高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

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7月28日 「オラ!メヒコ」

2005-08-04 | 千駄ヶ谷日記
27日 早朝、ワゴンタクシーで川崎のスタジオに向かう。
台風一過、進行方向に富士山がみえる。
冬だと、くっきり白い富士山がみえるが、夏は美しいシルエットのみ。
アシスタントの悠子ちゃんが夏休みなので、ひとりでがんばる。商品撮りで残るスタッフに盛大に「お先に!」なんて挨拶してから、忘れ物を思い出して、かっこ悪く、タクシーに戻ってもらう。やっぱり、ひとりだとね、、、
晩ご飯用の鳥メシ弁当をもらって帰り、家でガシガシ食べて、ぱたんと寝た。

28 日
田口ランディ+AKIRAの「オラ!メヒコ」を読む。
あちこち、アットランダムに好きなところを読んだりして、ひとわたり読みきる。ある編集者がいうには、そういう読み方は、今の若者の特徴らしい。私なんて小説でさえ、昔からそうやって読んでるもんね。
人も、本も、めぐり合うタイミングがある。
この本を読みつつ、自分自身のことをいっぱい考えた。
メキシコの旅のなかで、ランディさん、AKIRA、カメラマン、編集者達はシャーマンの導きによって、マジック・マッシュルームを体験する。そして心の旅をする。その旅は、まさしく、私自身の旅のようだ。
読みながら、自分の心の蓋をあけて、もう一度徹底的にのぞく作業が私にできるかどうか、今がその瀬戸際のような気がした。
心をざくろのように割ってみて、真っ赤なぷつぷつを一粒、一粒口に運ぶ。
全部の味をざくろっぽく、甘酸っぱいものと期待しても、苦かったり、しぶかったり、キリキリと尖がった味だったりするに違いない。
その味を今ひとつひとつ噛みしめることが、私のクリエティビティなのかもしれない。

そんな、刺激と共感をもたらしてくれた本だった。
ランディさんご本人からいただいたので、なおさら本から伝わるものが増幅されたのだろう。

メキシコは、10数年前にロケで行った。
メキシコシティの有名な帽子やさんで、タレントさん用の帽子をオーダーして、出来上がるまで、周囲をひとりで歩いた。
駅前では、昔の都市の発掘作業が行われていて、人の顔にたとえると、顔の皮膚をめくると、すぐその下にもうひとつの顔があるみたいな、不思議な風景だった。
ちょっと横の道に入ると、17世紀に建ったという古い教会がいくつもあって、ある時間が来ると、次から次へと鐘が鳴った。
その音は、いつかどこかで聞いたことがあるようななつかしい響きだった。

撮影現場では、せっかちな私たちと、「アスタ マニャーナ」(じゃ明日ぐらいにね)と
いう現地の人たちとの、調整不可能なズレがすごかった。
でも、監督やタレントさんの人間性が跳びぬけてよかったので、困難なことも珍道中となって、笑いが絶えなかった。
深夜、ひた走った道が、あとできくと麻薬地帯だったり、乗るべき飛行機がなくてチャーター機を手配するまで、4、5時間、ホテルのロビーでわけのわからない時間を過ごしたりした。
その時は、監督のアイデアで現地のエキストラの人たちに歌ったり、踊ったりしてもらった。
私たちはそれを仮想オーデションと言うことにして、「今のカップルは洗濯機のコマーシャルに使おう」とか、「この娘さんは、日本でアイドルデビューさせよう」なんて判定して遊びつつ、時を過ごした。
やっとロスの飛行場に着いた時は、「ほんとに、日本に帰れるんだね」と確かめ合ったのだった。
と、そんなことまで思い出しました。

写真 (撮影・Yacco) 「オラ!メヒコ」 角川文庫 590円
メキシコロケで買ったのは、こんなパナマ帽だったけれど、もっと極上品だった。