シェルティー ラン吉

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「トチの思い出ものがたり 前編」 ポチの思い出ものがたりの番外編

2013-04-04 12:48:29 | ポチの思い出ものがたり

Kさんの子どものころのおもいで話 「トチの思い出ものがたり」

主人公は、K坊やです

                    

昭和40年代頃のお話です

商店街の一角、K坊やの家には、おおきな秋田犬がいました

その名も「トチ」といい、K坊やとはいつもラブラブ、大の仲よしでした

K坊やのお父さんは犬が大好き

なので、K坊やの家には、いつも犬がいました

K坊やが小学校にあがる前に飼われていたのが、この「トチ」でした

                    

K坊やが幼稚園からかえって真っ先にむかうのは、秋田犬「トチ」の小屋

庭におかれたおおきな犬小屋にはいり、K坊やと「トチ」はハグしてじゃれ合います

「トチ」は、立派でおおきくて、そして、おだやかでお利口な秋田犬

おもさは40キロもあろうかという「トチ」なので、背たけもあります

そんな「トチ」の背中にまたがって、K坊やは「トチ」のおしりをバチバチとたたきます

でも「トチ」は嫌がるどころか喜んで、K坊やを背中にのせて歩きまわります

遊びつかれたK坊やが犬小屋のなかでうたた寝すれば、「トチ」も寄りそって寝そべります

そんなK坊やと「トチ」をみて、お父さんは「こまったものだ、犬なんかと寝て・・・」とつぶやいていました

                    

ある日のこと、K坊やは、幼稚園から帰ろうとしてわが目をうたがいました

幼稚園の門のところに、なんと、あの「トチ」が自分を待っているのです

これは、家の犬小屋からぬけ出してきたにちがいない!

―― K坊やの予感はあたっていました

「トチ」は、その後も、たびたび幼稚園にK坊やを迎えに来るようになりました

犬小屋のかべをやぶり、鍵をこわし、手綱をくいちぎって、犬小屋をぬけ出し、K坊やに会いに幼稚園へ行くのです

「トチ」は大好きなK坊やが家にかえってくるのが、待ちきれなかったのでした

                     

でも、「トチ」がK坊やのかよう幼稚園に行くには、駅前につづく商店街を通らなければなりません

商店街のうらには、住宅街がひろがっています

そんな中を、おおきな秋田犬が闊歩していきます、しかも、飼い主なしに・・・

商店街のひとも、住宅街のひとも、そんな「トチ」にまゆをひそめました

「こんな大きな犬が、人通りのおおい道を勝手にあるくなんて、こわくてたまらない」

「犬が幼稚園や店や家のまわりをうろつくなんて、絶対にやめてほしい」

「子どもや家族が、この犬にかまれたりしたら、一体どうしてくれるんだ」

                    

「トチ」はだれのこともかんだり吠えたりしなかったのに、周囲からは白い目でみられました

当時は、飼い犬といえば、雑種のちいさな犬が主流だった時代

血統書つきの大型犬は、ちょっと目だった存在でした

「トチ」は、犬小屋や綱をがんじょうにしても、なんども小屋をぬけてしまいました

そして、とうとう幼稚園の保護者会でも「トチ」のことが問題になりました

「子どもたちの安全と、犬と、どちらが大事なんだ」

「おおきな体で、体力をもてあますから、逃げだすんじゃないか」

「おおきな犬には、町中でなく、ひろい土地のある田舎ぐらしがにあうだろう」

と話がすすみ、おおきな秋田犬「トチ」に、まるで町から出ていけといわんばかり

商店街の人たちからの苦情もふえて、K坊やのお父さんは「トチ」を手ばなすことを決めました

箱根にすんでいる知人が「トチ」をもらいうけ、大切に育てると約束してくれました

                    

K坊やは、その話をきくとショックのあまり大声で泣きわめきました

「トチがいったいどんなわるいことをしたっていうの?」

「トチは何もわるいことなんてしてやしない。ただ、町中では飼えないんだよ」

「どうして箱根の人んちになんかあげちゃうんだ?もういっしょに遊べなくなっちゃうじゃないか!」

「そうだよ、もういっしょには遊べない。でもトチはひろい場所でおもいきり遊べるよ、そのほうがしあわせなんだからね」

「でも、トチと遊べないなんていやだ、ぼくはちっとも楽しくないよ!」

「 自分さえ楽しければ、トチやほかの人がしあわせでなくてもいいのかね?」

K坊やは、しぶしぶ納得せざるをえませんでした

                    

数日後、K坊やが幼稚園から家にかえると、もう犬小屋に「トチ」の姿はありませんでした

K坊やがだれもいない犬小屋にはいると、かすかに「トチ」のにおいがしました

K坊やは「トチ」が大好き、「トチ」もまた、K坊やが大好き

大好きな者どおし、ただ、たのしくいっしょに遊びたかっただけなのに・・・

そんな一途な思いが、ぎゃくに、大好きな者どおしを離ればなれにしてしまいました

しばらくして犬小屋が取りこわされると、「トチ」のおもかげはどんどん遠のいていきました

                    

時がたち、K坊やは幼稚園から小学校にあがりました

小学生になったK坊やは、毎日の生活がワクワクの連続です

勉強はたいくつでしたが、放課後ともだちと自由に遊べるのは、なによりおもしろく楽しかったのです

あんなに大好きだった秋田犬の「トチ」でしたが、思いだすこともなくなっていました

                    

そして、「トチ」がいなくなって2年がすぎたある日、K坊やが学校から家にかえってきた時のこと

家が近づくにつれて、玄関のまえにおおきな犬が一匹、立ちすくんでいるのがみえました

その犬はからだがよごれて泥だらけ、しかも、ガリガリにやせています

「あんなおおきなノラ犬がいたんじゃ、こわくて家に入れやしない」

K坊やは、近所のお店にむかって声をかけました

「おじさん、ちょっと来てよ。こわい犬がいてさ、ぼく家に入れないんだよ」

そうざい屋の店主が出てきました

そして、その犬を見るなり、がたがたと震えだしました

「おい、K坊、あれは、あの犬は・・・」と、その声も震えています

 < 中編につづく >

 「トチの思い出ものがたり」 中編はこちら → 中編

 


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