?トチ?」

その犬は呼びかけられると、なんと、しっぽをブンブンとふりながらK坊やにかけよってくるではありませんか

そして、K坊やに飛びついて、クンクンと体をすりよせてきます

K坊やの顔といわず首といわず頭といわず、ペロペロ、ペロペロとなめまくります

「わぁ~!トチだぁ~!トチ~!トチ~~!!」

K坊やは、大声で泣きながら「トチ」を抱きしめ、全身をバチバチとたたきまくります

「トチ、こんなにガリガリにやせちゃって、こんなにボロボロによごれちゃって~

どうしちゃったんだよ~、トチ、トチ~」

                    

そうざい屋の店主は、K坊やの家や近所の店にむかって、おおきな声で人をよびました

「おーい、K坊んとこの犬が帰ってきたぞ~!みんな来てみろ!トチだ~、トチだぞ~!」

騒ぎを聞きつけて、近所から大勢の人たちが集まってきました

K坊やの家からも、お母さんが出てきました

「トチ」はお母さんに気づくと、まるで狂ったように、お母さんに突進してじゃれつきます

お母さんは、あまりにはげしく「トチ」がよろこび動くので、ハグすることもできないくらい

2年まえにK坊やからひき離されたあの「トチ」が、遠くから自分だけでかえって来たことは、だれの目にも明らかでした

                    

「トチ」をやっかい者あつかいにした人たちも、「トチ」が遠くからかえって来たことを知りました

「この犬、箱根から戻って来たらしいよ、2年もたってからだってさ・・・」

「忠犬ハチ公とおなじ、秋田犬だってね・・・」

「よほど、K坊が好きだったんでしょうよ・・・」

K坊やのお母さんは、涙でグショグショになりながら、泥だらけの「トチ」に頬ずりしています

「トチ」がK坊やとお母さんに再会した姿を目のあたりにして、もらい泣きしている人もいました

                     

親しいご近所さんが近づいてきて、そっとお母さんの肩にふれて言いました

「奥さん、トチを家のなかに入れてあげなよ。このままずっと外においとくこともできないでしょう、犬小屋もないことだし」

お母さんは、はっと我に返りました

「ああ、ありがとね。ほんと、そうだわね」

そして、集まっていた人たちに頭をさげて言いました

「みなさん、ご迷惑をおかけしています・・・

トチなんですけど、こんなふうに、ここにかえって来てしまって・・・

ご覧のとおり、とても弱っているので、このまま放っていくわけにもいきません・・・

ほんとは、ここにいちゃいけない子なんだけど・・・

すいません、ゆるしてやって・・・、トチのこと・・・」

周囲にあつまっていた人たちは、なにも言わずに、去っていきました

                     

2年ぶりにかえって来た「トチ」は、泥まみれでガリガリで、あまりにもみすぼらしい姿でした

犬小屋はすでに取りこわされているので、「トチ」を家にいれてやらざるを得ません

外につないでおいて、また脱走でもされたら、それこそ一大事です

きれい好きのお母さんは、汚れた「トチ」の体を雑巾でふき始めました

K坊やは、そんなお母さんがもどかしくてたまりません

「母さん、そんなことより、はやく何か食べさせてやってよ」

「ああ、そうだわね。まず、お水を飲ませなきゃね」

お母さんがハチミツを少しとかした水を「トチ」の鼻先におくと、「トチ」は待ってましたとばかりに、ペチャペチャとおおきな音をたてて飲みました。

「何かご飯もつくってあげなくちゃね」

                     

「トチ」はお母さんからはおじやを作ってもらい、K坊やからは給食ののこりのパンをもらいました

一口ずつもらってパンを食べ、だんだん「トチ」のお腹もふくれてきました

そして、最後の一口を食べ終わると、K坊やの手についたジャムをきれいになめて、ゆっくりふせをしました

K坊やが「トチ」の背中をしずかにさすってやると、「トチ」はその場にゴロンとよこになり、やがてウトウトし始めました

ガリガリにやせて、肋骨のうきでた胴の腹がふくれて、おおきく息をしながら全身が波うつようです

やっとここにたどり着いてK坊やたちに会い、やさしく受けいれられ食べ物をもらって、心から安心したのでしょう

そんな「トチ」をみて、K坊やの胸ははりさけそうでした

                     

