皿尾城の空の下

久伊豆大雷神社。勧請八百年を超える忍領乾の守護神。現在の宮司で二十三代目。郷土史や日常生活を綴っています。

蘇民将来と牛頭天王

2020-05-21 21:31:25 | 昔々の物語

 日本各地(特に西日本)においては蘇民将来と牛頭天王についての逸話が残っている。今般のウィルス蔓延に当たり、日本人が古くから疫病や災いに対して、どう向き合ってきたかを知る貴重な物語だ。

 昔々あるところに牛頭天王というひとがいました。そろそろお嫁さんを迎えたいと思っていたところ、鳩がやってきて「竜宮城へ行くとよい」と告げたといいます。

 竜宮城への旅の途中とまる宿を探していると、お金持ちの巨旦(ごたん)の家がありました。牛頭天王が「一晩泊めてください」と頼むと「うちは貧しいから泊められないよ」とうそをついて断られました。

 困った牛頭天王が歩いていくと蘇民将来という者の家に着きます。貧しいながらも心優しい蘇民は「汚れていますがどうぞお泊りください」と言って牛頭天王をもてなしました。

 次の日出発前に牛頭天王は泊めてもらったお礼に宝物の珠を蘇民に手渡します。この珠は心の優しいものが持つと財を成すというものでした。

 その後牛頭天王は無事竜宮城へ着くことができ、お嫁さんをもらい多くの王子の父となりました。

 八年の時が過ぎ牛頭天王は自分の生まれ故郷に帰ることにします。途中また蘇民の家によると、心優しい蘇民は長者になっていましたが、それを羨んだ巨旦も牛頭天王を家に泊めようとしましたが、意地悪は変わらなかったため、災いばかりが起こったといいます。

 一方蘇民はその後もいつまでも心優しく、幸せに暮らしたといいます。

 牛頭天王とは悪いことを追い払う神だったのです。代々蘇民の家の人々は、この時牛頭天王の言った通り「蘇民将来」と書いた木を身につけていました。それがお守りとなって代々幸せに暮らしているとのことです。

 ある地方では正月の注連縄を一年中飾っておくそうです。その札には「蘇民将来子孫家門」と書かれています。昔話にあった「私は蘇民将来の子孫の家です」とわかるようにして災いが起こらないと願っているそうです。

牛頭天王とは荒ぶる神、素戔嗚尊とされ、京都市八坂神社を中心とした祇園信仰、愛知県津島市の津島神社を中心とした天王信仰として古くから疫病除けの神として知られている。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

I Remember

2020-05-19 22:32:18 | 心は言葉に包まれて

誰からも愛される人がいつも羨ましくて

何のためにここに生まれてきたんだと問いかけた日々

消えない傷は 胸の中で 幾度となく目覚めては あふれだす

ふり払うために 私はこうして歌うの 朽ちるまで

I Remember 悲しみの雨に打たれた夜は

届かぬこの魂の歌 泣きながら叫んだ

 自分の生き行く先を「死ぬまで」や「人生の終わり」と表現するより「朽ちるまで」といったところがとても印象的だった。歌い続けることは希望ではあるが、その先に自らが朽ちるとき、歌い続けることが叶わなくなる時、それが彼女の言う「朽ちるまで」なのだろうか

目の前の愛をつかみ取れなくてから廻る日々

いつからか自分を信じる心を持てなくなった

一人ぼっちの臆病者は 苛立つ歯痒い自分を愛せなくて

言葉にならないもどかしい心が 走り出したあの頃

I Remember 悲しみの雨が教えてくれた

絶望を希望の光に変えたメッセージだった

I Remember 悲しみの雨に打たれた夜は

この魂の歌 泣きながら叫んだ

あれは 燻る私を 変えた1ページだった

 雨の歌が好きだ。風薫る五月というが、意外と雨も多い。たまには雨に打たれるのもいい。身に染みなければわからないこと、思い出せないこともあるだろう。燻り続けている自分変えたのは悲しみの雨なのか、魂の歌なのか。

明けない夜はない。止まない雨はないという。夜明け前が最も暗く、雨によって地は固まるものだ。

雨に打たれ悲しみの歌を叫び、燻る自分を変えて行く。

メッセージは常に自分の心の中にある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

加須市不動岡 稲荷神社

2020-05-19 21:22:40 | 神社と歴史

 

加須市不動岡は会の川(旧利根川)の左岸に位置する総願時の門前町。かつては岡村と称し、長暦三年(1040)利根川氾濫に際し不動様が流れ着いたことから不動岡と呼ばれるようななったという。

 

