シェルティー ラン吉

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「トチの思い出ものがたり 中編」 ポチの思い出ものがたりの番外編

2013-04-09 12:36:14 | ポチの思い出ものがたり

そうざい屋の店主は、声をふるわせながら、K坊やに言いました

「おい、K坊、あれ、お前んちにいた犬じゃないか、ちょっと呼んでみろ」

K坊やは、なにを言われているのか、ピンときません

「ほら、でかい犬がいたろ、なんていったかな、えーと、ほら、トチとかいってたろ」

K坊やは「トチ」という名前をきき、あらためておおきな犬をみて、一瞬のうちに記憶がよみがえりました

でも、目の前にいる犬はあまりにもガリガリで汚れていて、それが「トチ」だとはにわかに信じられません

ましてや、K坊やの住んでいる町と箱根とは、同じ神奈川県内でも、100キロも離れていると聞かされていました

K坊やは、半信半疑でおそるおそる近づいていきます

「おいお前、トチなのか?おいお前、トチか?トチ?トチ?」

その犬は呼びかけられると、なんと、しっぽをブンブンとふりながらK坊やにかけよってくるではありませんか

そして、K坊やに飛びついて、クンクンと体をすりよせてきます

K坊やの顔といわず首といわず頭といわず、ペロペロ、ペロペロとなめまくります

「わぁ~!トチだぁ~!トチ~!トチ~~!!」

K坊やは、大声で泣きながら「トチ」を抱きしめ、全身をバチバチとたたきまくります

「トチ、こんなにガリガリにやせちゃって、こんなにボロボロによごれちゃって~

どうしちゃったんだよ~、トチ、トチ~」

                    

そうざい屋の店主は、K坊やの家や近所の店にむかって、おおきな声で人をよびました

「おーい、K坊んとこの犬が帰ってきたぞ~!みんな来てみろ!トチだ~、トチだぞ~!」

騒ぎを聞きつけて、近所から大勢の人たちが集まってきました

K坊やの家からも、お母さんが出てきました

「トチ」はお母さんに気づくと、まるで狂ったように、お母さんに突進してじゃれつきます

お母さんは、あまりにはげしく「トチ」がよろこび動くので、ハグすることもできないくらい

2年まえにK坊やからひき離されたあの「トチ」が、遠くから自分だけでかえって来たことは、だれの目にも明らかでした

                    

「トチ」をやっかい者あつかいにした人たちも、「トチ」が遠くからかえって来たことを知りました

「この犬、箱根から戻って来たらしいよ、2年もたってからだってさ・・・」

「忠犬ハチ公とおなじ、秋田犬だってね・・・」

「よほど、K坊が好きだったんでしょうよ・・・」

K坊やのお母さんは、涙でグショグショになりながら、泥だらけの「トチ」に頬ずりしています

「トチ」がK坊やとお母さんに再会した姿を目のあたりにして、もらい泣きしている人もいました

                     

親しいご近所さんが近づいてきて、そっとお母さんの肩にふれて言いました

「奥さん、トチを家のなかに入れてあげなよ。このままずっと外においとくこともできないでしょう、犬小屋もないことだし」

お母さんは、はっと我に返りました

「ああ、ありがとね。ほんと、そうだわね」

そして、集まっていた人たちに頭をさげて言いました

「みなさん、ご迷惑をおかけしています・・・

トチなんですけど、こんなふうに、ここにかえって来てしまって・・・

ご覧のとおり、とても弱っているので、このまま放っていくわけにもいきません・・・

ほんとは、ここにいちゃいけない子なんだけど・・・

すいません、ゆるしてやって・・・、トチのこと・・・」

周囲にあつまっていた人たちは、なにも言わずに、去っていきました

                     

2年ぶりにかえって来た「トチ」は、泥まみれでガリガリで、あまりにもみすぼらしい姿でした

犬小屋はすでに取りこわされているので、「トチ」を家にいれてやらざるを得ません

外につないでおいて、また脱走でもされたら、それこそ一大事です

きれい好きのお母さんは、汚れた「トチ」の体を雑巾でふき始めました

K坊やは、そんなお母さんがもどかしくてたまりません

「母さん、そんなことより、はやく何か食べさせてやってよ」

「ああ、そうだわね。まず、お水を飲ませなきゃね」

お母さんがハチミツを少しとかした水を「トチ」の鼻先におくと、「トチ」は待ってましたとばかりに、ペチャペチャとおおきな音をたてて飲みました。

「何かご飯もつくってあげなくちゃね」

                     

「トチ」はお母さんからはおじやを作ってもらい、K坊やからは給食ののこりのパンをもらいました

一口ずつもらってパンを食べ、だんだん「トチ」のお腹もふくれてきました

そして、最後の一口を食べ終わると、K坊やの手についたジャムをきれいになめて、ゆっくりふせをしました

K坊やが「トチ」の背中をしずかにさすってやると、「トチ」はその場にゴロンとよこになり、やがてウトウトし始めました

ガリガリにやせて、肋骨のうきでた胴の腹がふくれて、おおきく息をしながら全身が波うつようです

やっとここにたどり着いてK坊やたちに会い、やさしく受けいれられ食べ物をもらって、心から安心したのでしょう

そんな「トチ」をみて、K坊やの胸ははりさけそうでした

                     

「僕はトチのことを忘れていた。でも、トチはしっかり、うちの場所まで覚えていた

そしてとおい所から、ひとりで歩いてここにかえって来たんだ

道を人にたずねることもできず、ましてや地図をよむこともできないのに・・・

僕や母さん父さんに会いたくて、ひたすら知らない道をかえって来た・・・」

K坊やは、そんな「トチ」がいとおしくてかわいくて、けなげに思えてならないのでした

畳のうえは泥だけになっていましたが、そのまま寝かせておくことにしました

                     

K坊やのお母さんは、お父さんの職場に電話をかけました

「トチがかえって来てしまったのよ・・・仕方ないから家にいれてるわ

今はご飯食べてねむってるけど、ガリガリにやせてる・・・

箱根で何があったかわからないけど、面倒みてやらないと・・・」

「トチ」のことを聞いて、お父さんはいつもより早く仕事からかえってきました

「トチ」はお父さんに気づいて目がさめると、ガバッと飛びおき、やはりしっぽを大きくふってかけより、じゃれつきました

お父さんは、うれしくてはしゃぐ「トチ」に、飛びつかれるまま、立ちすくしていました

そして「トチ」がはしゃぎ終わるとそっと「トチ」をハグして、「トチ、よく無事で生きてかえってきたな」とささやきました

                     

「トチ」のことをすっかり思いだしたK坊やは、

「ねえ父さん、トチはやっぱりここが好きだったんだよね?

だから戻ってきたんだよね?トチはやっぱりここで暮らすほうがいいんじゃないの?」と聞いてみました

「K坊、トチがもどって来たのは、箱根よりもここが好きだとはかぎらないんだよ

犬はね、前にいた場所にもどる習性があるんだ

何かのきっかけで、こんなことになったけど、まず箱根のようすも聞いてみないといけないな」

お父さんは、「トチ」をゆずった箱根の知人に電話しました

<後編につづく>

トチの思い出ものがたり 前編はこちらから → 前編

トチの思い出ものがたり 後編はこちらから → 後編

 


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