「僕はトチのことを忘れていた。でも、トチはしっかり、うちの場所まで覚えていた

そしてとおい所から、ひとりで歩いてここにかえって来たんだ

道を人にたずねることもできず、ましてや地図をよむこともできないのに・・・

僕や母さん父さんに会いたくて、ひたすら知らない道をかえって来た・・・」

K坊やは、そんな「トチ」がいとおしくてかわいくて、けなげに思えてならないのでした

畳のうえは泥だけになっていましたが、そのまま寝かせておくことにしました

                     

K坊やのお母さんは、お父さんの職場に電話をかけました

「トチがかえって来てしまったのよ・・・仕方ないから家にいれてるわ

今はご飯食べてねむってるけど、ガリガリにやせてる・・・

箱根で何があったかわからないけど、面倒みてやらないと・・・」

「トチ」のことを聞いて、お父さんはいつもより早く仕事からかえってきました

「トチ」はお父さんに気づいて目がさめると、ガバッと飛びおき、やはりしっぽを大きくふってかけより、じゃれつきました

お父さんは、うれしくてはしゃぐ「トチ」に、飛びつかれるまま、立ちすくしていました

そして「トチ」がはしゃぎ終わるとそっと「トチ」をハグして、「トチ、よく無事で生きてかえってきたな」とささやきました

                     

「トチ」のことをすっかり思いだしたK坊やは、

「ねえ父さん、トチはやっぱりここが好きだったんだよね?

だから戻ってきたんだよね?トチはやっぱりここで暮らすほうがいいんじゃないの?」と聞いてみました

「K坊、トチがもどって来たのは、箱根よりもここが好きだとはかぎらないんだよ

犬はね、前にいた場所にもどる習性があるんだ

何かのきっかけで、こんなことになったけど、まず箱根のようすも聞いてみないといけないな」

お父さんは、「トチ」をゆずった箱根の知人に電話しました

<後編につづく>

トチの思い出ものがたり 前編はこちらから → 前編

トチの思い出ものがたり 後編はこちらから → 後編

 


「トチの思い出ものがたり 前編」 ポチの思い出ものがたりの番外編

2013-04-04 12:48:29 | ポチの思い出ものがたり

Kさんの子どものころのおもいで話 「トチの思い出ものがたり」

主人公は、K坊やです

                    

昭和40年代頃のお話です

商店街の一角、K坊やの家には、おおきな秋田犬がいました

その名も「トチ」といい、K坊やとはいつもラブラブ、大の仲よしでした

K坊やのお父さんは犬が大好き

なので、K坊やの家には、いつも犬がいました

K坊やが小学校にあがる前に飼われていたのが、この「トチ」でした

                    

K坊やが幼稚園からかえって真っ先にむかうのは、秋田犬「トチ」の小屋

庭におかれたおおきな犬小屋にはいり、K坊やと「トチ」はハグしてじゃれ合います

「トチ」は、立派でおおきくて、そして、おだやかでお利口な秋田犬

おもさは40キロもあろうかという「トチ」なので、背たけもあります

そんな「トチ」の背中にまたがって、K坊やは「トチ」のおしりをバチバチとたたきます

でも「トチ」は嫌がるどころか喜んで、K坊やを背中にのせて歩きまわります

遊びつかれたK坊やが犬小屋のなかでうたた寝すれば、「トチ」も寄りそって寝そべります

そんなK坊やと「トチ」をみて、お父さんは「こまったものだ、犬なんかと寝て・・・」とつぶやいていました

                    

ある日のこと、K坊やは、幼稚園から帰ろうとしてわが目をうたがいました

幼稚園の門のところに、なんと、あの「トチ」が自分を待っているのです

これは、家の犬小屋からぬけ出してきたにちがいない!