口碑によれば、宇喜多秀家の家臣家臣であった岡家が関ケ原の戦いに敗れて当地に住み着き、岡家の守護神であった稲荷社を祀ったことを創始とする。但し明治四年の「稲荷社合祀記念碑」によれば創立年代はこれより遡り、不動岡の鎮守として稲荷社を上、中、下で祀り、明治期になってから三社を中の稲荷社に合祀したとも伝わる。神仏分離以前は別当として総願時が務めたという。御祭神は宇迦之御魂命。本殿には稲荷大明神象を安置し、天保四年の本殿建立棟札も残るという。

乱流として名高い会の川沿いに鎮座するためか、現在も社殿は小高い塚の上に築かれていて、社殿裏には高校の校舎が一望できるようになっている。富士見塚を思わせる造りであるが、かつてはここから東には富士山も望むことができたのだろう。

古くから不動岡の鎮守として氏子はもとより近郊からの参拝者も多く、また戦前までは病気平癒を祈願して社頭に髪の毛が上げられ、お礼参りにはお稲荷様(おとかさま=陶製眷属像)が奉納されたという。稲荷神社の御礼に眷属が上げられるのは各地に見られる。鳥居についても同じで、願いが通るように多くの鳥居が稲荷社の参道に奉献されるところが見受けられ る。

不動岡という地名は総願時の門前町として知られることとなり、江戸期においては大いに栄えた。総願時不動尊は、新勝寺、大相模の大聖寺と共に関東三大不動尊として称せられ、幕末には一万石の待遇を処せられたという。『郡村誌』によれば『不動岡村戸数二百三十五戸の内商工従事者七十八戸』とあり村の大半が参詣者を迎える旅館、飲食店であったことを窺わせる。また鯉のぼり発祥の地として知られ、毎年五月には特大鯉のぼりが泳ぐことでも有名になった。

 近世には総願時の参詣者が大挙して江戸から押し寄せることで江戸との交易が栄え、物資の運搬に馬が重宝されたことから氏子区域内には多くの馬頭観音も祀られたという。

 今でも総願時から不動岡高校への道は門前町としての名残を残しており、その通りを小高い丘の上から静かに見守っている。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

桶川市 川田谷(岡村) 氷川神社

2020-05-02 21:07:11 | 神社と歴史

 桶川市川田谷は荒川左岸の自然堤防上に位置する村で、南北朝期から見える「河田郷」にあたると考えられている。河田谷とは川の端の地であることに由来する。早くから開けた土地であったが、元禄七年(1694)の「桶川町助郷帳」では上下の河田谷に分村し、化政期(1804-30)には全体で五〇〇戸ほどに達したという。

当社は下川田屋の鎮守にあたり、創建時期は不明であるが内陣に寛文八年(1668)の宗源宣旨が現存しており、江戸期の始めには正一位の神階を授かっていたことが分かる。

また参道の燈篭は文政元年のものが残っており、江戸期における祭事の盛んなことが見て取れる。御一新により社格は無各社となったが、地域の信仰厚く昇格の申請が認められ、昭和四年には村社となっている。このころに境内社として八幡宮を合祀している。

秋の大祭においては「三田原の簓獅子舞」が奉納される。「三田原」とは三ツ木、田向、柏原の各字名を総称したもので、各字によって継承されるという。地元には「獅子由来記」が残っていて、元禄年間に雨宮武休という者によって再興したものだという。かつては十三日を「着揃い」と言って舞を仕上げ、十四日に合祀された八幡神社に奉納したという。

氏子区域は川田谷村の内、前領家、狐塚、三ツ木、田向、柏原の五字であるが、柏原の中でも若宮と呼ばれる地区は陸軍飛行学校跡地に戦後住み着いた人々の集落であったため氏子に入らなかったが、昭和六三年頃に集会所の建設した際に氏子の仲間に入ったという。また当社の北西に喜倉庵という御堂があり、昭和二十年代までこのお堂に獅子舞の道具一式が納められていたという。またこの堂の下に住む天沼秀太朗家は「鑰元(かぎもと)」と呼ばれ明治初年まで大宮氷川神社の祭事の際鍵を以て出向く役を担っていたという。

現在では中山道からそれ荒川沿線の少し不便な交通の地の様に感じられるが、かつては川越へと抜ける重要な場所であったという。この地を納めた河田谷氏は中世にその勢力を伸ばしている。

 ところで越後上杉氏に従属し、羽生城を居城とした木戸範実は北条家に対抗する勢力として武蔵国の上杉氏の拠点となった。その範実には二人の息子がいて、一人は次の羽生城城主広田直繁。そしてもう一人が弟、木戸忠朝であったという。羽生城の支城として皿尾城主となる木戸忠朝は木戸姓を名乗る前に河越方面の領主、河田谷氏の名跡を継いで河田谷右衛門大夫を名乗っていた。そして再三にわたり忍城主成田長泰を追い詰めている。戦上手で知られる木戸忠朝の最初の名跡がここ川田谷村であったと考えられている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする