白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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「やさしく語る」シリーズについて

2018年05月21日 23時59分59秒 | 著書
皆様こんばんは。
「やさしく語る」シリーズ第3作、「やさしく語る 碁の大局観」の発売が迫っています。
マイナビ編集部でも紹介記事を書いて頂いており、こちらからご覧頂けます。
私の方でもご紹介していきますが、今回はやさしく語るシリーズ全体についてお話ししたいと思います。

第1作「やさしく語る 碁の本質」のテーマは、「碁で最も重要なことは、地ではなく石の強弱である」ということです。
これは碁の真理に近いことだと思っており、私自身も対局で常に意識していますし、指導の場においても核となっています。
私は級位者から高段者、さらに県代表クラスまで指導しますが、石の強弱を第一にした考え方はどのレベルの方にも有効です。
ですから、級位者と高段者が並んでいるときに、同じような指導をすることはよくあります。
碁の基本的な考え方を身に付けるのに、棋力はあまり関係ありませんからね。
もちろん、棋力によって死活や読みの力に差があるので、アレンジは加えますが・・・。

そんなわけで、やさしく語るシリーズも棋力に関わらず役に立つ本を目指しています。
2桁級から高段者まで、ということです。
もちろん、棋力によっては真似をするのは難しいと感じる手が出てくることはあるでしょう。
その場合、無理に手そのものを覚える必要はありません。
そもそも、どういう考え方でその手を打ったのか、ということをご理解頂くことが最重要であり、それができていれば大丈夫です。
碁は自由なゲームであり、全く同じ局面はそうそう現れません。
ですが、正しい考え方が身に付いていれば、どんな局面にも対応できるでしょう。

このような説明は、今まで何度も繰り返してきましたね。
ただ、もう1つご説明しておかなければならないことがありました。
それは、「地ができること=悪ではない」、ということです。
地を気にしなくて良いと強調しているせいか、私の本に従って打つと「序盤は地が少なくなるもの」だとか、「序盤で地を取ってはいけない」と誤解されている方もいらっしゃるようです。
ですが、地があることは自体にはプラス要素しかありません。
私が言いたいことは、「地を取ってはいけない」ではなく、「地を取ろうとしてはいけない」ということなのです。
似ているようですが、両者には大きな違いがあります。

例えば、シリーズでは根拠を確保することの重要性を強調していますが、根拠を確保すると結果的に地が付いてきます。
しっかり根拠を確保していった結果、全体的に地が多くなったとすれば、それは素晴らしいことです。
しかし、地のことを第一に考えてしまい、地は多くなったけれども弱い石だらけになってしまった、というケースは失敗と言えるでしょう。

あるいは、相手の弱い石を攻めることで地が増えたり、薄かった地が確定地になるようなケースもあるでしょう。
それはもちろん、立派な戦果です。

つまり、石の強弱を第一に考えることで、「結果的に」地が多くなるということです。
この順序を間違えなければ、序盤から地が多く、石も弱くならないという展開になることもあります。

もちろん、相手が石の強弱ではなく地を第一に打ってくれば、一時的には自分の方が地が少なくなるかもしれません。
そのようなケースでは、相手の弱い石を攻めている間に地が増えていく、追い込み型の展開を目指すことになるでしょう。

つまり、碁は色々な展開がありますが、私は特に追い込み型の打ち方だけを推奨しているわけではありません。
しっかり石の強弱を確認しながら打ちましょう、ということです。

また、私が地を嫌っているかように感じられるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。
そもそも、地が嫌いなプロは存在しないでしょう(笑)。
ただ、いくら地が好きでも、まず考えるべきは石の強弱です。
その結果、序盤から地が多くなるならそれで良し、そうでなくても終局までに地が多くなっていれば良し、と考えています。


正しい考え方は、その人が地をどれだけ好きかということには関係ありません。
攻めが好き、模様が好き、地が好きなど、好みは人それぞれですが、基本をしっかり身に付けることで、自分の好きな展開にも持ち込みやすくなるでしょう。