―― K坊やの予感はあたっていました

「トチ」は、その後も、たびたび幼稚園にK坊やを迎えに来るようになりました

犬小屋のかべをやぶり、鍵をこわし、手綱をくいちぎって、犬小屋をぬけ出し、K坊やに会いに幼稚園へ行くのです

「トチ」は大好きなK坊やが家にかえってくるのが、待ちきれなかったのでした

                     

でも、「トチ」がK坊やのかよう幼稚園に行くには、駅前につづく商店街を通らなければなりません

商店街のうらには、住宅街がひろがっています

そんな中を、おおきな秋田犬が闊歩していきます、しかも、飼い主なしに・・・

商店街のひとも、住宅街のひとも、そんな「トチ」にまゆをひそめました

「こんな大きな犬が、人通りのおおい道を勝手にあるくなんて、こわくてたまらない」

「犬が幼稚園や店や家のまわりをうろつくなんて、絶対にやめてほしい」

「子どもや家族が、この犬にかまれたりしたら、一体どうしてくれるんだ」

                    

「トチ」はだれのこともかんだり吠えたりしなかったのに、周囲からは白い目でみられました

当時は、飼い犬といえば、雑種のちいさな犬が主流だった時代

血統書つきの大型犬は、ちょっと目だった存在でした

「トチ」は、犬小屋や綱をがんじょうにしても、なんども小屋をぬけてしまいました

そして、とうとう幼稚園の保護者会でも「トチ」のことが問題になりました

「子どもたちの安全と、犬と、どちらが大事なんだ」

「おおきな体で、体力をもてあますから、逃げだすんじゃないか」

「おおきな犬には、町中でなく、ひろい土地のある田舎ぐらしがにあうだろう」

と話がすすみ、おおきな秋田犬「トチ」に、まるで町から出ていけといわんばかり

商店街の人たちからの苦情もふえて、K坊やのお父さんは「トチ」を手ばなすことを決めました

箱根にすんでいる知人が「トチ」をもらいうけ、大切に育てると約束してくれました

                    

K坊やは、その話をきくとショックのあまり大声で泣きわめきました

「トチがいったいどんなわるいことをしたっていうの?」

「トチは何もわるいことなんてしてやしない。ただ、町中では飼えないんだよ」

「どうして箱根の人んちになんかあげちゃうんだ?もういっしょに遊べなくなっちゃうじゃないか!」

「そうだよ、もういっしょには遊べない。でもトチはひろい場所でおもいきり遊べるよ、そのほうがしあわせなんだからね」

「でも、トチと遊べないなんていやだ、ぼくはちっとも楽しくないよ!」

「 自分さえ楽しければ、トチやほかの人がしあわせでなくてもいいのかね?」

K坊やは、しぶしぶ納得せざるをえませんでした

                    

数日後、K坊やが幼稚園から家にかえると、もう犬小屋に「トチ」の姿はありませんでした

K坊やがだれもいない犬小屋にはいると、かすかに「トチ」のにおいがしました

K坊やは「トチ」が大好き、「トチ」もまた、K坊やが大好き

大好きな者どおし、ただ、たのしくいっしょに遊びたかっただけなのに・・・

そんな一途な思いが、ぎゃくに、大好きな者どおしを離ればなれにしてしまいました

しばらくして犬小屋が取りこわされると、「トチ」のおもかげはどんどん遠のいていきました

                    

時がたち、K坊やは幼稚園から小学校にあがりました

小学生になったK坊やは、毎日の生活がワクワクの連続です

勉強はたいくつでしたが、放課後ともだちと自由に遊べるのは、なによりおもしろく楽しかったのです

あんなに大好きだった秋田犬の「トチ」でしたが、思いだすこともなくなっていました

                    

そして、「トチ」がいなくなって2年がすぎたある日、K坊やが学校から家にかえってきた時のこと

家が近づくにつれて、玄関のまえにおおきな犬が一匹、立ちすくんでいるのがみえました

その犬はからだがよごれて泥だらけ、しかも、ガリガリにやせています

「あんなおおきなノラ犬がいたんじゃ、こわくて家に入れやしない」

K坊やは、近所のお店にむかって声をかけました

「おじさん、ちょっと来てよ。こわい犬がいてさ、ぼく家に入れないんだよ」

そうざい屋の店主が出てきました

そして、その犬を見るなり、がたがたと震えだしました

「おい、K坊、あれは、あの犬は・・・」と、その声も震えています

 < 中編につづく >

 「トチの思い出ものがたり」 中編はこちら → 中編

 


ポチの思い出ものがたり 25

2013-04-02 12:44:14 | ポチの思い出ものがたり

かつて少年だったSは、今の飼い犬たちの幸せそうな暮らしぶりをみるにつけ、昔の二匹のポチが不憫でなりません

戦争が終わってもヒトさえ満足に食べられなかった時代、ノラ犬たちは、毎日生きのびるのに必死でした

そまつな残飯でももらえれば、その家の縁の下にもぐりこんで、次の残飯がもらえるのを待ちました

そして、少しでもかわいがってもらえれば、まるでその家の子になったように甘えます

半ノラの初代ポチは、まさにそんなイヌでした・・・

* * * *

ヒトに飼われていたものか、ヒトから逃げてきたものか、

はたまた、ヒトにすてられたのか、氏も素性もわからない

いったい全体、どうやって、生きてきたのか生きのびたのか、

だあれも知らない、名無しイヌ

* * * *

放し飼いだった初代ポチは、S少年のお父さんが朝、お勤め先の工場に自転車でいくのにならんで走っていったばかりでなく、夕方には、工場の門の前までお迎えにもいきました

また、家族みんなが銭湯にいくのにくっついて歩き、一家が風呂からでてくるまで、銭湯の前でじっと待っていました

そんな初代ポチでしたが、ある日忽然とすがたを消し、二度と戻ってくることはありませんでした

 

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かたや2代目ポチは、知り合いからもらい受け、予防注射も登録もされた、れっきとした飼い犬でした

庭に犬小屋もつくってもらい、毎日こどもたちと楽しく遊んでいました

家からはなれて冒険などできない、臆病な性格でした

そんな2代目ポチでしたが、ある日なんの前触れもなく急変し、あっけなく亡くなりました

 

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すっかりオジサン&オバサンになったS少年&姉たちのこころの中には、こどもの頃二匹のポチにかけたたくさんの愛情と、たのしい思い出が残っています

姉たちもやがて結婚し、それぞれ家庭を築きましたが、ハスキーを19才まで育てたり、聴導犬さながらのシーズーとくらしたりしてきました

 

そして今、Sオジサンは、ちょっぴりビビリな犬、シェルティーのラン吉とくらしています

「ラン吉、お前、ひょっとして、ポチの生まれ変わりか?

臆病なところ、ポチとそっくりだものなあ・・・

それにしても、今のわんちゃん達は、みんな幸せだよなあ・・・

毎日おいしい物をいろいろともらって、体もきれいにしてもらって・・・

昔の犬たちは、今からおもえば本当にかわいそうだったよ・・・」

そんな言葉が、ついつい口をついてでてきました

 

ラン吉ママ(Sオジサンのつれあい)が、それを聞きとって物語にしました

多少の食いちがい等は、ご容赦おねがいいたします

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* * 最後に、ラン吉ママより * *

 

現代でも、けしてしあわせとはいえないペットがいます

遺棄、虐待、悪徳なブリーダー、多頭飼い崩壊, etc...

ペットが健康でしあわせに生きる権利をふみにじる、残酷で気の毒な話はあとをたちません

 

ペットと飼い主との関係は、この世にひとつしかない絆のはず

ペットは家族、、ヒトのわが子とおなじです 

親がわが子に願うのは、健やかにしあわせに生きてほしい、ただそれだけ

ましてや、自分より先に亡くなるわがペットであれば、一緒に生きていられる間に、惜しみなく、ただ愛情をそそぐだけ

 

「なにも特別なことなんて、できなくっていいからね・・・

一緒にいられるだけでしあわせだから、見かえりなんていらないよ

ただ、一日でも長く元気でいて、見あげて尻尾をふってくれるだけでいいんだよ」

 

ヒトもペットも愛し愛され、今を大切によりしあわせに、みんなが生きていかれますように・・・

 

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ながい連載となりました「ポチの思い出ものがたり」でしたが、最後までお読みくださったみなさまには心よりお礼申しあげます。

どうもありがとうございました。

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次回は、番外編「トチの思い出ものがたり」です

Kさんが子どもの頃に飼っていた秋田犬「トチ」の思い出話をご紹介します

ペットの数だけ、思い出ものがたりがありますね

(番外編があるのは、連載もののお約束・・・

どうか、おつき合いいただきますよう・・・)

 


