またちょっと旱魃なので少しお休みすることになると思います。一週間くらいしたら、かつ生きていたら、また始めるつもりです。そしたらよろしくお願いします<m(__)m>
文字だけじゃつまらんから、ユークレースの青でもあしらって。
*前に書いた「貧石流鉱物分類」があまりにもぐだぐだだったので再整理。
鉱物の分類というのは、ややこしい。
鉱物というのは、元素鉱物(金・銀など)を除いて、「プラスイオン」(カチオン、主に金属類)と「マイナスイオン」(アニオン、××酸など)の合体(錯体、塩[えん])である。
で、鉱物分類は「アニオン」の種類によって決めている。ケイ酸塩鉱物とか炭酸塩鉱物とかハロゲン化鉱物とか。
ちなみに結晶系による分類は鉱物学では重要なのだろうけど、素人にはあまり役に立たない。晶系と実際の結晶の形なんて違うことが多いし。
で、名前ばっかりを羅列しても、全体像がわからなくて、うまく捉えられない。覚えられない。そこで、全体見取り図というか、大ざっぱな構図を作る。そして覚えやすい名前を付ける。そうするとイメージ的にとらえやすくなる。そして「ああ、あのグループか」とわかると性質特徴などもはっきりすることが多い。まあ一種のお遊びですけど。
鉱物の勢力は、4つ。4つしかない。
1.王族――元素鉱物
2.貴族――石英
3.与党――ケイ酸塩鉱物
4.野党――非ケイ酸塩鉱物
1の王族は、元素のみでできている鉱物。純粋種ですな。多くはない。
金、銀、銅、硫黄、炭素(ダイヤモンド、石墨)、水銀くらい。
2の貴族は、シリカ(SiO2)だけでできている。通常これは「酸化鉱物」に分類されるけれど、やっぱ別物でしょう。で、この中は「御三家」に分かれる。
2-1 結晶質 水晶
2-2 微細結晶質 カルセドニー(玉髄。アゲート、ジャスパーなどを含む)
2-3 非晶質 オパール(これはちょっと異色。実は「鉱物」ではない)
3のケイ酸塩鉱物は、ものすごく数が多い与党。ただし一枚岩ではなく、ケイ酸の結合型によって六派に分かれる。「与党六派」。
3-1 単独派(ネソ) ペリドット、トパーズ、ガーネットなど。
3-2 双結派(ソロ) ゾイサイト、エピドートなど。
3-3 繊維派(イノ) 角閃石、輝石など。
3-4 平面派(フィロ) 雲母、滑石など。
3-5 六環派(サイクロ) ベリル、トルマリンなど。
3-6 立体派(テクト) 長石、沸石など。
単独派はリン酸が単独、双結は2個結合、繊維は鎖状結合、平面は板状結合、六環は6つ環状結合、立体は立体的複雑結合。煩瑣だけどこれは結構鉱物の特色を形作っている。詳細は別項で。
4の非ケイ酸塩鉱物には、2派ある。
4-1 穏健派 酸素酸塩鉱物(××酸塩というもの。
4-2 急進派 酸化・水酸化・ハロゲン化・硫化
これも詳細は別項。
改めて並べると
1.王族(元素)
2.貴族(石英) 御三家
3.与党(ケイ酸塩) 六派
4.野党(非ケイ酸塩) 穏健派・急進派
これでOK。実にわかりやすいではないですか。ミソは、石英を酸化鉱物とは別にしたところと、非ケイ酸塩鉱物を二派にしたところ、ケイ酸塩の結合形を和訳したところ。
世に大手を振っているのは貴族と与党。水晶・玉髄・オパールはそれらだけで市場の過半数を占めるのではないかとさえ思える。ケイ酸塩鉱物は全鉱物の8割くらいを占めるらしい。圧倒的安定政権ですな。
しかし野党にもフローライトやカルサイト、コランダムなど大集団がいる。急進派はなかなか個性ある面々。
石好きは一つ一つの鉱物の美しさを鑑賞していればいいのだけど、それがどんな派閥に属するかを知っておくと、また別の味わい方ができるのではないでしょうか。
