高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

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6月13日 「動物はすべてを知っている」

2005-06-15 | 千駄ヶ谷日記
10年位前になるだろうか、アフリカ、ケニアの動物孤児院で、親を殺された子象を育て、野生に返す運動をしていたダフニー・シェルドリックさんと、草津温泉に行ったことがある。
そのとき、ダフニーさんは親愛の情を示した象との思わぬ接触で怪我をしていた。
日本滞在の多忙なスケジュールを縫って行った温泉旅行に、彼女の娘さん、ホリスティック医学の上野圭一さん、セラピストの菅原はるみさん、そして私が同行した。
ダフニーさんは温泉の効能と上野さんの治療で驚異的な勢いで治癒していった。
その短い旅が終る頃、ダフニーさんが私に向かって、忘れられないことを言った。
「ヤッコ、あなたは象と通じ合えるテレパシーを持っているわ。都会に住んでいながら、あなたのように人間以外の生き物と話ができる人に、はじめて逢ったわ」
彼女はそう言って、娘さんの方を振り返り、娘さんもうなずいた。

先月テレビ番組で、その孤児院が映り、織田裕二さんが幸せそうに子象と戯れている様子を見た。
ダフニーさんはもうリタイアしたのだろう、娘さんが孤児院を運営しているようだった。

私のテレパシーがダフニーさんが言った通りなのか、あのとき、特殊な事情で、そうなっていたのかいまだにわからない。

動物とのコミュニケーションに関して、共感できる一冊の本が届いた。
あの時ダフニーさんに同行した上野圭一さんの翻訳で、「動物は全てを知っている」という本だ。
私はこの本を読み終わるまで肌身離さず持ち歩いた。
「ヒトと動物のあいだには『沈黙の言葉』がある。口にだそうがだすまいが、思ったことはすぐに跳ね返ってくる」ということ、その多くの部分がストロングハートという犬から学んだコミュニケーションだが、蛇やスカンクやアリ、ハエとまで通じ合えるという。

「頭の中にあった人間と動物との関係についてのあらゆる先入観念を捨て去り、当然だと思っていた『ヒトがイヌを訓練する』という慣習そのものをひっくりかえす」
そうした日々のなかで、ストロングハートと筆者は、カルフォルニアの自然のなかで、のどかな美しい時間をともに過ごす。
海や、小高い山で、まるで聖地の巡礼達が味わったような、深い、満ち足りた意識を共有するのだ。
私は読み進みながら、他の人には貸すことができないぐらいこれぞというページを折リつづけた。

私はよくココと大家さんの庭で過ごす。
ココがひとしきり走り回ったあとで、雑草化しつつある芝生にお互いにゴロンとからだを預ける。
私はスニーカーを脱ぎ、はだしになって身体に溜まったであろう電磁波を地面に放出する。
筆者とストロングハートのような、崇高で広大な自然ではないけれどこの小さなスペースが宇宙に繋がっていることを感じる。
ココは心地よく吹いてくる風にうっすらと目を瞬かせたり、ほんの少し口を開けたまま、リラックスしてながながと座っている。
この瞬間、間違いなく、私たちもなにかを共有していると思う。
ただ、私自身がせせこましい時間の中で暮らしているために、その時間に終止符の言葉をかけるのは決まって私だ。物分りの良いココはさっと起き上がる。

ココと暮らしながら、体力的に、もうこれが動物と暮す最後の経験
だろう、としばしば考える。
都会で猟犬と暮らすことの矛盾はいっぱいある。
でもこの本を読んで、教えられること、共感することが沢山あった。ココとの意識も、ほんの少し新しいものになりそうだ。

「動物はすべてを知っている」  J・アレン・ブーン著 上野圭一訳
SB文庫 ¥638E( 6月18日より発行です)
(この本は1998年4月、講談社より刊行された「ヒトはイヌとハエにきけ」を改題し、文庫化したものです)

写真 (撮影・Yacco) ココ、大家さんの庭にて。