日本各地(特に西日本)においては蘇民将来と牛頭天王についての逸話が残っている。今般のウィルス蔓延に当たり、日本人が古くから疫病や災いに対して、どう向き合ってきたかを知る貴重な物語だ。
昔々あるところに牛頭天王というひとがいました。そろそろお嫁さんを迎えたいと思っていたところ、鳩がやってきて「竜宮城へ行くとよい」と告げたといいます。
竜宮城への旅の途中とまる宿を探していると、お金持ちの巨旦(ごたん)の家がありました。牛頭天王が「一晩泊めてください」と頼むと「うちは貧しいから泊められないよ」とうそをついて断られました。
困った牛頭天王が歩いていくと蘇民将来という者の家に着きます。貧しいながらも心優しい蘇民は「汚れていますがどうぞお泊りください」と言って牛頭天王をもてなしました。
次の日出発前に牛頭天王は泊めてもらったお礼に宝物の珠を蘇民に手渡します。この珠は心の優しいものが持つと財を成すというものでした。
その後牛頭天王は無事竜宮城へ着くことができ、お嫁さんをもらい多くの王子の父となりました。
八年の時が過ぎ牛頭天王は自分の生まれ故郷に帰ることにします。途中また蘇民の家によると、心優しい蘇民は長者になっていましたが、それを羨んだ巨旦も牛頭天王を家に泊めようとしましたが、意地悪は変わらなかったため、災いばかりが起こったといいます。
一方蘇民はその後もいつまでも心優しく、幸せに暮らしたといいます。
牛頭天王とは悪いことを追い払う神だったのです。代々蘇民の家の人々は、この時牛頭天王の言った通り「蘇民将来」と書いた木を身につけていました。それがお守りとなって代々幸せに暮らしているとのことです。
ある地方では正月の注連縄を一年中飾っておくそうです。その札には「蘇民将来子孫家門」と書かれています。昔話にあった「私は蘇民将来の子孫の家です」とわかるようにして災いが起こらないと願っているそうです。
牛頭天王とは荒ぶる神、素戔嗚尊とされ、京都市八坂神社を中心とした祇園信仰、愛知県津島市の津島神社を中心とした天王信仰として古くから疫病除けの神として知られている。