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有り金が底をつき、オフィスの水まで有料に…窮地のイーロン・マスクがテスラ社員に送った“一本のメール”「人類の未来のために…」――2023年読まれた記事

2024年05月04日 08時27分15秒 | ビジネス

 会社の価値を表す株式時価総額は7961億ドル(約119兆4000億円)で世界7位。自動車業界ではぶっちぎりの1位で、2位トヨタ自動車のおよそ3倍。米電気自動車メーカーのテスラは、その将来性を含め世界の投資家が最も高く評価する自動車会社である。

 だが創業者のイーロン・マスクはそんな評価に何の関心もないだろう。何せ野望は人類を「マルチ・プラネット・スピーシーズ」すなわち「複数の惑星で繁栄する種」に進化させることなのだから。

 核戦争か環境破壊か、はたまた小惑星の衝突か。マスクは人類がそれほど遠くない将来、地球に住めなくなってしまうことを本気で心配している。

 

物事を常人よりはるかに深く突き詰めて考える

 自らアスペルガー症候群の傾向があることを認めているマスクには、物事を常人よりはるかに深く突き詰めて考える性癖がある。 伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著) によると、幼稚園のとき園長に「知的障害だと思われます」と言われたという。

 マスクは1971年、南アフリカで生まれた。父親は山っ気の強い技術者で、ザンビアから輸入したエメラルド鉱石をヨハネスブルグでカットして大儲けした。12歳のマスクを地獄のようなサバイバルキャンプに放り込んだかと思えば、自分の前に立たせ「お前はばかだ、マヌケだ」と1時間も罵倒し続ける。

 こうした環境で育つうちに、マスクの頭の中には「恐れの感情を遮断する回路ができたのでは」と元妻は証言している。

 

 筆者がマスクに会ったのは2013年のこと。楽天グループ会長兼社長、三木谷浩史がシリコンバレーの自宅で開いたホームパーティーを取材した時だ。

 近所に住むフェイスブック(現メタ)COO(最高執行責任者)のシェリル・サンドバーグや、セールスフォース・ドットコム創業者のマーク・ベニオフが子供連れで遊びに来ており、三木谷が焼いたバーベキューのステーキや日本から連れてきた職人が握る寿司を堪能していた。

黙々と寿司を食べる男

 芝生が美しく刈り込まれた庭では三木谷を中心に大きな輪ができ、笑い声が絶えない。ふとプールサイドに目をやると、その輪から数メートル離れたところにポツンと立ち、黙々と寿司を食べる男がいた。一緒にいるのは秘書らしきブロンドの女性だけだ。マスクである。

「どうかしたのか」と気を回した三木谷が、楽天の役員の中で一番英語が上手い百野研太郎をマスクのところに行かせた。ほどなく戻ってきた百野はこう言った。

「秘書曰く、イーロンは十分にパーティーを楽しんでいる、ということです」

 自分が執着するテクノロジーやビジネスに対しては驚異的な集中力を発揮するが、その場の雰囲気に合わせてそれらしく振る舞ったり、相手に話を合わせたりするのは極端に苦手なのだ。

30歳の時の決意

 マスクが人類をマルチ・プラネット・スピーシーズにする、と決意したのは30歳の時だ。インターネットの黎明期に起業家としてのキャリアをスタートさせたマスクはデジタルの職業別電話帳やネット銀行のベンチャーを立ち上げ、それらの会社を売却してビリオネアになった。

 次は何をするか。もともと宇宙やロケットに関心があったマスクは「火星探査」と検索して驚愕する。火星探査もまもなく実現するのだろうと思い込んでいたが、人類の宇宙開発は月で止まっていた。

「ならば自分が」と思ってしまうところがすごいところだが、挑戦する前に「できっこない」とあきらめる思考回路は頭脳に組み込まれていない。

 

 とはいえ、いきなり自分でロケットが作れると思うほど傲慢でもない。最初はロシア製の古いロケットを買おうとした。そこでロシアの政府関係者に小馬鹿にされ、「だったら自分で作ってやろうじゃないか」と闘争心に火がついた。2002年にロケット打ち上げの会社を立ち上げる。現在のスペースXである。

「俺にも一枚噛ませろ」と1万ドルを出資

 できたばかりのベンチャーで宇宙を目指す。それだけでも常軌を逸しているし、凄まじい起業家精神だが、スペースXを立ち上げてまだ1年しか経っていない2003年、マスクはバッテリーだけで走る自動車の開発に取り組んでいた数人のグループと出会い、電気自動車(EV)というアイデアに魅せられる。「俺にも一枚噛ませろ」と1万ドルを出資した。

 EVベンチャーの業界とつながりができ、2004年には別のグループに創業資金を提供し、会長に収まってしまう。テスラである。マスクにとって、温暖化ガスを撒き散らすガソリン車からEVへのシフトはある種の必然でもあった。

夜な夜な「叫んでは吐いていた」

 だがここから地獄が始まる。2008年までにスペースXは3度連続でロケット打ち上げに失敗。テスラもEVの量産に苦戦して、有り金は底をつく。弟のキンバルが銀行に担保として差し入れていたアップル株を売らせてテスラ社員の給料を払うところまで追い込まれた。

 普通の人間なら壊れる。2番目の妻は伝記の中で、この頃のマスクが夜な夜な「叫んでは吐いていた」と証言している。だがこの逆境は、マスクの集中力を極限まで高めることなり、痩せ細って足の指に力が入らず、まっすぐ歩けないようになっても精力的に仕事をこなした。

社員に送った一本のメールに書かれていたのは…

 伝記には書かれていないが、この頃、テスラではそれまで無料だったミネラル・ウォーターが有料になり、社員の多くが「この会社も、もうそれほど長くない」と感じていた。このときマスクは社員に一本のメールを送っている。

「上司のために働かないでください。人類の未来のために働いてください」

 普通の人付き合いは苦手でも、熱い男だから、多くの才能ある人々がついてくる。スペースXは4度目の打ち上げで成功し、NASA(米航空宇宙局)から16億ドル(当時約1600億円)分の打ち上げ契約を取り付ける。テスラも量産に成功し、世界で最も価値のある自動車メーカーになった。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2024年の論点100 』に掲載されています。

(大西 康之/ノンフィクション出版)

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