ポチの思い出ものがたり 24

2012-12-17 12:50:40 | ポチの思い出ものがたり

ポチをとむらってくれたお寺の住職の話に、S少年と姉たちは心が落ちつきました

でも、家に帰ってくれば、主のいない犬小屋が、ぽつんと庭におかれています

ポチがいない庭は、ただガランとした、活気のない空間になりました

 

子どもたちは、ポチの顔を見るのが、朝いちばんの日課でした

でも今は、小屋をのぞいても、もうポチはいません

ご飯の時間になれば、ついつい、ポチ用の茶わんに手がのびます

みそ汁のだしの煮干しをポチにわけてあげるのも、朝夕の日課でした

でも今は、煮干しを待っているポチは、もうこの世にはいないのです

 

S少年は、学校の授業中でも、なぜか急にポチの姿が頭にうかびます

そんな時は、泣きそうになるのをごまかすのに、せきやくしゃみを連発しました

机に落書きしていたポチの絵は、砂消しゴムで消しました

給食のパンのかけらを、ポチのおやつに持ちかえるのもやめました

放課後に友だちとあそぶ約束は、わざと家から遠い場所にしました

ポチのことは忘れない

でも、ポチが亡くなったことは、思いだしたくなかったのです

かわいかったポチが、この世からいなくなってしまった・・・

もっと一緒にいたかった、もっと一緒に遊びたかった・・・

もっともっと、かわいがって、甘えさせてやりたかった・・・

夜になると、姉たちは、布団の中でしくしくとよく泣きました

姉が寝言でポチの名前をよぶのが、寝ていたS少年の耳にも聞こえます

S少年は気づかないふりをしながらも、かわいそうでなりません

亡くなったポチも、そして、その愛するポチを夢にさけぶ姉のことも・・

 

しばらくして、S少年のお父さんは、庭にあった犬小屋をとりこわしました

S少年のお母さんや姉たちは、だまってそれを見ていました

庭に犬小屋がなくなってしまうと、ふしぎと、ポチも遠くに感じられました

犬小屋をとりさった場所に、草木をうえると、ポチはますます遠くに感じられました

あんなにかわいがって、あんなに楽しく、毎日いっしょに遊んでいたのに・・・

どんどんポチが、遠くへはなれて行く・・・

そう思うと、逆にますます、ポチがいとおしくてたまりません

 

S少年は、おもわず「ポチに会いたいなあ」とつぶやきました

すると、姉が「ポチも会いたがって、待ってるわよ」と言います

「えっ、ポチが待ってる?どこで?」

「犬たちは、天国の前で、会いたい人が来るのを待ってるそうよ」

「ポチが会いたい人って、ぼくたちのこと?」

「当りまえよ。ほかにだれがいるって言うの?」

「じゃあ、一匹目のポチも、待ってるかな?」

「当りまえよ。待ってるにきまってるでしょ」

「そうか、二匹のポチが待っててくれるのかあ・・」

 

二匹のポチは、ほんとうに自分たちを待っているのか?

天国の前っていうのは、馬頭観音様と、なにか関係あるのか?

S少年のあたまのなかは、混沌として、わけがわかりません

でも、S少年は、いつかポチに再会できるような気がしました

いつどこで再会できるかまでは、わかりませんでしたけれど・・・

 

時はすぎて、平成20年代

かつては少年だったSも、りっぱなオジサンになりました

こども時代に飼っていたポチを思いだしては、語り草にしていました

 

そして、縁あって、今

2代目のポチとおなじような、ちょっぴり臆病な犬とくらしています

「ラン吉、お前、ポチの生まれ変わりか?」などと話しかけながら・・・

 

つづく

 

 


ポチの思い出ものがたり 23

2012-12-12 23:49:06 | ポチの思い出ものがたり

2代目ポチは、生まれた家の近くのお寺のうら山に眠ることになりました

いざお別れとなると、S少年たちの顔は、なみだと鼻水でグショグショです

 

