白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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棋士の採用について・その4

2019年02月05日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
明日は有楽町囲碁センターにて指導碁を行います。
皆様のお越しをお待ちしております。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
今回は正棋士と特別採用棋士の違いについてお話ししたいと思います。
なお、正確な情報はここに記載されています。

そもそも、日本棋院の棋士になることは、プロの公式戦に参加する資格を得ることを意味します。
実際、入段試験が「大手合参加予選」という名前だった時代もあります(今や大手合は存在しませんが・・・)。
では、正棋士と特別採用棋士に、公式戦への参加資格において違いがあるでしょうか?
実は、全くありません。
棋聖戦のような一般棋戦、新人王戦のような若手棋戦など、棋戦の種類は色々とありますが、特別採用棋士だからといって出場できないようなことはありません。
それは非公式棋戦でも同様です。
むしろ、女流棋士なら女流棋戦がある分、参加棋戦が多くなるぐらいですね。

では何が違うかと言えば、それは待遇です。
代表的なものの1つは、毎月の固定給です。
正棋士になると、毎月いくばくかの給料が支給されるようになり、その金額は毎年の成績によってほんの少しずつ増えていきます。
特別採用棋士にはそれがありません。

もう1つは、対局料です。
現在、対局料は対局者の段位による差は一切無く、またその対局の勝ち負けによる差も基本的には無いと思って良いです(リーグ戦などは別ですが)。
しかし、特別採用棋士には一点において差があり、それは「 棋戦で最下位の予選に参加する場合、初戦の対局料を基準の1/2の金額とする。」というものです。

もっとも、これだけではプロの棋戦のシステムに詳しくない方には分かりづらいでしょう。
プロの棋戦は、一番下の予選Cで2局、予選Cを抜けたら予選Bで2局、予選Bを抜けたら予選Aで2局、予選Aを抜けたら・・・(以下略)といったトーナメントになっていることが多いです。
もちろん、1局でも負けたらその年は終わりですが、翌年のシード権が存在します。
例えば、ある棋戦の予選Aの1回戦に勝ち、2回戦で負けたら翌年は予選Aからスタートできます。
しかし、予選Aの1回戦で負けてしまったら翌年は予選Bスタート、といった具合です。
ですから、新入段者は当然予選Cスタートになりますが、翌年以降予選Cで打つかどうかは成績次第ですね。

仮に、予選Cの対局料は1万円、予選Bは2万円、予選Aは3万円という棋戦があったとしましょう(具体的な数字に意味はありません)。
この場合、もし正棋士が予選Cから2回ずつ対局したとすれば、対局料は順番に1万円、1万円、2万円、2万円、3万円、3万円となります。
特別採用棋士の場合、5千円、1万円、2万円、2万円、3万円、3万円となります。
また、特別採用棋士が予選Bの1回戦から4局打った場合、2万円、2万円、3万円、3万円となります。
違いはあくまで、予選C初戦(1回戦シードでも同じです)の対局料だけなのです。

これがどの程度大きいかですが、棋士によって大きく変わります。
毎回C予選の1回戦で負ける人なら、対局料の合計は正棋士の半分ぐらいになってしまうでしょう。
逆に、滅多に予選Cで打たない強い棋士なら、影響は極めて少ないです。
あるいは、対局以外の収入が多い棋士もあまり気にしないかもしれません。

いずれにしろ、特別採用棋士は待遇面では不利ですが、実は採用後に正棋士になることも可能です。
代表的な方法は段位を上げることです。
女流特別採用棋士と外国籍特別採用棋士は三段、女流特別採用推薦棋士は四段、英才特別採用推薦棋士は男子七段、女子五段、に達すると正棋士になることができます。
また、別の方法として、棋戦優勝などの大きな成果を上げるというものもあります。
例えば、上野愛咲美女流棋聖は二段ですが、おそらく正棋士になっているでしょう。

このように、後から正棋士になることもできるので、「どうしても正棋士として入段したい!」と言って特別採用枠の利用を拒否した人はあまり聞いたことがありません。
なにしろ、どれだけ実力があっても、一般の入段試験をパスできる保証はありませんからね。
女流試験でもそれは同じですが、やはりチャンスは大いに越したことはありません。
ちなみに、過去に一般枠で入段した女流棋士は4人いますが、いずれも女流タイトルを獲得しているので、特別枠で入段したとしても正棋士になっていたと考えられます。


さて、長々と説明してきましたが、正棋士か特別採用棋士かはあくまで内部の事情であり、盤を挟めば常に対等です。
アンティ初段、辻新初段、五藤新初段、森新初段、大森新初段、仲邑新初段、そしてもうすぐ決まる女流試験の通過者・・・。
皆、それぞれの目標に向かって邁進することでしょう。