与党ケイ酸塩鉱物の六派は、ネソだのイノだの言われると訳わからん。こういう意訳を付けるとわかりやすい。派閥の違い、つまりケイ酸結合の違いは、案外その鉱物の特色を決定している。
(以下は有名な鉱物のみ。)
◆単独派(ネソ)
ペリドット (Mg,Fe)2SiO4
トパーズ Al2SiO4(F,OH)2
ガーネット X3Y2(SiO4)3
カイヤナイト Al2SiO5(アンダル―サイト、シリマナイトは異形)
ジルコン ZrSiO4
スフェーン(チタナイト) CaTiSiO5
ウィレマイト Zn2SiO4
フェナカイト Be2SiO4
ユークレース BeAlSiO4(OH)
ペリドット(オリヴィン、橄欖石)は、マントルの基本構成物質。ペリドットもトパーズもガーネットもジルコンも非常にベーシックな鉱物で、単独派の特徴はそのあたりにあるらしい。カイヤナイトはちょっと繊維派っぽいけど。フェナカイトやユークレースがここに属するのも意外。
◆双結派(ソロ)
双結なんて言葉はないけど、ほかに言いようがないから仕方ない。
ここにはエピドート・グループという大集団があって、ゾイサイト(灰簾石、Ca2AlAl2(Si2O7)(SiO4)O(OH))とエピドート(緑簾石、Ca2Fe3+Al2(SiO7)(SiO4)O(OH))たちがいる。タンザナイト、チューライトはゾイサイトの異種。
アキシナイト(斧石) Ca2(Mn,Fe)Al2BO3[Si4O12]OH
ヘミモルファイト(異極鉱)Zn4SiO7(OH)2・H2O
エピドート・グループやアキシナイトもベーシックな鉱物。しかしこれ全部含水鉱物ですな。水によって変成したものということか。
◆繊維派(イノ)
ここには
輝石グループ
角閃石グループ
という大集団がいる。ともに基礎的な造岩鉱物。名前を挙げるだけで膨大になるので省略。人気の石も多い。繊維派というだけあって、角閃石の中にはいわゆる「石綿」に属する鉱物もある。
ほかにチャロアイト、ラリマー(ペクトライト)、アストロフィライトといった異色存在もいる。3つとも繊維っぽい。
◆平面派(フィロ)
なにせ平面派なので、雲母という巨大グループがいる。
ほかにクローライト、サーペンティン、アポフィライト、クリソコラ、タルクなど。クローライトとサーペンティンは基礎的な造岩鉱物。アポフィライトは少し平面派の表情があるけれど、ほかはうーむ。クローライトなんか水晶の中に入るとトゲトゲの結晶を見せたりするぜ?
◆六環派(サイクロ/シクロ)
ケイ酸が6個、輪というか六角形というかで結合している。不思議ですな。
ベリル Be3Al2Si6O18(エメラルド、アクアマリン、モルガナイトなど)
トルマリン 主にX+Y+(BO3)3Si6O18(OH)4
アイオライト Mg2Al3(AlSi5O18)
ダイオプテーズ CuSiO3・H2O
ベニトアイト BaTiSi3O9
スギライト K(Na,□)2Li3(Fe,Mn,Al,Zr)2Si12O30
六環派は少数派だけど魅力的な石が多い。トルマリンは硼酸も水酸基も入っていて多様で複雑怪奇でちょっと異分子。こやつは与党に含めていいのだろうか。(そういうやつもたまにいるね)
◆立体派(テクト)
ケイ酸が網目状・立体的に結合したもの。複雑。ここには超巨大グループが2つ。
長石グループおよび準長石グループ(ソーダライト・グループ)
沸石グループ
あまりに巨大で面倒なので省略。
スキャポライト(グループ)、ダンビュライトなどもいる。
こうやってみると、案外派閥なりの色合いが見えてくるような感じがする……しませんか?
