丘を越えて~高遠響と申します~

ようおこし!まあ、あがんなはれ。仕事、趣味、子供、短編小説、なんでもありまっせ。好きなモン読んどくなはれ。

畳の上で死ぬという事

2007年02月15日 | 医療・介護・健康
 父が逝った。在宅で最期を看取った。畳の上で(実際は電動ベッドの上だけど)死ぬという形を取れた訳だ。
 仕事を通して在宅介護に取り組む家庭と向き合う事が多いが、危篤状態になると病院に搬送され、結局は病院で最期を迎える例も少なくない。実際、最期の方になると訪問看護ステーションの看護師から「病院には入院させへんねんね?」と何度か確認された。母も私も覚悟は決まっていたからきっぱりと「家で看ます。」と断言したが、あの時点で心が変わるケースもあるだろう。
 在宅で看取るという事は、思った以上にハードだ。特に「もう駄目かな・・・。」という段階に入ってからは身体もきついが、精神的にもストレスが大きい。
 呼吸が出来なくなる。痰を吸引する。尿が止まる。尿道にカニューレを通す。食事が出来なくなる。鼻から栄養チューブを入れる。また呼吸が苦しくなる。酸素を入れる。・・・そんな日に日に厳しい状態になっていく身内を二十四時間看なくてはならない。病院に入れば、少なくとも、看護師や介護士と分業する事が出来る。責任を分担する事も可能だ。それはきっと家族にとっては救いでもある・・・。紛れもない事実だ。判ってはいたが、私達はあえて在宅の道を選んだ。三十年の締め括りを自分たちでしたかった。
 そういいながらも最期の五日間ほどは本当に見ているのがつらいような状態だった。いつまでこの可哀想な状態が続くのだろう・・・。さりとて止めをさす訳にもいかない。神様、早くこの苦しみから解放してやってください・・・。そんな事を考えずにはいられなかった。
 
 父の呼吸が止まった瞬間、幸運な事に私はその場にいた。トイレにもおらず、台所にもおらず、まさに父の傍らにいる事ができた。とっさに脈の確認をして、次の瞬間にはベッドに飛び乗って心臓マッサージを始めていた。始めてから「これでドクターが来るまで止められない。」とちょっと苦笑いした。
 なんで始めたのか、今でもわからない。心肺蘇生術をしたところで、父が復活するとも思えないし、復活したところで父が救われる訳でもない。苦しい状況がほんの少し延びるだけだ。自分の手の下で、みるみるうちに死相が現れる様を見ながら、「何やってんだろうな、私は。」と思いながらひたすら手を動かすしかない。それでも反射的に自分を動かしたのは医療者としての刷り込まれた職業意識なのか、なんやかんや言いながらも引き止めたいと願う娘としての意識だったのか・・・。多分両方だろうけれど・・・。
 結局ドクターが到着して死亡の宣告をするまでの約四十分間、父の胸を押し続けた・・・。(四日経った今も背中と腰が筋肉痛でバリバリ・・・)

 父のために何をしてあげられたか。そんな事はわからない。もしかしたら、もっと良いやりようもあったかもしれないし、うちの方針に眉をひそめる人もいるかもしれない。きっと正解はないのだと思う。
 でも、私達は納得している。それは父の死に顔が微笑んでいたからだ。その微笑は私たち家族の選択を父は受け入れてくれたのだと思えるような、穏やかな微笑みだった。その微笑こそが私たち家族が三十年かけて向き合ってきたモノなのだと素直にそう思う事が出来る。

 ありがとう。お父さん。
 


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8 コメント

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ご冥福をお祈りいたします (KAME)
2007-02-15 09:18:19
長い間の介護お疲れ様でした。
お父様はきっと満足なさったと思います。

心よりご冥福をお祈りいたします。
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ご冥福をお祈りいたします・・・ (コドモオオトカゲ)
2007-02-15 11:13:06
 きっと、こちらに書ききれないくらい辛い事、悲しい事、悔しい事がおありになったとおもいます。
 
 父上のご逝去を悼み心よりお悔やみ申し上げると共に、
ちえぞーさんのご一家の健康を心よりお祈り申し上げております。
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強く生きる (さるさる)
2007-02-15 18:05:33
 わたくしの立場からあまり言葉を出すのは
難しいのですが。。。おつかれさまでした。。。
ということしか出てきません。。。
ちえぞーさんやお母様のバイタリティーの強さ
は、お父様あってのものなんだなーと思いました。 
だから、これからも強く生きることが親孝行なのかなーと思います。
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ありがとうございます (ちえぞー)
2007-02-15 23:20:03
KAMEさま・コドモオオトカゲさま・さるさるさま
 どうもありがとうございます。意外にも(というか、予想通りというか)妙にさばさばした気分です。「あっさりしたヤツ(怒)」と父には怒られそうですが(笑)。

 父が我が家の中心であった事は事実です。父が家にいたからこそ、我が家にはとてもたくさんの人が訪れてくれました。医療・介護関係者のみならず、私や弟の友人達もなかなか家を出られない私達のために遊びに来てくれました。本当に賑やかな家でした。
 いやはや、隠居生活とはいえ、侮るべからず(笑)。

 父を通して得たモノを見失わないように、自分の人生を歩いて行きたいと思います。

 父よ あなたは偉かった・・・って事でしょうかね(笑)。それを今実感しています。
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ご冥福をお祈りいたします。 (takky)
2007-02-18 20:59:17
仕事でターミナルケアの方の仕事をしました。やはりちえぞー様のように24時間家族がつきっきりで介護にあたりお亡くなりになりましたが、私もこうできたら良いな・・・と思いました。まだまだ、親には長生きして欲しいですが、その時が来た時には長年住み慣れた自宅でと思います。
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ありがとうございます (ちえぞー)
2007-02-18 21:48:14
takkyさま
お久しぶりです。
うちも最期まで来てくださったヘルパーさんが弔問に来てくださいました。
自宅で終末期を過ごせるというのは実はとても贅沢なんですね~。今回しみじみそう思いました。
間違いなく言えることは、体力が要ります。それと交代してくれる家族が複数いればそれに越した事はありません。これ、実感です。
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お疲れ様でした。 (アクア)
2007-02-19 23:45:29
ちえぞーさんこんばんわ。

本当に,お疲れ様でした。

ちえぞーさんが言われるとおり正解など
ないのかもしれませんね。
日々心無い家族に出くわす事が多いのですが
それもひとつの答えなのかもとちえぞーさんの
文を読んでハタと気づきました。
そして,もう少し丁寧に仕事をこなそうと
反省しました。

とにかくゆっくり休んで下さい。
心よりご冥福をお祈り致します。
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ありがとうございます (ちえぞー)
2007-02-21 00:28:37
アクアさま
 お久しぶりでございます。そしてどうもありがとうございます。

この仕事と在宅介護を通して教えられた事は、価値観は本当に百人居れば百通りあるという事と、自分の価値観で接していたら仕事にはならないなぁという実感でしょうか・・・。

なんか、世の中って所詮は自己満足なんだろうな。でも自己満足でも自分が納得していれば、それがその人にとっての正解なんだろうな。人の評価は二の次で・・・。
だから自分が納得する仕事を貫きたいと思うのですが・・・。なかなか難しいものですね。自分の意思の弱さも見えるし(汗)。

お互い、日々精進致しましょうね
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