そんな子どもたちをみて、お寺の住職は言いました

「なあ、子どもたち、そんなに悲しむんじゃないよ

ポチがいなくなって、さびしいのは仕方ない

だが、そんなに泣いていては、馬頭観音様に笑われるぞ」

「えっ、馬頭観音様?」

「そうだよ、馬頭観音様というのがいらっしゃるんだ

そして、すべての動物を供養してくれるんだよ」

「供養って・・・」

亡くなった動物をずっと大切にしてくれるんだよ」

「死んじゃったのに?」

「死んだからといって、そまつにしてはかわいそうではないか」

「死んじゃったってポチは大切だ、ポチのことは忘れない!」

「そう、ポチを忘れないで、ずっと大切に思いつづけておやり」

「それが、ポチの供養になるの?」

「そうだよ、供養されれば、ポチはうれしいんだよ」

「わかった。ポチがうれしいように、ずっと忘れないでいるよ!」

「たとえ、いつか覚えている人がいなくなってしまっても、大丈夫

馬頭観音様は、ちゃんとみんなを供養してくれるからね」

「ずっと前に死んじゃった動物でも、大丈夫なの?」

「そうだよ。死んでしまえば、もう時間は関係ない

だから、ポチのことは、なにも心配しなくていいよ」

 

S少年たちは、住職になぐさめられて、落ちつきました

帰りみちには、こんなことを話していました

「馬頭観音様って、いい人なんだね」

「そうだね、きっと動物が大好きなんだね」

「ポチのことも大切にしてくれるよね」

「きっと、毎日おいしいご馳走をくれてるよ」

「からだも元気になおしてくれてるよ、絶対に」

 

「馬頭観音様、一匹目のポチは知ってるかなあ」

「もちろん知ってるだろうよ、ちゃんと大事にしてくれてるよ」

「ポチ、もしかしたら、一匹目のポチと会ってるかも・・」

「そうだね、一緒にあそんでいるかもしれないね」

「なんだか、楽しそうね、ふふふ・・・」

 

つづく

 


ポチの思い出ものがたり 22

2012-12-10 12:49:25 | ポチの思い出ものがたり

* * 前回までのお話 * *

昭和30年代、S少年の家で飼われていた2代目のポチ

家族みんなから愛され、毎日たのしく暮らしていました

ところが・・・

----------------

 

ポチは、ある日、あまりにもあっけなく、亡くなってしまいました

 

その夜、子どもたちが泣き寝入りした後のこと

ふすま越しに、お父さんとお母さんの話し声がきこえてきます

「ポチ、本当に急なことだったわ・・・」

「そうだな・・・ だが、こういう時は必ず来るもんだ」

「分かってはいたつもり、でも、もっと先かと思ってたわ」

「命あるものが亡くなるのは、さけられないことだ」

「そうですね・・・」

「でも、一体どうしてしまったのかな」

「ヒトの子でも、しょっちゅう病気にかかるんですもの、犬も同じかもしれないわ」

「そうだな・・・ ヒトの子と同じように病院へ行くことなんてないしな」

 

「ひょっとして、ねずみ退治用のだんごでも食べちゃったのかしら」

「そうだな・・・ ないこととは言えないな」

「自由にあちこち行っていたから、よそで何かあったのかもしれないわ」

「そうだな・・・ ないこととは言えないな」

「うわさでは、パチンコや吹き矢で犬猫にいたずらする子もいるらしいわ」

「なんて、むごい!ひどい話だ!」

 

「お隣りの犬は、病気がおもくなったら姿をけしてしまったらしいな」

「そうらしいわ、そんなこともあるのね・・・」

「みつかった時には、草原のかげで亡くなっていたそうだ」

「死期をさとって、おいとましたってことなのね・・・」

「ポチは、よく家にあがってきたもんだな」

「助けを求めてかしら、私にすり寄ってきたわ」

「ヒトを信頼して、ヒトに頼りたかったんだな」

「そうだったと思うわ・・・私の腕の中で安心して逝きました」

 

 

「ところで、ポチをどうしましょうか」

「明日にでも、ポチをくれた人のうちにつれて行こう」

「えっ、どうしてそんなこと?」

「ポチをもらう時に言われたんだ、こうなった時にはつれて来るように」

「そうなんですか?でも、どうして?」

「近所のお寺にお願いしてくれるそうだ」

「えっ、犬のお墓があるの!」

「お墓じゃないが、犬好きのご住職がねんごろに供養してくれるらしい」

「そんなご住職さまがいらっしゃるのですか?」

「近所のお寺のご住職が、厚意でしてくれるらしい」

「・・・・」

 お母さんは、葬られるポチが不憫で、あふれる涙がとまりません

「いくらお寺とはいえ、知らない所で一人きりになって・・・」

 