単独派・双結派はベーシックな感じ。繊維派もベーシック鉱物だけど独特の繊維っぽい感じが異色。六環派は個性派ぞろい。立体派は超複雑。
まあ「ええ? お前そこなの?」という鉱物も多いけど。
非ケイ酸塩鉱物というのは比較少数派。野党。野党だからしょぼいというわけではない。個性豊かなのがたくさんいる。大集団もいる。どこぞの野党とは違う。(いいのかそんなこと言って) 何より、ケイ素を頑なに拒絶している、その心意気が格好いい。痺れる。
これも2つに分ける。
3-1.穏健派――酸素酸塩(炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、その他○○酸塩)鉱物
3-2.急進派――その他、硫化、酸化、水酸化、ハロゲン化鉱物
酸素酸塩派というのは、ケイ酸が「ケイ素+酸素」なのと同様、炭素+酸素、硫黄+酸素…という「酸」がアニオンになっているということだから、まあケイ酸塩とそう遠くないということで、だから主流に近い穏健派。急進派はそうではなく、もろ陰イオンと塩基がぶつかっている。
野党は多くないし、並べてみると「おお?」と思うことも多いので、有名どころを列挙する。
■野党穏健派
◆炭酸派
カルサイト/アラゴナイト CaCO3
マグネサイト MgCO3
シデライト FeCO3
ロードクロサイト MnCO3
スミソナイト ZnCO3
ドロマイト CaMg(CO3)2
セルサイト PbCO3
アズライト Cu3(CO3)2(OH)2
マラカイト Cu2(CO3)(OH)2
オーリカルサイト (Zn,Cu)5(CO3)2(OH)6
◆リン酸派
モナザイト CePO4
アパタイト(フローアパタイト、フッ素燐灰石)Ca5(PO4)3F
パイロモルファイト Pb5(PO4)3Cl
ビビアナイト Fe3(PO4)2・8H2O
ターコイズ(トルコ石) CuAl6(PO4)4(OH)8・4H2O
アンブリゴナイト (Li,Na)Al(PO4)(F,OH)
バリサイト Al(PO4)・2H2O
オートゥナイト Ca(UO2)2(PO4)2・10-12H2O
ベゼリアイト (Cu,Zn)3(PO4)(OH)3・2H2O
ワーベライト(ウェーべライト) Al3(PO4)2(OH,F)3・5H2O 斜方
カコクセナイト AlFe3+24O6(OH)12(PO4)17・~75H2O
フォスフォフィライト Zn2Fe(PO4)2・4H2O
フォスフォシデライト Fe3PO42H2O
ゼノタイム YPO4
◆硫酸派
バーライト BaSO4
セレスタイン SrSO4
アングレサイト PbSO4
カルカンサイト CuSO4・5H2O
アルナイト KAl3(SO4)2(OH)6
ジプサム CaSO4・2H2O
アンハイドライト CaSO4
ブロシャンタイト Cu4(SO4)(OH)6
ランジャイト Cu4(SO4)(OH)6・2H2O
リナライト PbCu(SO4)(OH)2
シアノトリカイト Cu2+4Al2(SO4,CO3)(OH)12・2H2O
◆砒酸派
ミメタイト Pb5(AsO4)3Cl
エリスライト Co3(AsO4)2・8H2O
ロゼライト Ca2(Co,Mg)(AsO4)2・2H2O
スコロダイト Fe3+AsO4・2H2O
アダマイト Zn2AsO4(OH)
リロコナイト Cu2Al(AsO4)(OH)4 ・ 4H2O
◆ホウ酸派
ボラックス(硼砂) Na2B4O5(OH)4・8H2O
ウレキサイト(“テレビ石”) NaCaB5O6(OH)6・5H2O
エレメーエファイト(ジェレメジェバイト) AI6B5O15(F,OH)3
ローディザイト (K,Cs)Al4Be4(B,Be)12O28
◆クロム酸派
クロコアイト PbCrO4
◆バナジン酸派
バナディナイト Pb5(VO4)3Cl
◆タングステン酸派
シェーライト(シーライト) CaWO4
◆モリブデン酸派
ウルフェナイト PbMoO4
◆硝酸派
ナイター(硝石) KNO3
穏健派の中にもクロム酸派を始めきわめて特殊な少数派閥があるのですねえ。
リン酸派、砒酸派はなかなか魅力的な石が多い。
■野党急進派
◆酸化派
クリソベリル BeAl2O4
コランダム(サファイヤ、ルビー) Al2O3
スピネル MgAl2O4
ヘマタイト Fe2O3
ルチル/ブルッカイト/アナテーズ TiO2
◆水酸化派
ギブサイト Al(OH)3
ゲーサイト FeO(OH)
ブルーサイト Mg(OH)2
ダイアスポア AlO(OH)
レピドクロサイト FeO(OH)
◆ハロゲン化派
アタカマイト Cu2(OH)3Cl
ハライト(岩塩) NaCl
クリーダイト Ca3Al2F4(OH,F)6(SO4)・2H2O
フローライト CaF
◆硫化派
シナバー HgS
スティブナイト Sb2S3
スファレライト (Zn,Fe)S
チャルコパイライト CuFeS2
パイライト FeS2
リアルガー As4S4
オーピメント As2S3
急進派の最大派閥は酸化派でしょうね。なにせコランダムがいるし、スピネル、クリソベリルもなかなか。ハロゲン派は異色でフローライトというスターがいる。
こういう「ケイ酸を拒否している連中」の名簿を見ていると、なかなかやるねえと思ったりします……しませんか?
* * *
これで鉱物の国の勢力図はだいたいわかったような気になれる。
しかしまだ不満は残るのでありまして、それは、「銅の鉱物って何じゃい」というような疑問がしょっちゅう出てくる。
だから金属別の分類も必要だと思うのです。けれどリストはあまり流布していない。
それは別項「金属別鉱物リスト」で。