高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

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ポートベロー・ロードのフリー・マーケット

2005-02-20 | Weblog
定宿のポートベロー・ホテルのすぐそばのポートベロー・ロードは、週末になるとフリーマーケットがたち、どっと賑やかになる。この日は午前中から夕方まで歩き続けて、くたくたに疲れてホテルに戻る、というのが定石だった。道端や、一休みのカフェで、思いがけない日本人グループに会うことも多かった。パリ在住組の人たちはパリのクリニャンクールよりもずっと安いとか、色合いの違うものがみつかる、といって時々遠征してきた。

鋤田さんのお手伝いで滞在していた時は、ミュージシャンとのフォトセッションのためだったから、別の方法でお金を稼いだり、チケットを手配したりすることがあった。
あるとき、チキータ・バナナのカレンダーの仕事をやることになった。
毎朝、私は新鮮なバナナを仕入れに行く。それにスポンサーから預かった「チキータバナナ」とロゴの入った青いシールを貼り付けて鋤田さんとロンドンを歩く。
ハイドパークの昼下がり、木漏れ日の下に布を敷き、バスケットに入れてきたお茶とサンドイッチを食べている老夫婦がいた。平和で美しい老後の日々の風景だ。
私は彼らに近づき、「今、日本向けのチキータバナナのカレンダーの撮影をしています。そのおいしそうなサンドイッチの代わりに、5分間だけバナナをもっていただけますか?」と頼む。ふたりは微笑みつつ引き受けてくれた。
ポートベローの蚤の市の路上では、たくさんのひとが撮れた。
ギターを持ったミュージシャンふうの男の子達はちょっとエッチな冗談を言いながら気軽にもってくれた。
写真の、手作りの帽子を売る女の子も、こんな風にバナナを食べかけにしてもってくれた。
隣の男の子は素焼きのオカリナを吹いている。私は彼から数個買って、友達にあげたりした。自分のために残しておいたオカリナは、今でも奇跡的に、私の本箱の片隅に飾ってある。私はオカリナの穴を探って、ポートベローホテルのロビーにある大きなアンティックのオルゴールの曲を吹いたりしていた。
鋤田さんの写真はとてもステキだったのになぜかカレンダーにはならなかった。鋤田さんはフイルムをクライアントに渡してしまい、残ってないそうで、私のスナップが一枚だけ残っている。

写真(撮影・Yacco) 女の子のファッションが可愛い。