お父さんは、そんなお母さんの肩をだいて言いました

「大丈夫だよ、心配しなくて大丈夫

我々はみんなで心からポチをかわいがってきたんだ

たいしたうまい物はやれなかったが、ひもじい思いはさせなかったぞ

それに、毎日子どもたちと楽しそうに遊んでいたじゃないか

我々にもよくなついて、本当にかわいいやつだったよ

うちで食べて寝て遊んで、ポチはここが大好きだった

ポチも、我々も、お互いに大好きだったんだよ

ポチだって、うちにもらわれて来て幸せだっただろうよ

それで充分じゃないか、長いみじかいなんて関係ないよ

ポチがどこで眠っていても、わすれずに大事に思ってやろう

我々も、ポチと暮らせて、幸せだったよなあ」

 

つづく

 


ポチの思い出ものがたり 再開のおしらせ

2012-12-07 12:52:51 | ポチの思い出ものがたり

* * ポチの思い出ものがたり 再開のおしらせ * *

ラン吉パパがこどもの時に飼っていた、初代のポチと2代目ポチの思い出ものがたり

21までつづってきましたが、悲しいお別れに筆が進まず、しばし休んでおりました

が、2012年もあますところわずかとなりまして・・・

このように中断したままでは、一年のくぎりがつきません・・・

 

なので、「ポチの思い出ものがたり」を再開いたします!

かつ、年内に完結をめざします! 

(あくまでも、めざす、めざすだけです・・・)

 

読者のみなさま、いつもお読みくださり、ありがとうございます

 

前のお話21はこちらから → ポチの思い出ものがたり 21

 


中断しております ・・・ ポチの思い出ものがたり

2012-08-27 13:07:36 | ポチの思い出ものがたり

シェルティーラン吉のブログにアクセスしていただき、ありがとうございます。

そして、「ポチの思い出ものがたり」のつづきを楽しみにして読んでくださっている方々には、ものがたりの更新が1週間以上もできずにおりまして、たいへん申し訳ありません。

2代目のポチが亡くなったあとの話になりますと、やはり書いている本人自身がなにか胸のつまるような思いにしばられ、なかなかアップすることができないでおります

 

ご承知のとおり、この「ポチの思い出ものがたり」は、ラン吉パパがこども時代にかっていた2頭の犬-初代ポチと2代目ポチ-についてのお話です。

 

「昔にくらべて今のペットはなんて幸せなんだろう。それにひきかえ、なんてポチはかわいそうだったんだろう」とラン吉パパはくりかえし申しておりました。

そこで、ポチとポチがいきた時代をわすれないため、そしてポチを大切におもっていた気持ちを風化させないために、この話を書きはじめました。

そんな「ポチの思い出ものがたり」ですが、多くの方から直接うれしい反響をいただきました。

 

ここまで話はこぎつけましたので、尻切れトンボでおわることのないように、今しばらくつづけていくつもりです。 おつきあいのほど、よろしくお願いします。

 

ブログの更新は、少し気分転換して、ポチ以外のカテゴリですすめていこうと思います。

 


ポチの思い出ものがたり 21

2012-08-17 12:43:52 | ポチの思い出ものがたり

「ポチ、どうしたの」

「・・・・」

近づいてみれば、お母さんは、ひざの上にポチをだいています

「どうしたの、ポチ、なんでこんなところで寝ているの」

「・・・・」

「かあちゃん、どうしたんだよ」

「・・・・」

S少年はポチの頭にさわってみました

ポチはじっとしたまま、うごきません

「ポチ、どうした?かあちゃん、ポチへんだよ」

お母さんはようやく話しました

「ポチ、死んだ」

 

あまりに突然のできごとです

S少年は、かえす言葉もなく、ただ茫然とするばかり

 

どうしてなんだ・・・

今朝までいつもと同じように、あんなに元気にしてたのに・・・

いったい何があったんだ・・・

あのポチが、こんなにあっさりと死んでしまうなんて

ありえない・・・ ありえない・・・

 

