白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

Master対棋士 第42局

2017年06月03日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日は中央大学囲碁部の現役とOBの交流会に参加しました。
当然ながら、現役は皆若いですね。
毎月エネルギーを分けて貰っています(笑)。

さて、本日はMasterと楊鼎新五段(中国)の対局をご紹介します。
楊五段は1998年生まれの18歳ですが、既に世界で活躍しています。
LG杯準々決勝では井山六冠と対局しますね。



1図(テーマ図)
Masterの黒番です。
左下で大きなコウ争いが起こり、白1で終結しました。
白△は腐っていますが、その代わり黒△は取られ、黒✖は助け難くなっています。

また、黒AやBが先手になるので、左辺の黒は強力な厚みですが、白✖が丁度良い所を割っているので、働かせ方が難しく思えます。
総じて、白が上手く打っていると感じる棋士が多いのではないでしょうか。

この碁は一手30秒で打たれました。
人間が瞬時に想定できる図は限られており、その中で良さそうな図を選ぶことになります。
しかし、Masterは少ない時間でも、遥か先まで読むことができるのです。



2図(実戦)
黒1~7と、取られかけている石を動いて行きました。
棋士の感覚では突飛な手ではありませんが、ここからどう決着が付くのかを、一瞬で判断することは困難です。





3図(実戦)
黒10までと進みました。
黒△、✖、〇は全て取られそうですが、これらは黒10を打つための撒き餌です。
白に利き筋を作ることにより、右辺の戦いで優位に立とうというのです。
黒10に対して白A、黒B、白Cと最強手で応じるのは、黒Dと打たれて破綻します。





4図(実戦)
そこで白1と守りましたが、ここで黒に手番が回っては成功でしょう。
しかし、黒2には驚きました。
この手は、もし白Bと受けてくれれば黒にとってプラスということですね。

しかし、右辺で競り合いになっている以上、私には黒Cなどとそちらを続けて打つことしか考えられません。
黒2は、後でも打てる手を慌てて打ってしまったように見えるのです。





5図(実戦)
黒1に手を抜いて白2と打たれてしまいました。
右辺の競り合いは白が威張ることになっています。
その代わり黒3が絶好点で、白△を助けられなくなります。

この結果は、下辺の勢力圏が大きく変わり、黒十分・・・。
こう判断したとすれば、それ自体は理解できます。
しかし、普通の人間はそんな考え方はしません。
今までは右辺で優位を築くことを考えて来たのに、そのチャンスをあっさり手放すというのは、まずできないのではないかと思います。


2図以降のMasterの打ち方は高度ですが、棋士のレベルを超えるものではありません。
しかし、出来上がり図はMasterの方が良くなっていました。
先を見通す能力において、Masterと人間には決して埋められない差があるようです。