S少年は、2代目ポチの突然の死が、どうしてもなっとくいきません

「どうしちゃったんだよ~、ポチはなんで死んじゃったんだよ~」

S少年のお母さんは、じっとポチを抱いたまま、なにも言いません

「なんか言ってよ、だまってたんじゃ、わからないよ~」

「・・・・」

「だってさ、今朝だって、あんなに元気だったじゃん!」

「・・・・」

「急に死ぬなんて、おかしいじゃん!」

「・・・・ ほんとう、おかしいわね・・・」

「そうだよ、おかしいよ!」

「そう、おかしいね、ほんと、おかしいわ~、おかしいっ、おかしいっ、あははは~」

お母さんは、涙をながしながら、おおきな口をあけて笑い出しました

 

その時、ちょうど、S少年の姉たちが学校から帰ってきました

「ただいま~、なにか楽しそうね!」

「なに笑ってるの?なにがそんなにおかしいの?」

なにも知らない姉たちは、うれしそうにはしゃいでいます

「あら、めずらしい!ポチが部屋にあがってる」

「ほんと、ほんと!抱っこなんかされてる」

「ポチも部屋であそんでもいいの?あたしにも抱っこさせてよ~」

「ポチ、ほら、こっちにおいで~

「かあちゃん、ポチを抱っこさせてよ~~」

お母さんは、じっとポチを抱いたままです

顔は、泣いているのか笑っているのかわかりません

「あれっ、かあちゃん泣いてるの」

「どうかしたの?なにかへんよ」

姉たちもなにか異変をかんじたようです

「ポチ、静かね・・・」

「ぐあいでも悪いのかしら・・・」

「ポチ、みんな帰ってきたのよ、お出迎えしてくれないの?」

「ポチ、動かないみたい・・・」

「ポチ、どうしたの?」

姉たちは、お母さんに抱かれたままのポチをなでました

いつもなら尻尾をふりながら、にこにこと見あげてくるはずです

 ところが、ポチは頭をなでられても、ピクリとも動きません

目をすこし見開いていましたが、ひとみに光はありません

「ポチ~、ポチ~!どうしちゃったの~?」

「ああ~~っ、ポチが、ポチが~~」

子どもたちの目にも、ポチの死はあきらかでした

子どもたちは動かなくなったポチにすがって、ただ泣くだけでした

 

夕方になってお父さんが仕事から帰ってきました

ポチはきれいなタオルにくるまれて、部屋の中にいました

お父さんは無言でみつめていましたが、やがてポツリと言いました

「かわいいやつだったのに、急なことだな、かわいそうに」

子どもたちは、その言葉を聞いて、また大泣きを始めるのでした

 

すると、お母さんは、まるで独り言のように話し始めました

「ポチはね、かわいそうじゃなかったのよ

ポチの最期はね、母ちゃんがこの腕のなかでちゃんと看取ってやった

ひとりで孤独に逝ってしまったわけじゃないんだよ

実はね、ポチね、自分から家の中にあがってきてね

最初はぐあいが悪いってわからなかったから、外に出したんだよ

そしたら、またあがってくるじゃないの

みれば、足元がよろよろとして、なにか苦しそうでね

でも、体のどこを見ても怪我はなさそうだし、水をやっても飲まないし

どうしようと思っているうちに、みるみる弱っていってしまって

もう抱いてやることしか、母ちゃんにはできなかったのよ

でも、母ちゃんはしっかりとポチを抱いていたからね

ポチはちっともこわがらずに、安心した顔で眠っていったよ」

 

「でも、急に病気になることなんてあるの?」

「少しずつ、おじいさんの犬になっていくなら分かるけど・・・」

「今朝だって、元気にご飯を食べてたじゃないか・・・」

 

ポチの突然の死をどう受けとめ、子どもたちになんて説明すればよかったか

お父さんにもお母さんにも、正直なところ、よくわかりませんでした

「ヒトだって、急病ってことはあるでしょう・・・」

「持病が急にわるくなることもある・・・」

でも、かかりつけの動物病院もなく、犬の病気については何もしりません

ポチの死んだ本当の理由は、だれにもわかりませんでした

 

子どもたちは、ただ涙でまくらをぬらしながら寝入っていくだけでした

 

 つづく